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閑話休題~何がどうしてこうなった~

陛下視点になっています。

デルフィティアとの待ちに待った婚礼の日取りを約半年後に控え、私はちょっとした悩みを抱えていた。



ちょっとした悩み?



いいや、私にとっては国政と同等の深刻な悩みなのだが、周囲にはきっと理解されないに違いない。

理解はしてもらえたとしても、鼻で笑われるとかそんなどうでもいい悩みで深刻ぶるな、という反応が目に浮かぶようなので、あえて強がってちょっとした悩みだと思い込もうとしている。



思い込もうとしているのだが。


気がつけばそのことに思考が囚われており、重要書類の内容も頭に入らず上滑りする始末。

先般は会議中に上の空になっていたのを重臣たちに気取られてしまった。聞いている振りをして「良きに計らえ」とおうように頷いていたら「デルフィティアさまとの婚姻を延期しましょうか」との問いにもウッカリ「良きに計らえ」と答えそうになっていた。危ない危ない。しかも重臣たちはニヤニヤとしていた。

私はデルフィティアとの婚儀を指折り数え楽しみにしているのだぞ!出来ることなら明日、いや今日、今すぐにでも婚儀をあげたい。延期だなんてもっての他だ。




そう。

なぜ重臣たちから、からかい混じりに「婚姻の延期」という言葉が出たのかというと多分原因はアレだろう、と推測している。


デルフィティアの婚儀用の衣装がなかなか完成しないとの報告があったのだ。

なぜなかなか完成しないのか。

十分予想できたことだったのだが、デルフィティアに全くやる気がないらしいのだ。


採寸の時は嬉々としていたようだ。

問題はその後。

デザインの希望もない。色の希望もない。

一生に一度のことなのでなるべくデルフィティアの意向に添うようにと、衣装担当に伝えていたのが裏目に出てしまった。


自分の衣装はそっちのけで、男性用の衣装に興味津々だとの報告も受けている。もしかして私の衣装を気にかけてくれているのだろうか。

国をあげての婚姻の儀なので国家の威信がかかってはいるのだが、王族らしい衣装という前提のもとでデルフィティアの好きな衣装にしてやりたかったのだ。

私にとってもデルフィティアにとっても重要な日なのだ。


何より私がデルフィティアの花嫁衣装を楽しみにしている。

私の隣で私のための花嫁衣装を身に纏い、私と共に永遠の愛を万民の前で大神官と精霊の名のもとで誓う。


なんと素晴らしいのだろう!


楽しみすぎて夜も眠れないほどだ。

まるで子供?

いいではないか。それだけ楽しみなのだ。



で、肝心のデルフィティアの花嫁衣装はまだ仮縫い状態なのだ。

本当なら準備期間も十分あったし、そろそろ完成して微調整に入っていても良い頃だ。

それがこの体たらく。

日程に間に合わせるためにはデルフィティアの意見を聞くのではなく、こちらで勝手に準備を進めなければならない事態になってきた。

ううむ。



そしてデルフィティアの意見と言えば。


それこそ今さらなのだが、デルフィティアはこの結婚をどう思っているのだろう。



(微妙な間があったが)プロポーズには頷いてもらえているし、その時に「愛している」と気持ちも伝えている。一度だけしか言っていないが、そんなに何回も言うものでもないだろう。ありがたみが薄れるので一度で十分だと思っている。


思いあぐねていると、私の警護をしてくれている騎士の一人であるリカルドから「目に見える愛情も必要っスよ」とありがたい助言をもらったので、早速実行に移してみた。

「愛している」の大安売りをしない分、他でバランスを取ればいいのだな。



まず手始めに、なかなか自分から宝飾品をねだったりしないデルフィティアのために金剛石のネックレスを用意させた。

若木のように清涼でスッとしたデルフィティアには、ゴテゴテとした装飾過剰なデザインよりもシンプルな方が似合うと思い、小指の爪の先ほどの金剛石を三連にしたものを贈った。

私の贈ったネックレスを身につけるデルフィティアを想像しただけで気分が浮き立つ。彼女が私のものだ、と主張しているようで気分が良い。

そのネックレスを贈った翌日、珍しくもデルフィティアから色々な種類の宝石が欲しい、とねだられた。宝飾品に興味がなさそうでも、そこは年頃の女の子らしくやはり宝石が欲しかったのかとすぐさま各種贈った。

…が、一週間ほどですべて私の手元に戻ってきた。何故だ。


侍女の一人を捕まえて問いただしたところ、デルフィティアが金剛石を光にかざした時にふと思い立って(昔からこれが曲者なのだ)各種宝石で光の屈折率や反射がどう違うのか実験していたらしい。

どうりで宝飾品として加工していない裸石を希望したわけだ。カットしただけの大粒の宝石を欲しがるのでおかしいとは思っていた。


それからしばらく私は「寵姫に贈った宝石を突き返された国王」とかわいそうな物を見る目を向けられていた。

…………釈然としない。




宝石が駄目なら、と南国から来た使者がたいそう希少で珍しい花を持ってきたのでデルフィティアに献上させた。植物に興味があるデルフィティアならきっと喜ぶだろうと思ってのチョイスだ。宝飾品ではなく最初からこちらにすれば良かった。

案の定デルフィティアはたいそう喜んでいたらしい。

…が、詳しく聞いてみると、デルフィティアはこっそり花を食べていたらしい。何故だ。


さらに詳しく確認してみたところ、見たことも聞いたこともない花だったため(王宮所蔵の植物辞典にも記載がなかったようだ)何かしら薬効がないかと試したらしい。

自分で試すな。

幸いにも体調不良などの報告は受けていないが、それでも毒性がないか確認もせずに側妃ともあろうものが口に入れるなど!万が一があってからでは遅いのだ。デルフィティア本人に注意したら「だって大丈夫と思って~」「その根拠は?」「勘」。

確かに野生の勘は獣並みだが、安全性の確認されていない植物をいきなり食べては駄目だろう。どっと疲れた。


しばらく私は「寵姫が空腹に耐えかねて花を食さねばならないほど食事も与えない国王」と蔑みの目を向けられていた。

……………理不尽だ。




とまあこんな具合で「目に見える愛情」とやらは、デルフィティアという強敵を前に完敗した。


再び思いあぐねていると、またもやリカルドが「押して駄目なら引いてみたらどうっスか?」と助言をしてくれた。

リカルド、天才だな。

さすが私の側妃だったマトリカを嫁にしただけのことはある。

リカルド曰く「そばにいて当たり前と思っていた相手がいなくなって、相手の存在の大きさに気づくこともあるンスよ。陛下も側妃さまにべったりしてるんで、ここは一つちょっと距離を置いて、……例えば別の女の影をちらつかせてみたらどうスか?案外嫉妬してくれるかも」とのことだった。



ちょっと想像してみる。

私のために嫉妬してくれるデルフィティア。

いいなそれ。

これを切っ掛けに二人の仲がますます深まったり………。(色々と妄想中。)


よし。その案、採用しよう。




しかし。

何がどうしてこうなった。



マリーエンをアベンティーノに来訪させたいという姉上からの手紙はタイムリーなものだった。

これ幸いにとマリーエンに事情を説明し、協力してもらうことにする。

私は涙を飲んでデルフィティアに会う回数を減らし、代わりにマリーエンに会った。私とマリーエンが親密だと噂を流し、だめ押しに私とマリーエンが二人でいる場面をわざとデルフィティアに見せる。


そう、ここまでは計画どおりだったのだ。


計画ではここで私への気持ちを再確認したデルフィティアが「そんな女じゃなくて私だけを見て!」と可愛らしい嫉妬をして「何を馬鹿なことを言っている。私にはデルフィティア、お前だけだ」「陛下!」「陛下ではなくアルブレヒトと名前で呼んでくれ」「(頬をうっすらと染めて恥ずかしげに)………あ、アル…アルブレヒト」(以下しばらく陛下の妄想が続きますが割愛させていただきます)


あんな未来やこんな未来が待っていたはずだったのだ。

どっちに転んでも薔薇色の未来が。

私とデルフィティアの二人で創る輝かしい未来が。



結果から言えばデルフィティアは後宮から脱走した。いつかはやるだろうと予測はしていたのだが、何故今このタイミングで脱走するのだ。

まるで私から逃げ出したようで正直なところちょっとへこんだ。


行き先の予想はつく。

兄のロルシュのところに押し掛けるか、(認めたくはないのだが)ライナスに会いに劇場に向かうかの二択だ。

双方に秘密裏に騎士を向かわせた。直にデルフィティアについての報告がなされるだろう。そう思っていた。

しかし待てど暮らせど報告はない。

デルフィティアには他に王都に知り合いはいないはずだ。何かまた厄介事に巻き込まれている可能性が高いと判断して、王都の警備兵に極秘で捜索をさせることにした。

デルフィティアが心配なのはもちろんだが、厄介事に巻き込んだ相手も心配だ。何せ相手はデルフィティア。常識の斜め上に突き進むのが特技だ。

双方の心配をしていたら、思わぬところから情報が入ってきた。



なんとマトリカの屋敷にいたらしい。

それは予想外すぎて読めなかった。


デルフィティアの足取りはその後不明だ。

デルフィティアは今どこで何をしているのだろう。



早く私のところに戻ってこい。

そなたの居場所は私の隣なのだから。







お読みいただきまして ありがとうございました。


陛下のおバカが加速しています。これでいいのか、陛下。国の未来が心配になります。あくまでコメディなので!

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