44話 サブリミナルえなりかずき
「ぷはぁ!!」
辺り一面焼け野原。炭化した木材が散らばっている。天才•降谷ユウシンは復元された。
「ありがとう、リーシャン」
勝利の立役者にお礼を述べつつ、その場から離れる。まだ周囲は熱を帯びていて熱いのだ。
「ねぇ、どういうこト?」
「あぁ、さっきの敵は【英雄】ってんで無敵の化け物でな。みんなが思い描くスーパーマンを身に宿す能力って感じのケッタイな野郎さ」
「それもだけド、どうやって超能力なしで倒したノ?というかどうやって私を召喚んだノ?せっかく安堂だと思ったのニ。あとその喋り方ナニ?」
リーシャンはまだ熱いであろう焼け野原から問いかけてくる。あまり機嫌が良くないのだろう。
「質問が多いねぇ、お嬢ちゃん。……野郎の能力は民衆のイメージから来てる。炎無効とか空中浮遊とかだ。だがこの世界は科学が発展してねぇってなもんでよ。——一酸化炭素中毒なんて知らないのさ。あと魔法は習得した。」
「ふぅン?」
理解を諦めたリーシャンは安堂を探し始めた。
「にしても学校の先生がよく「勉強しないと将来大変なことになりますからね」とか言ってたけど本当だったな」
「そういうことじゃないと思ウ」
——
————フィラウティア•フォン•ゲッツ VS イジス・マニャ
「何なんだアンタら!」
突如森林に連れてこられたマニャはゲッツの腕から抜け出し、吠える。
「若いねぇ。自分が何者かなんて悩みはみんな通る道だよね」
「違う!所属を聞いてるんだ!お前はどこの誰なんだ!」
「さぁ?おじさんにもわからん。つまりおじさんは夢見る少年ってことだ。……そう考えると本当の大人ってヤツはえなりかずきくらいだろうね」
「誰だそれは!」
「ほら、えなりかずきを想像してごらんよ。そのえなりかずき『ぎこちない笑顔』じゃないか?つまりえなりかずきは創り上げた表情しか我々に見せていない。表情は感情。あの感情制御は大人の証さ」
「だから誰なんだ!」
マニャはうかつには飛び掛からない。観察の重要性は『忍耐』の部隊で痛いほど学んだからだ。
だから今は魔王がこの身体で獲得した【生成】にてロングソードを作って間合いを取る。だがこの男、恍惚とした顔で持論を語るだけである。
「質問を変える!お前の目的は何だ!」
「——時間稼ぎ」
ゲッツはおもむろにジッポを取り出し、なおも胸ポケットをまさぐる。
「おっと、タバコが切れたみたいだ」
「動くな、なんだその小さいの!」
「あぁ、これ?なんだろ、マッチみたいなものだよ。これはね……」
——
————2025年 3月 フィラウティア・フォン・ゲッツは人生の絶頂期にいた。
従軍の任から一時的に解放され、郊外の湖に家族と来ていた彼は目を見開く。
5歳になる娘がおずおずと、小さい手で、それよりも小さい包みを差し出してくるのだ。
妻のニヤニヤとした顔を視界の端にとらえながらその包みを受け取——
——
————「だめだめ、過去回想終了!おじさんが昔話するようになったらお終いでしょうが」
ゲッツはフタを開けたあと、火が付かない程度に親指でフリントホイールを下方向へ弾いた。
「オイルも思い出も君らのイザコザのためなんかに使ってやるものかよ」
瞬間、マニャは後ずさりした。明らかに雰囲気が変わった。覇気がなかった中年から死にも似た圧を感じたのだ。
やはりあれはマッチなどではなく何らかの魔法なのかもしれないとマニャは考察した。
緊張するマニャとは対照的に朗らかに笑い続ける中年がさらに口を開いた。
「ね、このまま彼らの決着をまたないかい?おじさんのミッションって君を確保することだからさ」
明らかな隙。師団で培った最速での技ならば殺せる。
確信したマニャは倒れるように全体重を右つま先にかけ、剣を前に突き出し、全身をバネのように伸ばした。
完璧な軌道だった。マニャに一切の落ち度はない。恨むべきは銃弾の雨を潜り抜けてきた歴戦の猛者•ゲッツの反応速度だった。
気がつくと何故かあたりは真っ暗。マニャの剣先は目標を失った。
「Peek……a……」
中年の声が響くと全身を包み込むような悪寒が襲ってくる。ただ剣を構えて奇襲に備えることしかできない。
「boooo!!」
突如目の前にゲッツが顔を出した。
……だがマニャは以前無傷のままである。
「どういうことだ!ボクは反応できなかった!いつでも殺すなり気絶さすなりできるはずだ!なぜだ!——はっ」
気がつくと空にいた。『いた』というより落ちていた。
「どうなってんだ……うあああああ!!——はっ」
死を覚悟して目を閉じると浮遊感がおさまり、目を開けると地上に立っていた。
「児戯だからね。誰も傷つかない。傷つけてはいけない。そういうもんだろ」
「なんなんだ……もう、どんな生き方してたらそんな魔法が身につくんだよ」
マニャは力が入らず膝をついた。
「おじさんはただ、平和に遊んでいたかっただけなんだ……おや、もう時間稼ぎ終わりだね。老体には酷な仕事だったよ。ほんと」
「——老人って歳じゃないでしょ」
降谷が茂みを割ってやってきた。
「……?」
マニャは本当に理解できなかった。
——英雄と戦ったというのに見たかぎり無傷。それどころか両腕が治っている。英雄はどこだ?後ろの女は誰だ?マニャの脳裏に衝撃が走る。
「【英雄】が負けたっていうんですか?」
降谷が冷たい視線を向けると、マニャはダランと項垂れた。
そしてマニャが拘束され、この戦いが終わった。
私はえなりかずきをかなり低く評価しています。




