43話 お・か・し・も
【英雄】とマニャの潜伏地に押し入る。
あたりには江戸時代を彷彿とさせる平屋と桜の木。
「ん~?ここってルーダス君が言ってたトコじゃない?」
「やっぱりか、最近できた人知れない廃村なんてポンポコあるもんでもあるめぇしな」
「その喋り方しんどくなってきてない?」
「なってない」
ゲッツを振り払って里の中へとずんずん進む。 ニチュカ嬢に聞いたことには大量殺人が行われたらしいがどんな片鱗は見当たらない。むしろ小さい畑と吊るされた動物を見るに生活感すら覚える。いや、この動物、最近吊るされたものだ。
「ゲッツ!警戒!!」
「もう遅いみたいよ。少年」
物置のような小屋から【英雄】とマニャが出てきた。英雄は剣を携え、マニャはこぶしを握っている。
……だからなんだ。タイミングがずれただけでやることは変わらない。
「ゲッツ。マニャを頼む!」
「へぇ、そうなると君と私がサシでやるんですか?」
英雄は退屈そうに剣を振りまわした。
横目にゲッツの様子を伺うと、彼はは指示通りマニャを拉致したようだ。あとは——
「そう言ってくれるなよ。楽しませてやっからよう旦那ァ」
言い切ると英雄とは反対方向に走り出す。
背後に圧を感じながら、二、三回角を曲がったところで適当な建物へと駆け込む。間取りで言えば1DK。木造でしっかりとした造り。
「タネは仕込んだ。あとは我慢」
「で、なんなんですか?狭い場所なら勝てるとでも?」
息を整えると英雄の声。もう追いつかれたらしい。
「あぁ、勝てるさ。と言っても狭いからじゃぁない。これさ」
俺はマッチを擦ってみせた。レーバティンとやらの懐から拝借したマッチだ。
降谷は煌々と燃えるそれを地面に落とす。
「……ははっ、一緒に焼身自殺ですか?熱烈なラブコールを頂いたってのに申し訳ないでがこの体は特別製でね。【英雄】は皆の希望なんですよ。皆の思い描く英雄を具現化させるのがこの魔法なんです」
「つまり意味ないと?」
俺は手を止めることなくマッチに火をつけてはあたりに投げ飛ばした。
「はい。【英雄】は燃えない。斬れない。つぶれない。——壊れない。もはや呪いです。ですからせめて貴方が燃え尽きるまではそばにいますよ。英雄は寛大……らしいですから」
「ハッ!そいつぁありがたいこった!」
俺はマッチの空箱を投げつけた。辺りは取り返しがつかないほど燃え盛り、熱波が全身にまとわりつく。
当然、英雄にはダメージはない。きっと溶鉱炉に突き落とされても親指を立てて沈み、数秒後に戻ってくることだろう。だが、
「は?!」
圧倒的優位な立場だというのに英雄は目を見開く。
腹部を刺された時、あるいはどこか拳銃で撃たれた時に人間はこんな顔になるだろう。そして英雄はパクパクと口を開いた。
「君、腕はいつから?!いつ治した?!なんで?」
「今更かよ【英雄】。勘の鋭さは想像してもらえなかったのか?……民衆のイメージを反映させる魔法。事前に本人からも聞けてよかった。俺の勝ちだよ」
英雄は目にも止まらぬ速さで降谷に斬りかかるが当たらない。
[『天才』降谷ユウシン。こと人読み、心理戦においては右に出る者はいない。事前に予想していた攻撃を最小の動きで躱す。]
「一酸化炭素ってヤツをこの世界の住人は知らねぇだろうからな。『おかしも』を守れよ英雄殿♡」
降谷は大きく息を吸い、意識を失う。
英雄は訝しんだ。なぜ倒れたのか、罠の可能性、攻撃すべきか観察すべきか。そして即断即決の英雄は結論を出す。速やかに降谷の首を撥ねて撤退することを。
「……全く、なんだったんですかね」
英雄は降谷の遺体を不思議そうに眺めてからその場を後にしようとした。
「——ん?」
英雄は突如視点がブレた。
うまく呼吸ができず、胸の奥が痛い。意識が、遠のいて、いく。
【英雄】は地に臥した。




