39話 バルフラ王
【砂漠化】が及んでいない辺境の貴族の屋敷で、為政者連中と今後の方策について練っていると、扉が吹き飛んできた。
「こんにちは!勇者こと神宮寺だ!王はいるか!」
「あぁ、ここに。して何用だ?其方には魔王討伐を命じたはずだが?」
本当はわかりきっている問いを投げかける。
彼は寝返ったのだ。おおよそあの女狐の仕業だろう。『教会』と組むなんて愚案は提案者共々始末しておけばよかった。
「国をもらいに来た!」
一言一言に破裂音が伴うような爽やかな男がそう宣言した。
こうなってしまっては仕方ない。武力では勝てないのなら買収一択である。
「そうか、寝返ったか!条件は?我はソレを上回ろう!申せ、勇者!」
勇者の気持ちを盛り上げるために大口を開けて語気を強め、熱い眼差しを向ける。全て帝王学で学んだことだ。交渉のテーブルにさえつけばあとは――消え……剣ッ、口の中ッ?!、薙ぎ払……
「うぅぁ゙っ!じ、【時間停止】か!厄介な……」
「勘違いするなよ中年!俺は、俺を舐めてる人間が嫌いなだけだ!……『教会』の奴らが嫌いだ!俺の手綱を握ってると思い込んでるからだ!『魔王』が嫌いだ!俺の思い通りにならないからだ。『街の住人達』が嫌いだ!狭い道で向かい合った時にどいつもこいつも避けようとしないからだ!『オマエ』が嫌いだ!――」
「ま、待て、と、どうして!わへ、我は其方へ礼儀を尽くして接したはず――だあ゙ぁ゙ぁ゙!!」
口が切れて話しにくいが弁明を始める。だがそれは火に油を注いでしまったようで手の甲を貫かれてしまう。
「お前、俺のこと最初は『貴殿』って呼んでいたな!?今は?何で『其方』になっているんだ?――な?やっぱお前らは舐めてるんだよな!だから必要だろう!俺の国!」
「なるほどな。王となれば民衆は道を譲り、教会を権力で掌握し、整えた土壌で魔王と再戦。満足いく決着を……と言ったところか」
「ほう!なかなか頭が回るな!降参するなら官僚とかにしてやるぞ!」
「クハハッ!なるほど、なるほど……舐めるなよ、小僧。魔法を得て気が大きくなったか。本来のお前は人より何か突出して何かができるわけでもないのにプライドだけ異様に高くて情けなくて小さい人間だってことがよぉく伝わってきた……クハッ!王はやれんよ。お前には」
足の甲を貫かれた。
「ぐうぅ……クハッ!惨め!大方、プライドが邪魔して叩き切れなかったのだろう?!」
脇腹を貫かれた。
「がぁっ……ハハっ!そうか、やはり言い逃げはされたくないか!……そこで提案だ!」
机をバンと叩いて立ち上がり、激痛に喘ぎながら膝をつき、手足を畳んでいく。
「……ははっ、はははっ!土下座で命乞いか!そう!そうだ!それでいい!こっちの世界にも土下座があるんだな!俺に媚びろ!阿れ!崇め奉れ!」
「――民の平穏な生活だけは約束してくれ」
土下座しながら放った一言に勇者は赤面した。
勇者は感情に任せるまま我を蹴り飛ばして喚く。
「なんでだ!なんで死に際に他人の幸せを願える!ソレはどこで手に入る!」
「あー!あーー!きゃあーーー!!!ハハハハッ!ダハハハハッ!」
まんまとかかりやがった。
今際の際だからだろうか。取り繕っていた仮面が剥がれ落ちる感覚がした。堅苦しい口調は……もういいか。
チラリと視線をやると奇声を上げ始めた我に勇者は怯えている。あぁ、まるで――
「悔しいなぁ!悔しいよなぁ?!いつでも殺せるような人間の方が自分より『大人』だと悔しいよなぁ!クハハッ、ザマァみろ!お前はこれから一生、事あるごとにこの場面を思い出す!そのたびに苦しめ!」
「……なっ!じゃあ民のことを思う言葉は嘘だったのか?!」
勇者は剣を振り上げた。
「――さぁな?半々ってとこだな!まっ、早く大人になれるといいな!クソガキ」
俺もほとほと狭量な男よな。最後の言葉が『嫌がらせ』とは。クハハッ。
ん、あぁ、首が落とされる感覚ってのは案外――




