↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/53

26話 私立文系チンパンジー園

八重歯女から全てを聞いたが、なかなか信じられるものではなかった。

なんたって僕は一般的な普通で平々凡々な文系大学生だ。親の脛を齧るに飽きたらず煮込んで出汁を取ろうとする穀潰しだ。それが突然異世界でのハーレム生活。……こんな幸運があっていいのか?知らん野郎の肉体になっていること以外は完璧だ。


状況を整理すると焦燥感は消え、ワクワクが全身に迸った。

「えっと、何?とりあえず俺は何すればいい?」


「何でもいいから出てって!早く!」

橙色髪の女がヒステリックに叫ぶ。どうやらハーレムではなかったようだ。


「お、お願い!お兄さんが前世の記憶を無くしてる以上行き先が無いの!」

八重歯女が頭を下げる。


「知りませんそんなの!どうせ不法入国でしょう?!騎士団に突き出してやります!」


「お願い!家賃も生活費も出すから!」

八重歯はさらに深く頭を下げた。


「スカンピンが何言ってるんです!」


「まぁ、まぁ。ニチュカちゃんもここまで頼んでいることですし……ん?」

居た堪れなくなり仲裁に入ろうとするとポケットから何かが落ちた。拾い上げてみると重厚感と光沢。ゴテゴテした装飾と下品なほど光る金色。サイズ的に腕輪が何かだろうか。だっさ。


「あなた……それっ!」

――


――――

待遇は改善した。

「私!ウティカ!よろしく!」

腕輪を見た橙色女ことウティカは態度を一変させここに住む許可をくれた。あの腕輪は日本で言うマッキンゼーの名刺だとか弁護士バッジとかなのだろう。


「……で?素寒貧の僕らはどうやって稼げばいいの?」

なんたって僕は経済学部という名のチンパンジー園に所属している。異世界に来たからといっても現代知識で無双するほどの知恵はない。


「何って……ねぇ?」

「うん、狩りだよ。お兄さん」


「へぇ……」

あの腕輪は弁護士バッジなんて高級なものではなく狩猟免許だったらしい。まさかの肉体労働に動揺が隠せない。

できるのか?引越しバイトを1日で飛んだこの僕に?!……あれ?いつ引越しバイトなんかしたんだっけ?


手に触れる温度が疑問を遮る。

「ねぇ、お兄さん。剣を想像して、鉄の鈍い光と重さ。持ち手は木製で麻糸が巻き付けてあるの……」


言われるがままに目を閉じて想像する。何かが頭をピキリと通り過ぎるとずっしりとした重みが手にかかったのを感じた。目を開けると、僕の手には剣が握られていた。

「これがお兄さんの魔法【武器生成】だよ」


「おおおおお!!」

僕は剣を振り回した。京都で買った木刀とは違う、確かな重さと殺傷能力。無骨な見た目がさらに厨二病心をくすぐる。

こういうのでいいんだよ。ド派手なドラゴンの装飾も鍔もいらないシンプルイズベスト!


「なぁ、他は!?僕はどんな魔法がつかえる?」


「え、うーん。止血と【発光】かな。あとお友達?をたまに召喚してたよ」


「召喚?!」

止血と発光なんかどうでもよかった。そんなことより召喚だ。なんだ?悪魔とか妖怪とか出せるのか?……いや、お友達と言っているし人間だろう。ならば僕が呼ぶとすれば誰だ?少なくともチンパンジー園からは呼ばない。ならば地元の友達か。


「どんな奴?」


「うーん、白髪の女の子とか緑髪の男の人とかだったよ」


「ふぅー、ん?」

知らない。そんな奴ら知らない。地元の友人を思い返してみてもせいぜい金髪が1人か2人いるくらいだ。


まぁ、いい。今は記憶喪失だがそのうち思い出すだろう。それに僕が召還するとすれば降谷(ふりや)ユウシンとかであるはずだ。こんな異世界なんてトンチキな舞台で頼りになるのは彼のような天才くらいなものだ。


「じゃ、お兄さん!その剣持って狩りに行こっか!猪くらいは狩りたいね!」


「いのしし!バカを言っちゃいけないね」

僕は剣を放り投げて猛抗議を始める。

山育ちでもなんでもないが猪を舐めてかかっていいはずがない。TVの知識だが、人間が猪と戦うなら50メートル離れ、銃を持ってトントンだと聞いたことがある。

そしてどうやらこの【武器生成】とやら、作れるのは自分が想像できるものに限るらしい。私立文系チンパンジーには火薬がどうのなんてわからない。せいぜい鈍器が関の山だ。……いや?


「……これならいける!!行こう!いや、一狩り行こうぜ!!」

妙案を思いついた僕は意気揚々と外へ繰り出した。


――


――――

森に着き、すぐに猪に出会った。事前に魔物とよぼれる存在であることは聞いていた。

見た目こそ日本の山にいるような毛むくじゃらだが、確かに決定的に違うところが一つある。火を纏っているのだ。


「フェニックス以外にも許されるんだ……」


「フェニ?何それ?」


「え、あー、うん、内緒」


「お兄さん、本当に記憶消えてる……?」

訝しげな顔を向けてくる八重歯女をスルーして猪へと一歩近づく。


猪は耳をピクリと動かすがそれ以上の動きはない。警戒はしているがそこまで脅威に思われていないのだろうか。だがそれでいい。

僕は天高く右手を挙げて想像する。持ち手は石製、刀身は鉄。刃は大雑把にデカく、鈍く光る。全長3メートルほどの大きさで重量は100キロ。


この魔法は手のひらを起点に物体が生成される。つまり、あらかじめ振りかぶってしまえば初撃に限り、武器の重量を無視して扱えるはずだ。

僕は作り出した大きな剣を猪の上に落とした。案の定、刃は猪を真っ二つに断ち、地響きと共に土を抉った。


「ギガンティック……ビッグ……」

この技の名前を決めかねていると八重歯ちゃんがテンション高めに話しかけてくる。


「すごい、すごい!こんなことできたの?!何か作る系の魔法でこんな大きいもの初めて見た……!代償とかないの?!」


「代償……あー、ないっぽ、い?あれ?」

体にうまく力が入らない。少しずつ意識が遠のいていく感じがする。

「……クソ」

寸でのところで舌を噛んで意識をハッキリさせる。

この疲労感はなんだ?呼吸に鉄の味が混じり、喉の芯が冷たい。骨が軋み筋肉がピクつく。まるで数km全力疾走した後みたいだ。


「大丈夫?」


「ダメ。とりあえず帰ろう」


――


――――

精神的疲労もあり、僕は泥のように眠った。そして2日後目覚めた。

眠っている間に八重歯ちゃんが猪を換金してくれたので、さらに2、3日ほど食っちゃ寝を繰り返した。


「……で?穀潰し君は今日も寝るの?別にいいけど生活費は足りそう?」

嫌味たっぷりに橙色した髪の女が顔を覗き込んでくる。

確かに猪収入はほぼ全て使い果たしてしまった。このままではここを追い出されてしまう。異世界ホームレスは洒落にならない。


「あぁ、大丈夫。今日ドカンと稼いでくからさ」

目を泳がせながら強がってみた。


「ふぅん、まぁせいぜい頑張って」


「おぉ!任せてくれよ」

目がメドレーを泳ぎ始めたので逃げるようにニチュカと家を出る。


「……ねぇ、お兄さん。普通の剣をくれれば私が戦うよ?」


「あぁ、あー、考えておく」

あの日から【武器生成】を使うのが少し怖くなっていた。100kgのクソデカソードであの疲労だったのだ。あの時、調子に乗って1000kgソードなんて作ってたら死んでいたのかもしれないのだ。いや、1kgオーバーでも死んでいたかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。