47話 ばけもの
「おはよう」
僕は周囲を見渡した。精神世界に籠っていたものだから何も知らないのだ。場所は作った居酒屋で、ゲッツ、降谷、リーシャン。ルーダス以外いるのか。なんでだ?
「や、少年。いや、アンドウ君。大人になれたんだね」
「ははっ、僕はもう20歳超えてますよ」
「そーゆーことじゃないんだけどね。……もっと早くなれればよかったんだけど」
ゲッツが肩を落とす。
「状況は勇者が王都を占拠、英雄は殺害って感じだぜ大将!」
「なんだよユウシン、そのしゃべり方……冗談、ごめんな思い出したよ」
「そっか、そりゃよかった」
ユウシンが顔を覆う。嬉し泣きってやつだろ。
あとは……
「リーシャン、あ、嘘、まって、ごめんごめんごめん」
可憐な少女は椅子を振り下ろしてきた。
間一髪のところで躱すと木片が飛び散った。椅子だったものをぼーっと見ているとリーシャンに抱きつかれる。
「もうイイ。全部終わったらお説教だかラ」
「そうですか」
「ハイ」
準備のいいことにリーシャンが髪の毛を一本取り出す。
数秒後、僕は元の体へと戻った。
「マニャは抜け殻のまんまか」
友人の抜け殻を丁重に超能力で保護して僕は全員を座らせた。
「おっと」
ルーダスを呼び出し。これで全員だ。
「今までごめんな!さんざんみんなを振り回してマオちゃんを探してきたけど、マオちゃん死んでたってさ」
僕の衝撃の告白に驚いていたのはルーダス1人だけだった。他のメンツは何を今更と言った顔だった。
「知ってたよ。てか、お前にも気づくタイミングあったろ?「おかけになった電話番号は現在使われておりません」って相手の番号が存在しない時に流れる奴だからな」
ルーダスが呆れ顔で種明かしを始める。
「そっか。……はぁ、まぁ、いいよ。これから全て終わらせる。いや、始めるのかな。マオちゃんを助けに行く。またな!」
「え、またどこか行くノ?」
「落ち着けリーシャン!そんなの当てたら安堂が死んじゃうから!そんで安堂!そのままだと失敗するぜ」
「え、僕これから何するか言ったっけ?」
「俺を誰だと思ってんだ?過去と今を繋ぐんだろ?」
「わお」
本当に驚いた。その通りだったからだ。
『能力は獲得時より前に影響を及ぼせない』どんなに頑張っても覆せないこの前提を解決できるこの作戦。未来を過去に繋げる荒技。そして救えるまで何万周もする。名付けるならば『メビウスの輪作戦』。この男にはお見通しだったわけだ。そして失敗するとまで言い出した。開いた口が塞がらない。塞いでほしい。
顔に出ていたようで降谷が説明する。
「この作戦、不確定要素が多すぎる。2周目に入った時に記憶が引き継がれるのか。今いる安堂と少年の安堂が一緒に存在できるのか。……俺はできないと思う」
「根拠は?」
「簡単だよ。今この時が2週目以降である可能性が高いからだ。お前、マオさんが救えるまで何億周もするだろ?今後何億回も繰り返される『この』展開の『今』が始点つまり『1回目』だなんて都合が良すぎないか?次の週に入ると記憶が消えて同じ道筋を辿ると考える方が自然だ……いてっ」
ゲッツが降谷に左ジャブを放ったあとに一言訊ねる。
「今のは予想できたかい?」
「……いや、できなかった……で?」
降谷が困惑しつつ返事をするとゲッツは頭を抱えて唸り始めた。
数秒後、どうしたのかと聞くと蚊の鳴くような声で語り始める。
「まず、降谷君の言い分は正しいと思う。が、一部違うと思う。何億回と繰り返されるループが一挙手一投足同じとは思えない。結果が同じだとしても差異はあると思うんだ。さっきみたいな、あまりにも突飛な行動は降谷君はおろか世界にも予測できないからね。でも、あまりにも小さい変化は世界に影響をもたらさない。いま降谷君を小突いたけど何も変わらないだろう?バタフライエフェクトは所詮妄想だったってわけさ」
「じゃあみんなで野良犬を舐めたりすればいいってことか?」
「ルーダスは黙ってテ」
「——そこで提案であり名案なんだけど。ループの2周目に今のおじさんを『確実』に送らないかい?」
「……は?どうやって?」
降谷が驚いているのに僕が驚いた。
何も言っても「わかってたよ」と言わんばかりの全知全能の彼が中年男性におされている。
「おじさんの【peek a boo!】……日本語で言うと【いない いない ばぁ!】だったかな。そのときの『いない いない』の時っておじさん、どこにいると思う?」
「どこって……認識できなくなるとかそのあたりだろ?」
「おぉ、一日に二度も降谷君の間違いが見れるなんてね。長生きするもんだよ。そして答えだけど、おじさんその時——存在しないんだよ」
一瞬、静寂が流れて降谷の顔が輝き出した。
「そうか!『メビウスの輪』が繋がる寸前にゲッツが消えれば……ッ!」
「そういうこと。エレベーターが落ちた時、地面に落ちる直前でジャンプするようなもんだね」
「実際は体が重くなってジャンプできないらしいぜ!」
「ルーダスはあっち行っテ」
「ただ一つ問題が……」
ゲッツは神妙な面持ちで口を開いた。先ほど唸っていた理由の説明だろう。今のルーダスのセリフを早くも伏線回収するのだろうか。
「——おじさん。一人ぼっちになっちゃうじゃん。2周目(仮)の世界で一人ぼっちは辛いよ。時期的にアンドウ君助けてたら、嫁さんとも結婚できないだろうし」
ゲッツの半分本気の冗談にツッコミあぐねていると今まで文鎮と化していたニチュカが吠える。
「そうなるとこの世界はどうなるの?お兄さんは?!」
「どうにもならない。このまま進み続けるだけ。安堂も地球に戻って小5とかからやり直しだよ」
「いや、いやぁ……ヒッ、ヒュッ」
ニチュカは粗悪な笛のような音を喉から鳴らしてうずくまる。
「さぁ、選べよ安堂。この世界か、マオさん」
「選ぶって……ははっ、」
アンドウの目はまっすぐ一点の方を向いていたが、どこも見ていない。
ゲッツはそれを見ていられなくて顔を伏せた。




