聴取?
「――で、聞いてます?」
声に私は我に返っていた。目の前にあるのは美麗な顔。金の髪が頬に掛かるくらい近くて私は思わず身を引いていた。
兄弟そろって心臓に悪い。私は小さく息を吐き出す。
「ソルト様?」
どうしてここに居るんだろう。ぼんやりしていた為、一瞬分からなかったが、『ああ』と呟いていた。ここは学院の中に置かれている取調室――一般に言う窮屈で冷たい部屋では無く貴族用にあしらわれている応接室――のような処。あの事件の後ほとんど騎士団のみなさんに拉致されるように連れてこられたのだ。
よく分からないまま強制的に入浴と着替えを済ませた私の後で、ここに入って来たソルト様は私の手前でゆるりとソファに腰を掛けている。その横にはいつか見た熊のような大男。背を伸ばし立っていいる。そう言えば昔見たような無精ひげはすっかり無く、すらりとした顎のラインしていた。どちらかと言えば精悍な顔つきをした二十代後半の男だ。
滅多に踏み入れることの無い場違いな所。私は落ち着かない思いで辺りを見回した。広い部屋。なんだか高そうな調度品。坐っているソファーなど私のベッドよりふかふかでとても心地が良い。
ポンポンと心の置き所なくクッションを叩く。そうして、やっと落ち着きが知り戻せたようなそんな気がした。
であるのでようやく心の中で引っかかっていたものが私の唇から零れ落ちる。
「あの、ローエルは大丈夫ですか?」
本人は大丈夫と言っていたけれど――。滲む血を思い出して私は顔を顰めていた。彼を医師に見せる前に私はここに連れてこられたため状況が分からない。分からない為心配が募る。もしかしたら大きな傷なのかもしれないと。
覗き込む私の視線にソルト様は少し驚いたようにした後、ニコリと微笑んだ。キラキラ。周りまで輝いているような笑顔で。眩しい。
「優しいですね。貴方は」
「?」
答えはどこだろう。言われた意味、微笑まれた意味が分からず私は困惑する。その困惑に合わせるようにして男が口を開いた。
「――大丈夫だ。問題ない。傷は浅く無駄に出血が多かっただけだ。――本人はぴんぴんして、うるせぇくらいだ。あのガキもう少し血を抜いたくらいがいいんじゃないか?」
軽く笑うがソルト様の氷のような視線に一瞥されぐっと口許を閉じる。そのまま逃げるようにして天井を見上げた。
「まぁ、使えないデリフィスの方は気にしないでください。確かに軽傷で心配するほどでもないんですよ。少し縫いましたが『勲章』だって本人喜んでいましたし。後で自慢されるんじゃないですか?」
「私にですか?」
「はい。友達ですから。――いや、ライバルですか?」
良い笑顔で言われても――困る。友達になった覚えもないしましてやライバルって何か分からない。まさかとは思うけれど『剣』とかだろうか。
相変わらずソルト様は弟の事となるとねじが一本跳ぶらしい。
「……」
とりあえず私はそのことについて考えることを放棄した。
「私は貴方がなぜここに連れてこられたのか一番に聞くと思ったんですよ。もしくは――オーエンの事を」
そう言えば兄様がいない。言われて初めて気づいた。別れ際騎士団の皆さんが兄様を見て少し固まったのを覚えているが兄様が付いてきている様子はない。あの去り際ニコリと黒い笑顔が気にはなったけれど。本当に何をしたのか皆さんは小さな悲鳴を上げて『仕事だから』と叫んでいたのが可哀想だった。
にしても私は兄様と『セット』と思われているのだろうか。確かに私たちはよく一緒に居る。誰けど常々一緒なわけでは――と考えて私は項垂れた。学院で『あのオーエンの妹』として孤立していると言う事は『いる』と同じことなのかもしれない。
「……ここに来たのは私の身を確保するためですよね? 犯人の顔を見ている訳ですし――私に何かあれば目撃者を失ってしまうから。それと事情も、というところですか?」
「はい。正解です。――けれど一つだけ抜けてますね」
兄様の事だろうか。別に気にならない訳でもない。けれど何があっても兄様は『大丈夫』と言う自信が私にはある。何をしていてもどこに居ても大丈夫。それは兄様が強いからでも立ち回りがうまいからでもなく私の中での根拠の無い自信だった。
それに何より戦場にいるわけでもないのだから。
軽く小首を捻って見せる。それに合わせるようにクスリとソルト様は笑みをこぼした。




