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16話 母親と柏木

「まさにシンデレラドリームだったな」


先週のお祭りから一週間、別にシャーベットの態度が軟化するわけでもなく、また2人の女子から嫌われる生活に戻った。


そしてこの休みにまた1人で歩いていると、カップルがまた眩しくなる。


先週はシャーベットと一緒にいたから妙な高揚感があったが、あくまでも俺とシャーベットの関係は友人以下なのである。継続性がない。


……正直あれ以上シャーベットとの関係をよくする方法がわからん、みんなどうやって彼氏彼女の関係になっているのか。やはりナンパか。


「へーい彼女。一緒にどっかいかない」


そしてやはりナンパが聞こえる。そういうことはせなならんのか。


「うっせー! どっかいけ」


断られてる。しかし俺は彼をださいとは思わない。勇敢な挑戦者だ。


つーか、断ったやつ柏木じゃん。何してんだここで。


「おっす柏木」


「うっせー! どっかいけ!」


さっきの勇敢なナンパ男と同じセリフをやや強い口調で言われた。俺の好感度彼以下か。


「なんだお前か」


よかった。俺という認識がされていなかっただけだ。きっと2回目だから口調が強かったんだ。


「はぁ、ナンパばっかでめんどうくさい」


「そりゃ休日の午後にこんな人通りの多いところで座ってたらされるわ」


しかも、また相変わらずかわいらしい私服だしさ。しかもシャーベットと逆で明るい色ばかりでより目立つ。ナンパが嫌ならせめて地味な恰好しろよとは思っても言わない。


「はぁ」


しかしちょっと元気がないな。どうした。


「何してたんだ?」


「は? あんたに関係ないし」


「関係ないが、単純に聞きたい。教えてくれないと帰らない」


「めんどうくさいな……。はぁ。今日の午前はトレーニングしてた」


「どっか行ってたのか?」


「ジム行ってた。ただで入れる券もらったから」


「自分磨きお疲れ様です」


「今日は部活休みだからさ。ただ……」


「ん?」


「…………やっぱいい、関係ない」


「そこまで聞いたら教えてくれよ。気になってめちゃ電話するぞ」


「わかったわかったって。家のカギを忘れて家に入れないんだ。だからここでどうしようか考えてたのに、考える前に邪魔がいつも入る。そしてお前もその邪魔なやつの1人だ」


「そうか、じゃあゲーセンとかファミレスにでも行きゃいいじゃん」


「今持ち合わせも少ないし、おこづかいもピンチだしさ」


「じゃあ図書館にでも」


「あんな静かな場所は嫌いだ」


「じゃあどうしようもねぇじゃん」


「八方ふさがりってやつだ」


さて、どうすっかな。金でも貸してやるか。


いや、絶対こいつ断る。シャーベット以上に素直じゃないからな。そのくせ律儀でプライドが高いから、借りを作るのも嫌がるに違いない。こいつは基本的に俺の善意を悪意としか受け取ってくれないからな。


「何時くらいに親は帰ってくるんだ?」


「19時くらい」


と、いうことはあと7時間くらいあるな。俺にもいい対応策がない。


うちに呼ぶか。6時間くらいならいけるだろう。


「は!? 何言ってるんだ? なんでお前の家に行かなきゃいけないんだ」


しまった。また心の声が漏れた。どうせ漏れるなら。お金を貸すとかそういう件が漏れろよ。


「いや、違うぞ。言いたいことはわかるが、これは一応善意で言ったことだ。もとい言うつもりもなかった」


「違わない! 私は女であんたは男なんだ! それだけで問題なんだ」


「へー。柏木って俺のことをゴミくらいにしか見てないと思ったけど、ちゃんと男として認識してくれてるんだな」


「はぁ! 何うぬぼれてんだ! あんたは仮に女でも危険だし!」


「はいはい」


「絶対今変なことを考えてる」


「待て、それは否定しただろ」


「きっと今心身ともにちょっと弱ってる私につけこんで、汚い部屋に押し込み、私をもてあそんで、最後は嫌がる私にあんなことやこんなことを」


「待てや。人の部屋を勝手に汚い部屋にすんな」


「そこを否定するってことは、やっぱりいやらしいことを……」


「違う違う!」


こいつの言うことが生生しすぎて、つい一番耳に残ったところを否定してしまった。俺は部屋はきれいにしてるんだ。


「やっぱ男はスケベの塊だ。信用できない」


あーあ、もうこうなったらダメだ。しかたない。シャーベットあたりにでも電話して、俺あいつの番号知らないわ。


「大体あんたの余裕な感じが気に食わない」


「まあそこは経験の差だ」


「持てない男が何か妄言してる」


「うぐっ」


柏木の暴言は大体大丈夫だが、それは心に傷がつく。


「とにかく! あんたの世話には絶対ならない! 迷惑かけるのも悪いし!」


めちゃ怒鳴ってるけど、要はそういうことか。根本的にいいやつだからな。性格がひん曲がってるだけで。最初から迷惑かけるのが悪いといえば、可愛げがあるのに。


しかしここからどう展開すればいいか。迷惑かけるのが悪いとなると、正直シャーベットに頼るといって、同じ断り文句で断られるかもしれないし、シャーベットもいいやつだから、実際何か用事があっても併せてくれるかもしれん、それは俺もよしとしないところだ。


俺は実際に何もないのだから、迷惑でもないのだが。


「あらあら!? 何々、樹ちゃん! その子は誰かしら!」


俺の耳に聞きなれた女性の声が聞こえる。とは言っても。彼女とかではない。


俺の母さんだ。いまだに父さんと仲のいい、正直言うと、尊敬する両親だ。恋愛結婚だし。


「愛人? 愛人でしょ!」


「なんで彼女という選択肢がないんだ」


「樹ちゃんみたいな中の下男子に、こんな上の上みたいな彼女ができるわけないでしょ!」


「それが息子にいうセリフか!」


「息子だからよ……」


やめてください。そんなに急に真顔で言わないでいただきたい。


「ねぇあんた。この人って」


「不本意ながら俺の母です」


「はじめましてー。母ですー」


フランクな自己紹介。うちの母のコミュ力が異常である。


「あ、はい。はじめまして」


「でも樹ちゃん、実際には彼女じゃないんでしょ」


「まぁ違うな。というか友人関係ですらない」


「で、彼女はどうしてるの?」


「家が空いてなくて、鍵もなくて入れなくて、鍵もなくてどうしようもないんだってさ」


「へーへーへ~。ねぇあなたお名前は?」


「えーと柏木梓です」


「梓ちゃん、あなたのご両親の連絡先を教えてくれるかしら?」


「え、何で?」


「うちに来なさい! ぜひ私が可愛が……じゃなくて、女の子が1人は危ないわ!」


「あきらめてくれ。こうなったら俺でも無理だ、うちに来てくれ」


「まじか……」


可愛い女の子が好きで、おせっかいなうちの母親が少なくとも見た目は完ぺきで、俺の困っている知り合いを放っておくわけがなかった。


こうしてまさかの逆転により、柏木は俺の家に来ることになった。


「おじゃましまーす」


俺の家はマンションの4階。もちろん俺の友人の女子を読んだことなどないので、俺も緊張する。


しかし、それ以上に柏木の緊張がやばい。背筋をピンと張って足がうまく動いていない。


「やっぱ柏木って男子の家に上がるのは初めてか?」


「というより、友人の家に上がること自体初めてだ」


「まじか。じゃあ俺が柏木の最初の男か」


「言い方考えろよ!」


ちょっと元気になった。そうか、突っ込みをさせればいいのか。


「じゃあちょっとおかしとお茶でも準備するから、部屋で待ってて」


「部屋!? 俺の部屋に柏木を入れろっていうのか!?」


「頑張って!」


「頑張れない! 柏木も嫌だよな!」


「……この家のルールなら従う」


いや、ここは断れや! 柏木が否定してくれないと流される!



「はい、ここが樹ちゃんの部屋よ、ゆっくりしててね」


流された。


「…………悪いがここが俺の部屋だ」


「へー、案外片付いてるな」


柏木が案外緊張していない。どうやら羞恥心よりも興味度のほうが高いらしい。きょろきょろ眺めて落ち着かないが。


「じゃあちゃんと準備できるまで、お客様を接待しててねー!」


そして母が出ていき、俺の部屋に俺と柏木2人きりになる。


ここで沈黙すると気まずくなる。幸いここにはゲームでも漫画でもいろいろある。時間はつぶせるはずだ。


シャーベットは俺と案外趣味があったが、柏木は本当に趣味がわからん。


「あ、変なことされそうだったら、呼んでね。叫んだら来てあげるから!」


「母さん!」


「あ、同意なら野暮なことは言わないから」


「うるせー!」


おせっかい母さんを追い出した。


「よし、ゲームか! 漫画か! それともお笑いか!」


俺の部屋のものを持って宣伝する。


「…………」


「おーい、何で隅っこで固まってんだ」


誰だこの人。


「しない?」


「お、何かしたいのか?」


「変なことしない……?」


「いやしねぇよ! 母親いんだぞ!」


ここで問題が起こったら、俺は実家を出にゃならんくなる。


「ちょっとは信用できんのか?」


「できない」


「即答かよ」


「ああ」


「まったく、せっかく来たんだから、楽しんどけよ。そこまで信用してないんなら、ロープを使ってもいいから」


これだけ言えば信用してもらえるだろう。


「わかった。じゃあ縛るから持ってきて」


「やるんかい!」


「冗談だよ。わかった信用する」


「よかった。じゃあとりあえずラノベでも読め。最近橘に進めた本だ」


「えー。字の本とか読まないんだけどな」


「じゃあそれの漫画版だ。それが気に入れば読めるし、橘と話す話題もできる」


「まぁそれくらいなら」


というわけで、柏木に本を貸した。


そのままずっとはまって。結局本を借りていく話になるのであった。


「ちょっとー。少し手を貸してくれない?」


そんな状態で、母さんが俺を呼んだ。


「わ、私が手伝いに行く! お世話になってばかりじゃ悪いわ」


そして柏木がキッチンに行くので、俺も居間で待つことにした。


「あらあら、お客様なのに~」


「い、いえ、私普段から家事とかしますので、得意なんです」


「へー。あらほんと手さばきいいわねー」


そうか、柏木は割と家庭的なのか。


母さん楽しそうだな。そういえば俺の前で実は息子より娘が欲しかったとかいう心無いことをいってくれましたね。


そのまま母さんと柏木の手作りの菓子をいただいた。すげぇ上手かったけどさぁ。


そのまま柏木の両親が返ってくるまで、母さんがご機嫌で柏木に絡んでいた。









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