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41話 降谷覚醒

無二の親友と両腕を失った青年の目にはギラリと妖しい光が灯った。


驚いた。予測しきれなかった。勝てなかった。初めてだ。嬉しい。いや、悔しい。両方か。英雄は御伽話ではなかった。異世界。超能力=魔法。勇者は同郷の人間。安堂はマニャに乗っ取られた。違う、主導権を奪い返された。勇者はプライドが高いが頭は良くない。魔王に憧れ?言動を見るに能力に一貫性がない。コピー?外部的な要因?この『敬意』とやらのせい?ん?この思考は無意味?——破棄。

次に勇者のやることは宣戦布告?英雄とマニャは隠居?どうやれば取り戻せる?……戦力と情報が足りない。俺に魔法があればいいのか?否、召喚された者が魔法を使い過ぎれば地球に戻されてしまう。なぜ?なぜ?なぜ?……MP的なモノがある。ならば【魔王】をコピーして己を召喚すればどうか?検討——わからない。試すしかない。

魔法とはストレスから生じる脳の変形によってもたらされる「闘争・逃走反応」である。思考を増やしてオーバーヒートさせろ。


魔法、魔王、勇者について、酒、残してきたリーシャン、ルーダス、ゲッツ。彼のライターはジッポ。頭痛。慚愧の念。魔王。居場所はニチュカに頼む。頭痛。スポーツドリンク。種類。魔王。パーソナルスペース。連載再開。頭痛。ひもQグミ再販の計画。魔王。世界征服。工場。全て同時に考えろ。

痛い。ストレスが足りない。「敬意」から情報を引き出す。ツボを刺激して起こす。成功。情報を流し込ませる。成功。用済み、脳幹に肘鉄。

立て付けの悪いドア。ヴァンプ。魔王。火葬は1000度。電灯の語源。懲罰委員会。鳥貴族。痛い。……多幸感?

お、これって。そうだよな。そうだな。——勝った。


安堂に聞いていたような「ストレス値が〜」のような声は聞かなかったが実感するこの万能感。

ストレス過多であれば本来気絶、あるいは記憶喪失等多岐に渡る。だがその全てを理性で押さえ込んだ今、脳の中枢が歪んだような痛みと高揚感。


「借りるぞ、安堂!……【魔王】」

草原に昏く灯った光の中からはくたびれたロマンスグレーが這い出てきた。


「小鼻の目立つ丸顔の女は性格が悪い。どうも、フィラウティア・フォン・ゲッツです。」


「大将が人格の主導権を奪われた。だから取り返しに行くってんで、アンタを呼んだってワケだい。ここまではいいかい?」


「ルーダス君からあらかた聞いていたからなんとなくわかるけど……その喋り方はどうしたんだい?おじさん、心配だよ」


「……腕とかの方を心配するべきでしょ」


「確かにね!けれど君ならなんとかできるだろう?さぁ!指示を!若いってのはいいからねぇ」


「はぁ、11時の方向に『高い高い』を。距離はイカダで1日ってとこで」


「あいよー」

ロマンスグレーは無邪気な笑みを浮かべながら懐から古びたジッポを取り出す。

ジッポを眺めるゲッツの目は少し寂しそうだった。


「fly and ……」

ゲッツが小さく呟くと、共に高く飛んだ。

一瞬で地面は見えなくなり、暴風が耳元で叫び狂う。安全だとわかっていてもやはり怖くなってしまう。


「なぁ、ここ地球じゃないけど大丈夫だよな?!」


「大丈夫だよ少年。どこの世界にも子供を落っことす間抜けな父親はいないもんさ」

ゲッツはパチンとジッポを閉じると再び懐にしまう。

それから数秒後、何かに抱き抱えられるように速度を落とし無事着地に成功した。


「さぁ、次は?少年」


「勇者かマニャを探したい。けど勇者が先に欲しい。……聞き込みだ。聞く内容は……そうだな、「王がどこにいるか」だ。」


「ほぉ、その心は?」


「勇者はプライドと自己承認欲求が高いが小心者。だから脅威となりえる魔王がいなくなった今、やるとしたら国のカツアゲってなもんだ。今頃きっと王様のところにいるってもんよ。そこを助けて王様に安堂というかマニャを探させる……!」


「……聞いたのはそっちの理由じゃないんだけどね。でもいいよ。知らない方が面白そうだ」

——


————

王は案外あっさりと発見できた。——死体で。


「まさか魔王クンの真似までしてたとはね。おじさん、青春濃度高すぎて咽せ返っちゃうよ。気管支弱いのに」


「タバコやめればいいでしょ」

降谷はしゃがみ込んで胡乱な目をした。


悔しさと愉しさが精神を撫で回してくる。頭を回せ、次の一手。最善の一手。こうなった以上、勇者は放置。どうやってマニャ(安堂)を探す?

いつ爆発するかわからない爆弾を抱えた【英雄】はどこに隠れる?……人のいない場所。ある程度生活基盤が整った場所。廃村。それも最近できた廃村。……大体わかった。


「おっ、少年。良い顔になったじゃないか」


「あったりまえよ。近くの廃村を探すぞ」


「……おっ、頑張ってな!おじさんはえなりかずきを探してくるよう!」


「アンタも行くんだよ」

——


————

この混乱の最中、都合よく最近廃村になった場所など見つけられなかった。だが【英雄】の場所はすぐにわかった。

考えて見ればそうだ。こんな更地で赤いのがビュンビュンしてたら目立つに決まっている。


全ての目標の場所を特定した今、することはただ一つ。【魔王】のクールタイムを待つことだけだ。

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