29話 魔王視点に戻る
飯屋、改め居酒屋を開店するために莫大な資金が必要になった。ならばどうするか?そう、狩だ。
トラウマの克服には降谷のおかげもあり、それほどかからなかった。
具体的には「体重マイナス20キロ」のルールを確立できたからだ。詳しく言うと、この体の体重は60kgほどなので40キロの武器までなら安全に出せる。
そしてそれを昇華させ、相手に当たる寸前で武器を作ることで必中の超重量横薙ぎを実現できた。無双状態だ。
魔法にはランクがあるらしく、下から順に「トップ」「ミドル」「ラスト」で、【武器生成】は「トップ」に分類されるハズレ魔法だったが、この使い方が広まった今は「ミドル」に再分類された。
このことからからギルドでも名が売れ始める。魔法の分類を変えてしまうほどの実力とクエスト遂行率100%の実績で「魔物狩りの王様」、略して『魔王』と呼ばれるようになった。
この少し恥ずかしい異名を降谷に伝えると、数分動揺した後「……おめでとう」と蚊の鳴くような声で祝福された。流石に成人男性が『魔王』はキツかったのだろう。
とりあえず、いろんなことがあり、生活は安定して異世界ライフを満喫している。治安の悪さがたまにキズだが概ね満足している。
危惧していたホームシックも今のところ微塵も感じない。日本での生活の記憶もかなり消えているらしく、小中高の思い出とかが薄いのも寄与しているのだろう。
美少女2人との共同生活、剣と魔法のファンタジーに異世界チート無双。よくわからんベンチャーに就職するよりかは幸せだ。たとえ『魔王』なんてあだ名がつけられたとしてもだ。
最近困っているのは、多少有名になったせいでよくチンピラに絡まれる。「金くれ」だの「なんか装備よこせ」だのおっかなくて仕方がない。歌舞伎町とトントンくらいで怖い。なので普段はポンチョを 被ることにしている。ポンチョと言ってみたが実際はただのボロ切れだ。
だがこれが効果絶大。「お前有名な奴やん」の絡みが無くなり、平穏な日々を送ることができる。肩がぶつかった相手が舌打ちしてくる程度の治安の悪さはあるが、なんとか我慢できる。たまに怒鳴ってくる奴もいるが俯いて足早に去ってしまえば追ってはこない。
富も名声も得た。となれば次は夢を叶えよう。
僕は手持ちの資金で街の空き家を購入し、念願の居酒屋を作ることにした。さすが治安最悪世界。金さえ払えば面倒な手続きなく、即日で建物が手に入ってしまう。
ニチュカ、降谷、ウティカと共にイスやテーブルを運び込み、簡素ながら内装を完成させた。
飲食店をやるにあたって、どうしても醤油が欲しかったが諦めた。
大豆をどうにかすれば作れるらしいことは知っているがチンパンジーはおろか降谷も知らなかった。よってメニューには複雑な調味料を必要としないものを選抜した。
「今、楽しいかい?大将」
一通り仕事を終えた降谷が煙草もどきを咥え、腰掛けた椅子を揺らす。
「え、……あぁ!最高だよ!人生何があるかわかんないな!こないだまで大学生やってたはずなのに記憶が消えて異世界居酒屋オーナーだ!わけわかんないな!」
「ははっ、大将らしいぜ……そんじゃ、頑張って」
椅子に弾かれたように立ち上がった降谷が店から出ていく。
「おい!なんだよ、もうすぐで始まるぞ!」
ニチュカたちが帰ってき次第、居酒屋のオープン記念兼メニューの試食会を開始するのだ。今出て行かれると入れ違いになってしまう。
「うん、まぁ、散歩だ、散歩!」
「だからもうすぐ……いや、すぐ帰ってこいよ……」
引き止めようと思ったがやめた。
この数ヶ月、降谷は「さすが大将だ」「大将らしくていいな!」と僕を褒めそやした。そういう時は大体、僕が傍若無人で自由な振る舞いを見せたときだ。
察するに、日本にいた時の僕は自己中心的な人物だったのだろう。――だから僕はそう振る舞っていた。
ここで彼を止めてしまえばそれが崩れる気がする。
ほとんど手ぶらで夕陽に消えていく降谷を僕は見えなくなるまで目に焼きつけた。
用意した料理がが冷めていく。




