降臨
前回と今回文字数少ないので連投してみました。
※ストーカー回…
風が吹いた気がした。
夏に近くなってきていると言うのに冷たい風。だけれどとても温かい。そう思うのは陽だまりのような笑顔を浮かべていたからだろう。赤い花を散らして私に笑いかける少年――兄様は何時もの兄様で。何事も無かったように私に抱き付いた。
その温かさに私は息を付く。
来てくれたーー。
強張った身体も心もほぐれていくのを感じていた。鼻の奥がツンとして思わず滲む涙を擦る。
「何ですぐ呼ばないんですか。僕はハラハラしてしまいましたよ?」
「ごめんなさーー」
批難している様にも心配している様にも聞こえるその言葉に素直に頭を下げたが――気づく。『まさか』そう気付いて私は顔を上げていた。
何かが急速に冷めていくのは気のせいだろう。
「――見てたんですか?」
「うん」
ニコリ。唖然とするしかない私をよそに兄様は満足げ微笑んだ。ゆっくりと私の頭を撫でる。いつもの温かな手だった。
「待った方でしょう? 僕」
「……」
『褒めて欲しい』みたいな顔をされても困るのだけど。
大体何を待っていたのだろうか。もしかして――私が『呼ぶ』ことをだろうか。そんな事より早く助けて欲しかったのだけれど。げんなり考えて私はようやく思い出していた。弾ける様に顔を上げるとローエルがいるはずの方向に目を向けた。
「ローエル!」
彼の前に『敵』はいなかった。兄様を確認した時点で逃げたのだろう。茫然と座り込んでいる彼は息を整えた後でニッと口端を上げた。よく見ると右腕には薄い切り傷。衣服は破れてかすかに血が滲んでいる。
微かな悲鳴を上げると私は慌てて兄様を押しのけ、彼に駆け寄った。――当然兄様は不満、不服を表していたがそんな事を気にすることもできない。
「大丈夫?」
どうしよう。手当の仕方が分からない。保健室に行くしかないのだけれど彼も私もくたびれている為か動けない。頼りになるのは兄様だけど、軽く後ろで殺気をっているその人には頼めそうも無かった。頼めばローエルに止めをいれかねない。そんな気がする。
私はポケットからハンカチを取り出すと傷を軽く抑えた。薄い傷とは言っても剣で切られたものだ。白いハンカチに滲んでくる血に私は顔を顰めた。
「問題ねーよ。かすり傷だし。ンな事より。大丈夫か? まさか。お前まで――」
狙われるなんて。付け加えて奥歯をギリリと鳴らす。悔しそうに。暫く考えてから彼は兄様に目を向けた。微かに目が座っている。助けに来なかったことを責めているのだろうが兄様相手に通じるはずも無い。
「おい! 魔王。助けに来るなら早く来いよ!」
「はははは。なぜ僕がお前を助けなければならないのかなぁ? 見てたところ『お前』の刺客だったし。けど、ライラを巻き込んだのは許せないよね」
良い笑顔で笑っている。――つまり私が襲われなければ助ける気も無かったと言う事で。相変わらずの兄様だ。綺麗に心が狭い。何となく申し訳なく思えて『ゴメンナサイ』。ローエルにそう言うと彼は顔を顰めたまま息を付く。
「――巻き込んだのは俺の落ち度だし、倒せなかったのも未熟な所為だ。お前や魔王の所為じゃねえけど……けど、けど」
納得いかない。そう言いたげだ。ぐっと、言い分を我慢して、兄様を見据えると低く唸るように言葉を紡いだ。
「……お前、ライラが逃げてもこいつら殲滅する気だっただろ? 何となくだけど俺を含めて」
「当たり前。僕のライラに怖い思いをさせたんだから――ローエル。死ぬ?」
愉しそうに言わないでほしい。私は頭を抱える。
ああ。ソルト様早く来てくれないかな。そう切実に思うが当然くる気配など一向に無い。兄様とは違ってそう都合良く現れもしないだろう。私は肩を落として『やめてください』と兄様を諌めるしかない。ついでにローエルも。振り上げそうな剣を何とか押さえて――多分ローエルが死ぬ――なだめすかしていた。




