17話 父親とシャーベット
「なぁ、樹。お前の友人でたくさんご飯を食べられるやつはいるか?」
夕食の時間。俺は父さんに話しかけられる。
母さんほどめちゃくちゃしゃべる感じではないが、普通の会話くらいはするし、いろんな美味しい店を知っているグルメだ。あのシャーベットと一緒にいったラーメン屋さんも父さんの推薦である。
父さんと俺の会話のほとんどは飯の話。だが、このように話しかけられるのは珍しい。
「急になんだ?」
「父さんがよく行ってる中華そばの店があるんだが、そこのポイントがたまってくじを引いたんだが、そこで1等を当ててな」
「すげぇじゃん。何もらえるの?」
「チョモランマ級海鮮五目焼きそばが食える」
「なんかやばそうだな」
実物を見なくてもデカそうなネーミングである。
「ちなみに実物はこれだ」
「やべぇな」
実物を見てもっとやばそうなのがわかった。
麺だけで約900gが山盛り。その山から皿まで届く超特大エビがなんと8匹。その麺が完全に隠れる量の野菜が12種類をオイスターソース炒めで作ってある。どういう構造で立っとんねん。
「これは3人で1つ注文が可能で、成功すれば1万円だ。これに挑戦するには、本来スタンプをこのくじを引く場合のさらに5倍をためて初めて挑戦できるんだ。俺はデカ盛りを食えるほどではないが、せっかく当たったのに、もったいないからな。もしお前の友人にこれに挑戦できるやつがいるなら、誘ってもいいかと思ってな」
「たくさんの人間でいくのはダメなのか?」
「別にいいが、4人以上だと賞金が出ないだけだ。それだとせっかく作ってもらうのに、盛り上がりに欠けるだろうと思ってな。賞金がかかるときは、制限時間60分で、失敗したら5千円取られるからやる人も少ないらしい。だから、そういう楽しみをやってみたいと思ってな」
「なるほど」
店にとって、これは本来なかなか作るものではない。となると、どうせ作るなら楽しみがあったほうがいいに決まっている。食で楽しく過ごしている父さんらしい発想だ。
「とはいっても、食べ物を無駄にするのはよくない。お前に心当たりがないなら、やめておくが」
「いや、心辺りはある。そいつが都合がつけば」
「よし、じゃあ今度の週末に家に呼んでくれるか?」
「家か……、来ないか? いや、飯の件なら来るな」
俺は次の日、シャーベットが1人になるのを見計らっていた。
もちろん心当たりとはシャーベットのことである。
「おいシャーベット」
「私はシャーロットよ! 橘って呼びなさい」
まいどまいど丁寧に言ってくれるな。そろそろ折れてくれないものか。
「まぁ今日はお前にとっていい話を持ってきた」
「いい話?」
「実はさ。俺の父さんがさ」
俺は細かい事情をシャーベットに伝えた。
「え! あのお店の!」
まさかのシャーベットは知っていた。さすが麺類グルメ。
「有名だったのか」
「もちろんよ! 中華の味は抜群で好評だから前から行きたかったわ」
「行けよ」
「それができたら苦労はしないわ! 美味しすぎて量を食べるのがやめられかったらはしたないじゃない」
シャーベットって大食いであることをすげぇ気にしてるんだな。別にそれくらいならいいと思うんだが。
「じゃあ来ないか?」
「行くわ! まともに通っても5年くらいかかって初めて食べられるそれを避けるのなんて愚よ愚!」
「じゃあ悪いが、土曜日の10時くらいに来てくれるか?」
「ええ、しょうがないから行ってあげるわ! 桐林くんが誘ったからよ!」
いちいち免罪符を欲しがるんだな。まぁいいけど。
「それにしても素敵なお父様ね……。いろんな美味しいところを知っていらっしゃるなんて」
「この前のラーメン屋もそうだったからな」
と、いうわけで土曜日。俺は父さんと一緒にシャーベットを待った。
「ご、ごめんなさい! 待たせちゃったかしら!」
「いや、別にいい。父さん行こう。……父さん?」
父さんがシャーベットを見て俺と二度見を繰り替えす。
「お前……! どうやって外人を愛人にしたんだ」
「いや、愛人じゃねぇし、というかハーフだし」
「関係ない! どうやって中の下のお前が、こんな上の上と仲良くなれる!?」
この似た者夫婦が。息子への愛情はないのか。
「は、はじめましてお父様。私は橘=C=恵梨香と申します」
「あ、はい。樹の父です。本日は来ていただいてありがとうございます。し、しかし、今日のご用件はご存知ですよね」
何で父さん敬語やねん。
「はい、お誘いありがとうございます。楽しみにしています」
「……おい、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。父さんの心配はたぶん必要ない」
なんだかんだで、俺と父さんとシャーベットは父さんの運転する車に乗り、目的地へ向かった。
「お待たせいたしました! チョモランマ級海鮮焼きそばです! 制限時間は60分です! スタート!」
そして店で父さんがカードを使って、注文すると、2人がかりで目の前に運ばれてくる。
俺たちの前に置かれたのは、一応映像としては知っていたが、改めて巨大であった。
どれくらい巨大化というと、俺たちは4人席に座っていて、俺とシャーベットが横、父さんが反対側に座っているのだが、父さんの顔が隠れるくらいなのだ。
前衛的芸術というか、要塞みたいになってる。
さすがに不安になって俺はふと横を見る。
「わぁ~」
目をキラキラさせて実に興味深そうである。
「と、とりあえず取り分けをしよう」
父さんが取り皿にまず3人分取り分ける。
とは言っても、エビをどかして、野菜をのかしただけで、取り皿がいっぱいになってしまいまだ肝心の麺が見えていない。
しかも見た目そんなに変わってないし。でかすぎだ。
「とりあえず、一口! うーん、美味しい」
さっそくエビを口にし、いつものキラキラ笑顔になる。
「……俺たちも食うぞ」
「ああ」
父さんがシャーベットに見惚れてなかなか箸が進まなかったので、俺も促す。
うん、確かに上手い。どうやら量だけでなく、食材もいいものを使っているようだ。思ったよりは食えそうだ。
しばらくは夢中になってみんな食べてはいたが、さすがに3杯目くらいにお腹になかなか来た。というより、味付けが濃いのでなかなか厳しい。
「おお、恵梨香ちゃんだっけ、すごいな」
俺が3杯、父さんも3杯だが、すでにシャーベットは6杯。しかも1杯辺りの量が多いので、先ほどまで見えてなかった父さんの顔がすでに見えている。そしてその父さんが困惑している。
普段冷静な父さんの困惑顔が見れるとは、今日は珍しい日だな。
「いえいえ、美味しいから食べれます!」
すでに半分が消失しているのに、時間はまだ20分も経っていない。店員や周りのお客も仕事や食事を止めて、こっとを見ている。いや、仕事はしろ。
「夢みたい……」
「橘の夢は食事のことだけか?}
「失礼ね! そんなこともないわ。白馬の王子様が迎えに来てくれるのも夢よ」
「それこそ絶対にかなわないだろう」
「それじゃあうちの息子じゃ厳しいかね。せいぜいこいつじゃ自転車くらいが限界だ」
「せめて車と言えんのか」
「そうですね……。桐林くんでは失礼ながら、せいぜいおじさまが限度かと」
「はっはっは、面白いことを言うね」
俺いじめをシャーベットと父親が言ってくる。俺の味方はおらんのか。
そう言っている間にも、どんどん山が崩れていき、20分を残して食されてしまった。
普通に会話もしてて、どうやったんだ。
「本日はありがとうございました」
「いえいえ、私も君みたいな可愛い子と食事ができて楽しかった。もしよければ、今後も樹と仲良くしてくれたまえ」
「……桐林くんですか。まぁ余計なことをしなければ悪い人ではないようですから、また食事くらいなら」
「そうですか。ありがとう」
そして家までシャーベットを送り、俺と父さんとシャーベットという特殊なデートは終わった。
「なぁなぁお前」
「何かしらあなた?」
「最近さ、樹に仲のいい女の子ができただろ?」
「ええ、知ってるわ」
最近俺の両親の話題に、俺の友人女子がよく出るようになった。
「正直樹にはもったいないよな」
「ええ、上の上と下の下よね」
下がっとるやないかい。
「いい子だもんな。食べ物を愛してる感じで」
「ええ、とても上品だわ」
さて、問題となるのは、この2人指してる人間が異なるのだ。
なまじ仲が良いものだから、普段からツーカー会話でほぼ主語がないのだが、そのせいで完全にお互い誤解をしている。
父さんはシャーベットをお気に入りで褒めていて、母さんは柏木をお気に入りで褒めているのだが、なぜかかみ合っている。
まぁめんどうくさいから誤解解かないけどね。




