45話 ひきこもり
英雄が負けたらしい。ボクの英雄が。
故郷を大戦で焼かれた時にすらこんな気持ちにはならなかった。意識が底に沈んでいく感覚がある。また魔王とやらと人格が入れ替わってしまうのだろう。……はぁ。
「あぁ、ははっ……はぁ、どうも。その、すみませんでした」
目の前にやけに腰の低い男が現れる。中肉中背、黒髪、黒目以外に特徴のない普通の男がいた。ここはどこだ?そして彼はなぜボクに謝っている?
「何が?」
「え?その、体を乗っ取ってしまって……ですかね」
「あぁ……そう」
微妙な雰囲気が広がる。
意外と、彼が魔王だとわかっても何の感情も湧かなかった。ボクが今疲れているからかもしれない。だが、こんなに普通の男だとわかると毒気を抜かれる。
「ところで、ここってどこ?」
「さぁ?強いていうなら精神世界ってとこですかね。あなたもここにいるってことは今、体は抜け殻ですね」
魔王はあっけらかんと言い放つ。そこになんの感情もないかのように腰を下してみせた。
「そう、ならいいですよ。ボクの体、貸しますよ」
「いや、いいです。もう。」
「そう、ボクもいいです」
「ふふっ」「ははっ」「あははっ!」
どちらから笑い始めたかはわからない。
止まらない。止めようとすらしない。ただひたすらに腹を抱えて笑い合った。
バカらしくてしょうがないのだ。持ち主と簒奪者、どちらも体の主導権がいらないと言うのだ。あまつさえ精神世界に2人揃って引きこもってしまったことをバカと言わずしてなんというのだ。
——
——————
「はぁっー、笑ったぁ。あぁ、それで、あなたたちの目的ってなんだったんですか?」
魔王が体を起こしながら問いかけてくる。
「もともとは大戦の復讐だよ。ボク、フルゴ出身なんだ。でも、君らがやっちゃったからさ。で、そっちは?……と言ってもうっすら知ってはいるんだけど。あ、じゃあ何で動きたくないの?」
「あぁ、——」
「えっ、えぇ……」
ドン引きだった。『消えた恋人を探しにこの世界にまで来たけどよく考えたら恋人なんて実在しなかった』と聞かされた。怖…………「ぷっ」
「「ははははははははっ!」」
昏い、暗いこの場所で、いつまでも絶えぬ笑いが起こった。
——
————里
「あら、この子どうしちゃったかな」
ゲッツがマニャの抜け殻を棒でつつく。
「やめい。そこに大将をもどすんだから」
「へー、少し整理してくれないかい?おじさん。理解が追いつかないよ。君の目的、最終目標を教えておくれよ」
「何を今更、俺は安堂に生きてほしい。マオちゃんなんて存在しないものに囚われずに好きに生きてほしい。それだけだ」
「へぇ、喋り方。戻っちゃってんじゃん。いいね、じゃあ今からすることは?」
ゲッツは恍惚とした表情を浮かべる。
「おっと……俺らはこれから大将を起こしに行く。場所はフルゴ。ニチュカ&ウティカ嬢が『敬意』を拘束してるはずでい!」
「でい!って……ふふっ、いてっ」
俺らはゲッツの能力でウティカの家へ向かった。
——
————
「どもども、嬢ちゃんたち!『敬意』は元気かい?!」
「あ、フリヤさん!私の生活を何だと思ってるんですか!!」
「ごめんよぉ、約束は守る!「金貨を望むだけ!」な?……そんでニチュカ嬢!『敬意』は?」
ウティカ嬢を躱し、ニチュカ嬢に問いかけるが怨みのこもった睨みをいただく。
「……言われた通りにしてます。本当にお兄さんは帰ってくるんですよね?」
「くるってばよ!ほれ、本体だぜ嬢ちゃん!」
マニャを抱えたゲッツを入室させると、ニチュカ嬢の表情が若干綻んだ。
「これに『敬意』の能力ぶち込んで大将を取り戻す!簡単だろ?」
「うん?……うん!」
ニチュカ嬢は年相応と反応と共に明るい表情になった。
「ほれ、ほーれ、起きろってんだ『敬意』!」
手足を縛られた爆乳にビンタをくれてやると瞼がピクリと動いた。そして瞼は開かれることなく口が開かれた。
「う、うーん……はっ、はぁ……こうなりましたか」
『敬意』肩を落としながら天を仰いだ。




