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19話 家族

黒装束の少女が去ったことによって首の皮が一枚つながった。そして逆転の種すら右手に握りこめている。

先ほど降り注いだ土塊の一部だ。山田と黒少女が戦っている間、何もしなかったわけではない。【魔王】【武器生成】【感知】とさまざまな可能性を模索した。結果、辿り着く。


【発光】だ。ただ手を光らせるだけの魔法だと思ったが違った。触れたものを光らせることもできたのだ。現に今も僕の手から土塊の光が漏れ出ている。そしてこれら出来事が僕の思い出を刺激する。

さぁ、見せてやろう。「大学一年生、マオちゃんとの夏」を。


「ふぅ、邪魔が入ったンゴねぇ。だがもうこれで終わりだ。」

本日何度目かわからないが銃口と目が合う。引き金に指がかけられる寸前に僕は発光させた土塊を投げつけた。そして光を強める。あの日見た花火のように辺りを明るさで包むのだ。そして屈む。


あの時は大変だった。わざわざ荒川まで見に行った花火が高く上がらず、地面スレスレで暴発したのを僕とマオちゃんは間近で見た。頬を撫でる熱波と目を焼くような閃光、鼓膜を引き裂く爆音。火薬のにおいがあたりを包んだ。

飛来する灰から逃げる参加者を意に介さず、炎上する荒野を眺めているマオちゃんから目が離せなかったのをよく覚えている。

そしてその暴発を閉じ込めたような赤い髪を今回の【発光】に込めた。案の定、山田の放った銃弾は外れた。


次に【武器生成】で大盾を作る。閃光に目を焼かれたニチュカを引き寄せ、盾を発光させる。彼は知らないだろう。アホみたいに照明器具がついたドレッサーの眩さを。

そしてそのままニチュカを抱えて街まで走る。盾を作って以降、銃声はなかった。代わりに走り出して数分後に後ろから大きな爆発音がしたが僕らには何の影響もなかった。追撃用の何かが暴発したのか自殺なのかは見当がつかないが、その日から銀行の創設者は行方不明らしい。


――


――――


「お兄さんは死なないでね」

街に着く間際に言われたニチュカからの一言が妙に耳にこびりついた。当然に死ぬ気は無いのだが何と答えるか迷った。

今でこそ牛?串をたらふく食べ、あどけない表情で眠っているが数日前に家族を皆殺しにされているのだ。

里の友人たちから託されたこの少女を僕は一体どうしたら救ってやれるのだろうか。

不味いワイン風味の安酒が脳を蝕んでいく。


そこから2人で無気力に暮らした。

復讐の果てを山田を通して見てしまったからだろう。何となく力が入らない。目が覚めても体を起こす気が起きない。部屋の埃を目で追っていたら日が暮れる。


金がなくなればギルドで仕事をこなし生活費を手に入れた。その度に酒の量が増え、仕事も難しいものが増えていき、生傷が絶えず、呑んでも眠れない日が続いた。そんな時はさらに酒を増やして無理矢理眠る。


そんな日を10日ほど過ごすと【魔王】のクールタイムが2つとも終わった。

「じゃあ、喚ぶから。」

召喚するのはリーシャン。安藤勇の体を再び取り戻しマオちゃんを確保する。そしてこれからのことは後から考える。この世界に残るのか、日本に戻るのか。


手元にリーシャンを引き寄せるイメージを練り、力を込める。後コンマ数秒というところで爆発音と爆風。集中は散り、音の方へと向き直る。

するとさっきまで壁のあった場所は大穴が開き、穴から見下ろせる街並みには山田が立っていた。半身は焼け爛れ、目は爛々とキマッている。そんな彼は大きく振りかぶって手榴弾をこちらに投げつけてくる。


「勘弁してくれよ……クソっ、ルーダス!!」

現れたルーダスの【念動力】は爆発を空中で留めた。


「――やぁ、ボスはいつも楽しそうだな。俺らなんてリーシャンが……」


「うるさいな、僕ももう帰(・)る(・)よ(・)。だからあの男なんとかしてくれ」


「りょうかい。【フリーズ】」


山田の動きが止まった。

今のうちにとリーシャンも喚び出し、安藤勇を作らせると、その隙間を埋めるように山田が叫ぶ。

「やっぱ……やっぱり復讐なんて碌なもんじゃないなぁ!なんでまた現れた!!魔王……ちくしょう!!むなしい!虚しいンゴ!!なんてな!だっはは――」


瞬間、小さな爆発音。静かな体育館にバスケットボールを落としたような音だった。

首を項垂れる山田。そして胸元から煙。

「……自殺か。何がしたかったんだろうな?ボス!」


「もう放していいぞ!」

ルーダスの拘束が外れると山田の体はベチャリと地面に倒れ――爆発四散した。それは誘爆を起こし、宿全体が倒壊する。

山田は事前に爆弾を仕掛けていたのだろう。復讐の成功、不成功などどうでもよかったのだ。復讐「した」という事実が山田を成仏させたに違いない。……などと瓦礫の下で考えた。


安堂 勇の体に戻ることができたのだが、おかげでルーダスの【念動力】で護っていた範囲からはみ出したらしい下半身が無くなってしまった。だが問題はない。今の僕ならば瞬時に脚を生やした上に脚を2、3本追加できる。


「もう大丈夫だ。ニチュカ」


「そんなわけないじゃん!!半分無いんだよ?!死なせない。絶対に死なせない!」

腕を欠損しながらも生き残ったニチュカは僕に滴る血を飲ませ続けている。血が止まり始めればさらに深く傷口を広げ、僕に血を飲ませる。何の意図があるかは知らないが彼女は必死だった。


「やめてくれ。ニチュカが死んじゃうだろ。それに僕は」


「もういいの!復讐なんてしても虚しいだけなんだよね?!それに私の目の前で家族が死ぬのはもう嫌なの」


「家族……僕が?」


「そうだよ!だから死なないで!!」


「……そうか。ならお前も死なないでくれ。リーシャン、この子に【復元】を」

自分の脚を生やし、全身が直ったニチュカに毛布をかける。


「家族かぁ」

ルーダス、リーシャン、ニチュカを眺めながらポツリと呟く。

「家族……いいね。それをしよう。」


「え?」

呆けているニチュカを横目に、抜け殻のマニャを【念動力】の範囲に入れ直しておく。


続いて、【瞬間移動】で山田のいた場所に移動し、【探知】で死体を見つける。損傷が酷いがギリギリ山田だとわかる。

【身体強化】で瓦礫をどかして、【エアレーション】と【領域】で高濃度の酸素を死体の周りに滞留させる。この時水素も混ぜておく。そして【迎撃】を纏い、【発火】。

ピャンッと甲高い音と爆炎。【迎撃】は僕に降りかかる全ての衝撃をはねのける。

山田の死体は跡形もなくなった。


「どうか、安らかに」

同情なのかもしれない。あるいはやることが定まってテンションが上がっただけなのかもしれない。だがとにかく、山田の葬儀はこれで終わりだ。あとはマオちゃんを――【探知】


「あれ?」

【探知】には何も引っ掛からなかった。おそらくマオちゃんは範囲外にいるらしい。探知範囲は関東地方一つ分ほどなのでかなり遠くにいることになる。


次は適当に【瞬間移動】と【探知】をくりかえしで……と言ったところでやめにする。少しだけ疲れてしまった。


爆炎の匂いはまだこびりついている。

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