16話 ブラックハウス
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「へぇ、君はワイと近い時代の人間なんやね?」
エセ関西弁もとい猛虎弁が鼻につくが会話を続ける。話の主題は僕の生い立ちについてだ。僕のと言っても全て「ビトウ ショウスケ」の人生だが。
平々凡々なクソ人生、21歳の時にトラックに轢かれて気付けば3日前にこの世界。里が襲撃され偶然生き残ったニチュカと出会い、放浪中。……という設定だ。
現在は取り逃した狼を狩りに来ている。「Bランクってことは強い魔法をお持ちなんですか?」と聞いたが「見ればわかるンゴ」と適当にはぐらかされてしまう。
間を持たせるために「あなたのことを教えてくださいよ」と言ったところで彼の本名すら聞いていなかったことに気がつく。こんな状態で借金をしようとは僕も堕ちたものだ。名前は大切だというのに。
「あー、ワイは山田太郎。嘘みたいやろ?でも本当なんや。ワイはふわふわと生きてきたから話すことなんてない
ンゴ」
「ところで、やっぱ魔王ってやばかったンゴねぇ」
突然の雑談に肝を冷やす。一瞬バレたのかと思った。
「え、えぇ。国の名前が変わってびっくりしましたね」
「本当にそうやね。ちなみに魔王事件以降海外行ったことあるんか?」
「いえ、ないです。」
ビトウショウスケ君の設定を堅持するために嘘をつく。
「そうなんや、じゃあホワイトハウスが黒く染められたのもテレビかなんかで見たんやね?」
「そうですね!いやぁ、魔王も遊び心とかあるんですね!赤道も本当に赤く染められたし迷惑ですよ!まったく!」
そんな世間話をしながら、しばらく歩くと数十メートル先に先ほどのオオカミ達が現れる。3匹、だが先ほどとは違い油断は無く毛を逆立て今にも石礫を飛ばしてきそうだ。僕とニチュカは【武器生成】で作りだし、槍を一本ずつ持ち構える。そこで山田を口を開いた。
「ほなワイの力を見せるンゴねぇ……手を貸してクレメンス」
言われるがままに右手を差し出すと山田に握られる。
そして数秒後、山田が反対の手に拳銃を作り出した。リボルバー式のドラマとかで見るやつだ。
「ありえない……」
思わず声が漏れた。山田の魔法は【コピー】とかその辺だろう。条件は「触れること」とかだと考えられる。だがそこじゃない。【武器生成】で作れるものはイメージできるものだけだ。だから剣だとか盾だとかシンプルな構造のものしか作れない。だって拳銃に含まれるバネやネジがどこにあるか正確に考えられるだろうか?いや、無理だ。
「草、驚いているンゴねぇ。ワイの魔法は【コピー】や。コピーしたい魔法を見ること、そして発動者本人に触れることで数分使えるンゴ」
「あ……あぁ、すごいですね!」
別にそこには驚かなかった。そんなことよりもどうやって拳銃を作ったのか聞きたかった。なにか【コピー】にタネがない限り、山田は銃を熟知した変態であることが確定してしまう。今のうちに確かめなくては……
思考を遮るように乾いた破裂音が3度響き、オオカミは次々にパタリと地面に臥した。
「これなら刀とかの方が映えたンゴねぇ」
山田の握るリボルバーから煙が出ている。
「銃があるなら魔法なんていらないじゃないですか……」
「そんなこともないやろ。にしても【武器生成】なんて、どんな人生をおくってきたんや?」
「人生……?」
「せや、ワイが研究した限りやと魔法ってのは脳に強いストレスが加わることで発現するんや。そんでそのストレスの原因が魔法に反映されがち……ってのが持論や」
「それは溺れて死にかけた人間が【水系の魔法】を獲得するみたいなことですか?」
突飛な理論だが正しいと思う。【時間停止】のアルベールも同じようなことを言っていた。それに前世、安堂勇の魔法もほとんどが「探す」「移動」「守る」が占めている。それよりコイツも魔法の研究なんてしてたのか。流行ってるのか?
「せや。てか地球にもおったやで?君も知ってるやろ?」
不意に問いかけられるが心当たりがない。テレビに出てたスプーン曲げの人とかか……?
「マジシャンとかですか?」
「……君さっき何年のどこから来たって言った?」
「2051年の日本ですね」
「君がこの世界に来たのは?」
「3日前ですね」
「そんな人間が超常的なものを見てあの”魔王”を連想しないことなんてあるか?」
山田の口調が冷たいものになった。
「もう疲れた」
――乾いた破裂音が響く。
右腿に冷たいものを感じる。鮮血がとめどなく溢れて土に垂れた。
「連想しないわけないよな。太陽を3つに増やし、ロシアの重力を消して、それを生配信した”魔王”と”魔法”を結びつけないはずがないよな?」
もう一度銃声が鳴り響く。
【魔王】で止血をして山田に向き直る。やはり血は止まるが傷は塞がらない。痛い。左手でニチュカを静止し声を絞り出す。
「何するんですか……?」
「それが【魔王】か。ギルドの報告を受けた時は目を疑ったよ。突如現れた新人冒険者が魔法を三つ持ち、しかも日本人ときた。そんでそいつは身分を偽っていそうな態度を見せる。――お前が【魔王】だな?」
「な……っ!根拠が弱いだろ!?」
「そんなことはない。お前、ホワイトハウスが黒く染められたことを知ってたよな?あれは染められてからすぐに隠されたから知ってる人間は関係者のみだ。もう一度訊く。お前が【魔王】だな」
「……だったらなんですか?」
「お前を殺す」
ぬるりと細い体がしゃがみ、視界の下に消える。
目で追うと大きく一歩距離を詰められ、立ち上がってくるところだった。
反応する間もなく顎下に銃口がピタリと張り付く。
チキキと撃鉄が起こされ、引き金に指がかけられた。
だが、これでよかったのかもしれない。僕は迷惑をかけすぎたらしい。織田が変だっただけで普通の人間は異世界に来ても僕を恨んでいるようだ。マオちゃんを探すほど人に迷惑がかかる。ならばいっそ僕が死ねばいい。僕というオモチャがいなくてもマオちゃんは自由に生きていくだろう、誰よりも。
「だめぇえええ!」
金切り声と共に槍が目の前を通過し、銃が宙を舞った。
なんだか久しぶりにニチュカの声を聞いた気がする。




