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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
一章
20/61

断片

「――にしても、悪かったな。巻き込んで。――試合も近いのに」



 ローエルは乱れた金の髪を掻き上げて派手な両眼で私を覗き込んだ。その視線に何となく心が浮足立って私は思わず視線を反らしてしまう。普段残念すぎるので忘れていたのだ。彼の顔は整っている事を。兄様の人形の様に整い過ぎた顔では無く柔らかみがある顔だ。兄様は『きれい』だけれどローエルは『かっこいい』がしっくりくるだろうか。その横顔は幼さが混在してまだ可愛らしい。であるのでふとした瞬間――特に『残念』を忘れ去っていたりすると――心臓が跳ねる。悔しいことに。



「当たり前です。護衛もつけずこんなところにのこのこと。馬鹿なのか? ――いや、馬鹿なんですね」



「黙れ魔王。護衛は大抵ここの生徒は付けていないだろ? 俺だけじゃねぇし」



 この学院は貴族子女が集まっている。言わばある意味『宝物の宝庫』だった。


 権力。


 富。


 世界を動かし揺さぶる者たちが集う。故にこの学院は強固な警備態勢が引かれていた。すでに私は気にならなくなったけれど廊下には常に重装備の兵士が立っていたし、教室には必ず一人剣を腰に差した軽装備の男が控えていた。学院――というより王城を含めた敷地――は高い塀に囲まれ人の出入りは制限されている。



 当然だが外から来る者には許可が必要とされた。であるので外から入るのには結構な労力と時間。又は内通者が必要になるためここでの『こういった犯罪』は無きに等しい。私が知っている限りでは創立以来二、三度と聞いている。



 そのため貴族子女が警護を連れてくるのは禁止されていないにしろとても珍しいことだった。おそらくリュートでさえ付けていないだろう。



「大方。勝てると思ったんでしょうね? ――ここに来ることができるのは精鋭か愚者かと僕は思うんだけどね」



 馬鹿にしたように鼻を鳴らす魔――兄様に言われたことが図星だったらしいローエルは微かに頬を朱に染めた。なまじ肌が白いのでありありとそれが分かる。奥歯を一度ギリリと噛んだ後、兄様を一瞥する。



「もう一度言う。黙れ、魔王」



「ま、ま。あのね? とにかく先生を呼ばないと――兵さんたちか」



 何だか緊迫を交えた空気に胃の痛みを感じて私は慌てて会話を軌道修正した。ともかくここで立ち話をしていても仕方ないだろう。辺りに転がる生々しい遺体。意識的に見ないようにして兄様に目を向ける。



「それもそうですね。こんなところにライラを置いておけませんし――では」



 兄様はおもむろに懐から小さな笛を取り出した。銀色の光を放つ笛。口許に這わせると息を大きくそれに向けて吐き出した。



 空間を裂くような甲高い音。それが学院全体に響き渡る。それを返すようにしてどこからか同じような音が聞こえて来た。おそらく場所を探っているのかもしれない。ともかくそのやり取りが続いた後で微かに校舎が騒がしくなったのを私は感じていた。



「いや、それを最初から使えよ――見てたなら」



 隣で頭を抱えながらら呻く様に言うローエル。微かに『こいつはやっぱり倒すべき敵だよな』などとブツブツ言っているが気にしないでおこう。しかしながら私もその言葉には心底同意をしてしまう。兄様がいつからいたのかは知らないけれど初めからいたなら使ってくれればいいのに。――ならこんな事にはならなかったはずだ。



 この人たちは――自業自得と言え――死なずにすんだかも知れないのに。



「兄様、それがあるなら――」



 私は責める様に見たが兄様は肩を竦めて見せた。『何が悪いのか分からない』そう言いたげな表情で。そうだよね。こういう人だ。分かっているけれど割り切れない思いがそこには横たわる。



 兄様は、『ああ』と思いついた様に口を開いた。



「だって、僕はライラにかっこよいところを見せないとね。兄だし」



「……うわぁ」



 当然。そう言いたいげに拳を握りしめキラキラしている兄様。それとは対照的な引き気味の声だった。それを言ったのは私なのかローエルなのか。凍り付いた空気と脳の間でそれがどちらの物だったのか私にはよく判別がつかなかった。ただ。ローエル。可哀想な子を見る眼で見るのはやめてほしい。



 それを言うならお互い様だ。そう言いたかったけれど。言える筈も無かった。





****


 ――差し伸べられた手は細く、小さかった。けれどその笑顔は眩しくてとても温かい。とてもではないけれどその手を取ることは出来なくて――その温かさに触れれば二度と戻ることができない。そう分かっていてたから少女はそれに触れようとはしなかった。それでも――いくら拒否しても差し昇られる手。彼女はどこか頭の隅でずっと願ってた。憧れていた。



 『自分』でなければ、あの手を取れるのだろうか。と。



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