20話 魔物の王様
「あ!ボス!ほらこれ!」
周囲の瓦礫を片付け終えた頃、満面の笑みのルーダスから手渡されたのは赤っぽい髪の毛と黒い短髪が数本ずつ。どちらもマオちゃんのものとしては長すぎるし短すぎる。
「なにこれ?」
「マオさんの私物が無いっぽかったから両親の髪の毛持ってきた!」
「……え?えっ?お義父さんとお義母さんの??」
確かにマオちゃんの実家を漁って来いと指示したが、それに留まらずそこに住む両親の髪の毛をぶち抜いてきたというのだ。怖い。知ってくれ、留まるところを知ってくれ。
だが、今回【繋がりを辿る】ニチュカの魔法はこれで使えるだろう。うまくいけば今日中にでも『家族』を集められる。寝てしまったらしいニチュカが目覚め次第『家族計画』を始めよう。さっき思いついたものだが、きっとうまくいくはずだ。
それまではこの辺一帯を住みやすくさせてもらうことにした。まずは整地。右手を掲げ声高らかに叫ぶ。
「【砂漠化】」
街並みを砂に変え、地平線を作り出すのだ。
この能力は生前、マオちゃんを探し始めた序盤くらいに獲得したものだ。国一つ一つを見て回るのが面倒になった頃、「全部更地にしたら効率いいじゃん」と思ったのがきっかけだった。しかし結果は失敗。マオちゃんお気に入りの店が消し飛んでしまったからだ。
辺りが乾燥し始めて建物に亀裂が入る。粉塵が舞い、あらゆるものが崩れ始め——ない。
僕は崩れる寸前の建物から飛び出してきた黒装束の少女にキスされていた。この邪魔により、「【砂漠化】をしなかった世界線」を選択されてしまった……のだろう。多分。そんなことよりなんだこの状況。
「やめなさい。これは命令です!」
黒少女は口を拭いながら声を張り詰める。
「【世界線の選択】だっけ?複雑すぎるな」
僕のボヤキに黒少女はぴくりと震える。
「……なんで私の魔法をッ」
「何でって、こないだ……あぁ、内緒」
前会った時とは姿形が違うのか。今はマニャではなく安堂なのだ。だからどうということもないのだが。
――
――――黒装束少女視点 当日 早朝
今日も朝早く起きて警備を『尊厳』と交代し、ルーティーンを敢行する。
ルーレットを回すのだ。マス目にはこの国の地域の名前が10個ほど。これを回し、出た目の土地へと『尊厳』に運んでもらう。
それからさらにルーレットを回す。今度は滞在時間を決めるのだ。なんとも面倒くさいが、これらの儀式はターニングポイントを作るための儀式だ。私の魔法、【世界線変動】は1%でも可能性が無い世界には移動できないのだから。
「ねぇ、何で見てるの?」
いつもならダルそうにルーレットの結果を待つ『尊厳』が目を爛々と輝かせている。
「んー?また大変なことにならないと良いなって」
言葉とは裏腹に退屈が裏返るのを期待しているような顔だった。
「あのねぇ、この前のは本当に大変だったんだからね」
我ながらよく王国壊滅の危機を回避したものだ。
「青白い光が広がる前に原因を突き止めて鎮圧する。」言葉にすれば簡単そうだが5回は世界線変動をさせ、なんとか国を救った。もうあんなことはしたくない。
回したルーレットが指した今日の目的地は『ネピアピ』魚介がおいしい港町だ。
ワクワクで現地につき、魚の塩焼きをほおばり始めたところで報告が入る。「中央都市が砂になりました」と。
怒りのままに魚を地面に叩きつけ世界線を変える。『ルーレットが中央都市を指した世界線』へと。
原因究明のために都市を走り回る。
すると爆発音、急いで現場へ向かう。そこには先週も見た銀行の長と、初めて見る黒髪の男。どうやら銀行男は死んでいるらしい。
どうしたものかと眺めていると耳を引き裂かんばかりの爆音と共に、銀行男が弾けた。
黒髪の男は緑髪の青年と少し話したあと、なんらかの魔法で瓦礫を片付け始める。
王国が砂になったおそらくの原因を見つけた今、すぐにでも彼を捕まえなければならないこの状況で私の心に悪魔が舞い降りた。「どうせ捕まえるなら片付けさせてからにしようよ」
私は悪魔に従い、建物の影に隠れることにした。
数分後、片付けを終えた男が満足げに右手を掲げた。
「くる……!」
直感的にわかった。急いで建物の影から飛び出し、男に殴りかかるが中空で拳が弾かれる。男はそんな私には目もくれず、王国は砂になった。
「……ッ!【世界線変動】」
鈍器――失敗
遠距離攻撃――失敗
『尊厳』に協力してもらう――失敗
完全に手詰まりだ。『尊厳』に協力してもらっても砂になるのが数分遅れるだけだった。『敬意』であればもしかしたらと思ったがターニングポイントから動いても間に合わなかった。
攻撃は全て防がれ、原因と思われるものを全て排除しても王国は砂になってしまう。
「あぁ、どうにでもなれ」
何度目かのこの場面、私はキスをした。攻撃がダメならとやけっぱちの行動は案外効果的だった。
黒髪の男は右手を掲げたまま呆然とこちらを見ている。
「……やめなさい。これは命令です!」
呆気に取られたが気を取り直し、紋切り型の警告をしてみる。声は震えていないだろうか。
「――【世界線の選択】かなんか知らねぇけど複雑すぎるな」
男の呟きに全身が凍りつく。
世界線の変動は私以外に知覚できないはずだからだ。
「……なんで私の魔法をッ」
絞り出すように聞く。今度は確実に声が震えていた。
そして、不思議と返答はないとわかった
「何でって、こないだ……あぁ、内緒」
やはり男は答えなかった。
わかっていた。なぜなら男とはここまで一度も目があっていないからだ。いや、物理的にはあっていたのだが、私のことを羽虫としてしか見ていないようだった。
この男は本当に人間なのだろうか。放つプレッシャーは王と同等。だがポンポンとラスト級の魔法を使う姿は上位の魔物に近い。そのうえ知能まである。言うなれば魔物の王様だ。魔物の、王様。
「――魔王」
つい口にした瞬間、男は目尻をニィッと歪めてみせた。
――初めて男と目があったような気がした。




