6話 他の異世界転移者
「ま、待て……追いつけない……!」
アッくん達と合流し、彼らの里へと向かう。最初彼らは不服そうな態度を取っていたがクソガキの必死の説得で何とか納得したようだ。
にしても彼らに追いつけない。空を駆けるという表現が正しいほど彼らの跳躍力は凄まじい。屋根から屋根へと軽々飛び移るのだ。”体重”が無いに等しいらしい彼らだからできる芸当なのだろうが、僕は膝に手をついて息を切らすことしかできない。
「だらしねぇ、兄ちゃんだなぁ!ほれ、頑張れ!もう少しだ!」
痩身の金髪女が喝を入れてくる。
クソっ、見た目キャバ嬢のくせに。何で動けるんだ。
もう少しという言葉を頼りに、力の限り彼らについて行った。1時間ほど走って意識は朦朧と、視界はぐにゃぐにゃとしてきたところで到着が告げられた。
里とやらは十棟ほどの荒屋があり、吸血鬼の棲家にしては和風で、うっすらと江戸の風景を感じられる。
「里……?」
里というより集落じゃないのかという言葉を飲み込む。
「えっへへ……小さいよね、今の里。前はもうちょっとお洒落だったんだけどね……」
クソガキは貼り付けたような笑みを浮かべた。
「まぁいいよ、それより人探しの魔法は?」
「ダメ!交換条件だよ!あなたがこの里を救ってくれたら!そうしたらなんでもあげるから……!」
小さな握り拳を作って僕を睨む。まるで悪者扱いだ。
「わかった、わかったよ!何をすればいい?食料か?伝染病か?それとも繁栄か?」
可能性を羅列するが今の僕では全てどうしょうもない。というかクールタイムが終わり、リーシャン、ルーダス、プラグマ、ゲッツ、誰を呼んだとしても解決できない。ましてや【発光】なんてクソの役にも立たないだろう。その時はプライドを捨てて全裸で泣きながら「人探しの魔法を紹介してください!!」と懇願しよう。
「ううん、私たちが助けて欲しいのはね――誘拐」
クソガキがポツリと”誘拐”と呟いた。
吸血鬼が誘拐されるってことか?ボケじゃなかろうか。どちらかといえばお前らが誘拐する側だろ。さっき僕がされたように。
「は、はぁ……それで、誰に誘拐されるんだ?」
「多分……教会」
「教会?!」
驚きを隠せなかった。僕を監禁だか殺害だかしようとしていた組織だ。
「そう、1ヶ月前に急に現れた人がそう名乗ってたの」
「へぇ、名乗ってたってことは最初は話し合いとかだったのか?」
「うん、ホワホワした男が『研究のためにヴァンプの献体が欲しいんですよ。出来ればたくさん』とか言って、たった1人で攻めてきたの。当然断ったわ!でもそれ以降、3日に1人、気づいたらいなくなってるの……」
話を聞く限り、おそらく犯人は僕を拐ったアルベールとやらだろう。完全に憶測だが彼の魔法は【時間停止】だ。
だがここで疑問が残る。彼の魔法であれば里の人間を一度に全てを攫うことだってできるはずだ。なぜここに住んでいる20名弱は無事なのだろうか。
「何でここにいる人たちは無事なんだ?」
「あぁ、それはね姐さんのおかげなの」
「――姐さんって呼ぶな」
眉が吊り上がり肩幅がしっかりした女性がブロンドの髪をはためかせながらこちらに向かってくる。
「ミーアカリファだ。んで?アンタが救世主サマ?……ハッ、普通だな」
年齢は若く見える。二十代後半だろうか。
だが、やり手の政治家、あるいは弁護士のような豪胆さを彼女は纏う。――それよりも彼女に蝉のように引っ付く男に目がいく。
引き絞られた彫刻のような肉体、吸い付くような黒の短髪、日本でもモデルとして通用するようなルックスの彼が惨めにも女性にしがみついている光景に唖然とする。
「そちらの男性は……?」
「……チッ、鬱陶しい!離れろ!」
腰のあたりをバンと叩かれた蝉男がボソボソと自己紹介を始める。
「織田 龍馬、ミィちゃんの夫 。以上」
「うるさいな、結婚していない」
「えっ?苗字?……日本人?」
つい口に出すと瞬間、織田の顔に驚きが溢れた。
「……!!君も、地球から?!……ははっ、まじか!」
先ほどのダウナーな雰囲気と打って変わって少年のような顔つきになる。
「えぇ、そうなんですよ!しかも千葉から!アナタはどこからです?」
「東京!……待て!君は何年から来た?」
すっかりと彼からは気だるげな雰囲気が消えていた。早くも打ち解け合う我々にミィちゃんとやらは怪訝な表情を浮かべていた。
「2051年です!いやぁ、マオちゃ――」
「2051年!?大変だったなぁ!君も”魔王”の被害者なんだな!」
僕の話を遮るように織田は食いついた。
魔王……つまり僕だ。背筋に悪寒が走り、上がっていた口角は痙攣する。
「あぁ……いや、まぁ、そう……ですね!」
「――って言っても俺は感謝しているけどな!魔王がいなけりゃミィちゃんにも会えてなかったワケだし……ねっ!」
「離れろ、ダボがッ」
一連のやり取りに僕はホッとした。
生前、マオちゃん探している時に人を殺した覚えはない。戦争をいくつか止めたがその時ですら誰も殺していない。感謝こそされど恨みを買うことなどないはずなのだ。
「魔王、嫌いなんですか?」
「うん?そりゃ好きな人なんていないだろ。てかやめようぜこんな話!あの世界には戻れないんだ!だったからココの話の方が重要だろ?」
「すぅー……そうっすねぇ……えっと、ここにいる人たちはミーアカリファさんのおかげで無事なんですよね?なんでです?」
傷ついた心を押し殺し、魔王から遠ざかるように話題をレールに戻す。
僕の問いには織田が何故か恍惚と答え始めた。
「良ーい質問だぁ……!!それはなぁ!ミィちゃんの魔法【無法地帯】のおかげなんだ!簡単に説明するとミィちゃんを中心に200メートル以内の魔法は無効化されるんだ!ミィちゃんはすごい、すごいんだよ!!綺麗で強くて美しくて儚くて――イデッ」
ミーアカリファは織田の耳を引きちぎれんばかりに引っ張る。
魔法の無効化。確かにその能力であればアルベールの魔法、【時間停止(仮)】を完封できる。……だが寝てる間はどうしている?
生前、僕の超能力のほとんどは寝るか気絶、言い換えれば僕の意識が無くなると効力を失う仕様だった。残るのは能力による「生成物」くらいなものだった。
それならばミーアカリファが眠った時に全員攫われてしまうのではないか?それともやはり、『超能力』は『魔法』とは別なのか……?
「ミーアカリファさんが寝ている時はどうしてるんです?」
「ん?ヴァンプは飯も睡眠もいらない……常識だろう」
予想の斜め上の回答だった。
種族によるものだろうか。寝なくていいなんて便利じゃないか。
「……?なら誘拐対策は万全じゃないですか。攫われた人を救いたいってんなら話は別ですけど、研究目的ならもう生きてるかわかんないですよね?」
「お前ッ……!」
ミーアカリファに首根っこを掴まれる。
失言だった。そんなこと彼らも重々承知だったろう。
「まぁ、まぁ、ミィちゃん、落ち着いて。君もあんま刺激しないでくれよ?……それに誘拐対策も万全ってワケじゃないんだ。」
チョークスリーパーに発展しかけていた状態から僕を解放すると織田はポツリと続けた。
「――寿命なんだ。吸血鬼は睡眠も普通の食事もしなくていいだけ。代わりに寿命を消費する。人間の血とか適切な睡眠とか普通に暮らしていれば長く生きてられるけど今は”教会”のせいで全部難しい。おまけにミィちゃんは常に魔法を使い続けてるからさらに寿命が縮まる。もってあと2年だ」
「2年……」
彼らが助けを求めてくる理由がわかった。あと2年で人柱が死に、安全地帯がなくなる。そうなれば、あの変態研究者に蹂躙されてしまうのだ。
「だから助けてくれ、教会なんて早く倒してミィちゃんには少しでも長く生きていてほしいんだ。俺からの報酬は俺が出せる全てだ。」
織田の瞳には覚えがあった。最愛の人を尊ぶ純粋な瞳。いつも鏡で見ていたモノだ。
正直、面倒くさくなったらルーダスでも喚んで”人探しの魔法”とやらを奪い取ろうと思っていた。だがやめた。彼の思いは本物で、僕にも通ずるものがある。無碍にはできない。それに、そんな方法でマオちゃんを見つけ出しても「ふぅん、つまんないね」なんて言ってフラれてしまう。退屈を何よりも嫌うあの女への土産話として吸血鬼の里を救うのも悪くないかもしれないと思った。……だからこれは遠回りじゃない。
「わかりました。僕にこの里を、救わせてください!」
雑念を振り払うように声を張り上げた。




