21話 彼は世界史選択でした
「――魔王」
黒少女が口にしたそれに驚愕と喜びを感じた。ソレは僕が最初にマオちゃんにもらったものじゃないか。
「うん、うん、ありがとう!」
「舐めやがって……ッ!!」
黒少女は装束の中に隠していたナイフを取り出し、切り掛かってくるがカァンと甲高い音とともにそれを阻む。
「ガハッ……」
少女は【迎撃】に阻まれ、尻餅をつく。
好機を逃さんとすぐさまその少女に触れ、呟く。
「【転移】」
僕はパッと少女を消した。
この世界の地図は知らないのでなるべく遠く、陸地へ飛ばしてやった。始末しても良かったのだが、なんだか言動がマオちゃんに似ていたので殺す気にはなれなかった。
気を取り直して僕は街を砂に変え、向かってくる者を蹂躙し尽くした。結果、死者0名、怪我人0名を達成しつつ更地を手に入れた。
住居を失った住人には仮宿を建ててやる。食料としてマオちゃんがダイエット中にハマり、結果太ってしまったプロテインバーも作り出して十分置いておく。
『家族計画』では地球とこの世界を一つにまとめる予定だ。「異世界の人間と地球人の交流」はマオちゃんが面白がるだろう。だから住民が死んでしまっては困るのだ。
「あー、あれ?」
続いて飲食店を建てようとしたところで体が重くなった。
前世でもこういうことはあった。不眠不休で食事も必要なくなった肉体でも酩酊したように体が上手く動かなくなることがあった。寝れば大体解決したが、ここで寝ると魂がマニャの体に戻ってしまう。それまでにマオちゃんの確保まで済まさなければならない。僕はニチュカを叩き起こしていた。
「おい!この髪の毛のつながりを辿ってくれ!」
「え、お兄さん?なんで……」
「早く!!」
「う、うん【追縁の羅針】」
ニチュカは戸惑いながらも目を閉じ、髪の毛の束を額に当てた。
彼女が目を開けたとところでふぅっと力が抜けて、意識が消える。間に合わなかった。
――目が覚めるとニチュカ以外、誰もいなかった。
体はマニャに戻り、ルーダスもリーシャンもいなくなっていた。そして予想通り、ルーダスが持ってきた髪の毛も無くなっていた。
なぜこうなってしまったのだろう。今までも疲れることはあったが特に深く考えてこなかった。己の怠惰を恨むばかりだ。だが今回の件を経てなんとなくの予想はついている。おそらく筋疲労のようなものだろう。ダンベルを持ち上げるうちに限界が来るように超能力も使用限度があるのだ。
この世界風に言うのなら『魔力切れ』と言ったところだろうか。まぁ、そんなことはいい。それよりも……
「ニチュカ!マオちゃんの居場所は?!」
「え、あ、うん!わかったっちゃ、わかったんだけど……」
「何?!距離が遠い?いっぱいいた?犬とかになってた?」
我ながら大人げないと思いながらも、見た目高校生くらいの少女に激しく詰め寄る。
「ち、違うの!繋がりが薄いの、それこそニ、三回転生したくらいの薄さで……私のお母さんと同じくらいで……で、でも人間だよ!」
「そ、そっか……」
胸をなでおろすと同時に少し気まずい。
ニチュカの亡くなった両親については里でたびたび聞いていただけに気まずい。だがマオちゃんの件に関しては安心せざるを得ない。
繋がりが薄いとのことだが当たり前だ。あのアパートの一室からずっと考えていたが「マオちゃんは何らかの原因で異世界に飛ばされている」という結論に至っていた。そして地球から異世界の隔たりは相当に分厚い。それこそ【魔王】など特異な超能力に頼らないと不可能だ。加えてマオちゃんは超能力を保持していない。傍若無人の限りを尽くしていた彼女はストレスで何かを発現するような環境でもなかった。つまりマオちゃんはおそらく一度――死んでいる。
なればこそ「つながりが薄い」というニチュカの報告にも納得がいく。あの状況でどうやって死んだのか。死体はどこに行ったのかといった疑問は残るが今はどうでもいい。
一度死んでいても織田や山田のような転生の前例があるのだ。二分の二だ。ルーダス風に言うなら「確定演出だ」。間違いなくマオちゃんも前世の記憶を引き継いでいる。
「よし、いくか、どれくらいかかりそうだ?」
「いいの?この街とか砂になちゃったけど……」
「どうでもいい。どこ?」
「……イリス連邦」
「イリス?」
なんか以前聞いた気がする。
全3国のうちの一つだとかなんとか。一国あたりオーストラリアほどの大きさだから【探知】に引っ掛からなかったのも納得だ。ここ、バルフラ王国から2週間以上かかるなら【魔王】のクールタイムを待つが……
「そう、ここからなら海も近いし2、3日なんだけどイリスに入るのは無理だよ」
「あー、なるほど、行こう」
大戦争から10年程度なら仕方ないことだろう。だが問題ない。僕は曲がりなりにも、本当に曲がりなりにも文系学生として世界史に触れてきたのだ。
マオちゃんは授業中に火をつけた紙飛行機を教授に飛ばしてたりしてたから知らないだろうが僕は『鎖国中の国に入る方法』なんて掃いて捨てるほど知っている。
僕はニチュカの手を引き、行き場を失った馬車に飛び乗る。幸い持ち主はいないようだった。
さぁ、行こうか。




