48話 大ギャンブル
「マオちゃんに決まってんじゃん」
こともなげに言い放ったアンドウにニチュカは噛みついて、泣き喚き、叫び散らした。
その間、何度も『家族』という単語が何度か飛び出したがゲッツに事情はわからなかった。
だがその光景を見ていると、やるせないというより無気力な気分になっていった。
まるで幼稚園に放り込まれた中学生のような——言語化しにくい感覚だった。
「ねぇ……あっ」
耐えかねたゲッツが顔を上げるとルーダスの首が宙を舞っていた。
視界のピントが首から外れると奥には銀髪少年、勇者君、角刈り男。
弾かれたようにアンドウ君が勇者に体当たり。壁をぶち破って外へ飛んでいった。
ニチュカ、ウティカはまだ反応すらできていない。
銀髪は消えた。おじさんは……角刈りと銀髪と睨めっこ。
「やぁ、遊んでいくかい角刈りクン。それとも休憩するかい?」
「ふざけるのはおよしなさい」
「あ、そ。じゃあCriss-cross applesauce」
角刈りの体が不自然に沈み込み、胡座をかく。
「あぁ?!何してんだオッさん!」
「わかりません。体が動かないのです」
「そりゃそうだよ。号令がかかったら従わないと」
「ちっ……」
小さく舌打ちをすると銀髪少年はパッと消えた。
それを見ていたゲッツは狼狽えるわけでもなく厨房へと向かっていく。
「……私は拷問をされても何も吐きませんよ」
「しないよ、大まかには全部知ってるんだから。それより言うことを聞けたいい子にはご褒美だ。何がいい?……酒と鶏肉しかなさそうだけど」
「ではあなたの魔法を教えてください」
「つれないねぇ。でもいいよ。この能力は児戯。だから誰も傷つけられない。子供を害する大人が存在していいはずないからね」
「……同感です」
「ほら、タレと塩どっちがいい?」
「まかせます」
「で、お嬢さんたちは……oh」
ゲッツが顔を上げるとウティカもニチュカも首をだらんと伸ばして死んでいた。戦場で何度か見たことがある。頸椎が折られるとああなるのだ。銀髪少年の仕業だろうとそれ以上視界に入れなかった。
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「よぉ、勇者。何の用だ?」
「なんだろうな!虫の知らせってやつかもな!」
「勘弁してくれよ。僕はマオちゃんを救う手立てをやっと見つけたんだ。帰ってくれ」
「そういうわけにもいかない!俺はこの世界に飽きた!最強でいるとつまらないんだ!誰が蟻の巣もらって満足できる?!」
「うわぁ、古事成語とかのエグい語源になって死んでくれよ……あっ」
刹那に圧縮された意識の中で、僕はこの後のマオちゃんとのことを考えていた。そしてある事実に気がつく。その瞬間、勇者に胴を薙がれた。
血圧が急激に下がり意識が保てなくなっていく。だが、もうどうでもいい。
「……【爆発】」
青白い光が一瞬世界に広がると大地が音を立てて崩れ始めた。
大地の裂け目にが眼前まで差し迫った頃、降谷の鋭い叫びが聞こえた。
「急げ!ゲッツ!!」
黄色のタキシードが頭をよぎりながら僕は意識を失った。
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「ねぇ、約束、何も果たしてなくない?」
「あー、ほんとだ。ごめんマニャ」
「まぁ別にいいよ。それよりマオちゃんはいいの?」
「よくはないね。でも世界をもう一周したって今の僕はマオちゃんに会えないって気づいちゃってさ」
「どういうこと?」
マニャの質問に安堂は言葉を捻り出そうとした。
勢いよく右手を挙げ、数秒止めてから力なく振り下ろす。ろくろを回すポーズをとってみても、チンパンジー園産の脳にはちょうどいい言葉が思いつかなかった。
考えた挙句、口を開けてから一拍おいて、拙い言葉で語り出す。
「……自分と全く同じ記憶、肉体を持った人間がもう1人いたら、 そいつに全部譲って死ねるか?……みたいな?」
「あぁ……なるほど。アンドウの魔法じゃ別の世界線を作るだけなっちゃうってこと?」
「…………わかんない」
「は?」
「どうなるかわかんない。でもそうなったら嫌だなって」
言い切ったあと、安堂の頬に右ストレートが打ち込まれた。
「情けねぇよボス!賭けなきゃ、勝てねぇぞッ」
「ルーダス……?なんで?死んだろお前」
「復活演出ってやつさ、なっ、リーシャン」
「それにここ、精神世界だぞ」
「精神……?なにわけわかんねぇことを」
あわててマニャの方を見ると口をへの字に歪めて肩をすくめるジェスチャーをしている」
「さぁアンドウの妄想なんじゃない?」
「いや、そんなわけ……リーシャン、刃牙で好きなキャラは?」
「花山薫だネ」
「うわああぁ!!ほんとだ!リーシャンが刃牙知ってるわけないもんな!!」
「で、ボス。賭けんのか?」
「でも予想が当たったら……」
「——外れたら?2周目のボスもボスのままなら?大勝ちじゃねぇか。そもそもギャンブルなんてそんなもんだよ。向こう1ヶ月分の食費賭けねぇと対価は得られない」
「もう……わかったよ」
安堂は手を掲げて一世一代の大博打に出る。
未来を過去と繋げる。時間の流れを一本の輪にする荒技。
「……【時空接ぞ——お゙ぉ」
殴られた。マニャとゲッツ。どちらからも。
「だっせぇよボス!もっとなんかあるだろ!」
「最後ならもっとカッコつけようよ。ボクらの魔法の名前【発光】とか【武器生成】とかちょっとダサいんだよ」
「えぇ……なら……うーん。」
過去と未来を一本の輪に。辿っても辿っても終わらない円環。
「【メビウスの輪】」




