14話 ニチュカ「普段は一匹なので油断しました」
「だが運が悪いなルーキー。教会は支部が何者かに壊滅させられたばかりだ。しばらくは本部も隠れちまうだろうな」
シュワルツネッガーことギルド長がドスの聞いた声を出す。
そうだな。何者かにな。……犯行声明とか書き残せばよかっただろうか。怪盗みたいでカッコいいし。
「それならそれでいいです。とりあえず飯代になりそうな仕事はないですか?僕ら無一文なんです」
ニチュカから「よくない」と脇腹を小突かれるが無視する。無一文を脱却しないとマオちゃんよろしくカツアゲをしないといけなくなる。もう法学部に理論詰めされるのは嫌なんだ。
「ガッハハハ!!B級が飯代か!こりゃ傑作だ!」
巨体が揺れる。
「B級?C級じゃないんですか?」
「あぁ?!ミドル魔法持ちがC級なわけないだろ!そんでB級といえば全冒険者の目標だ!一生食いっぱぐれねぇんだからな!まぁ、今日の飯代に困ってんなら『オオカミ』でも狩ってきてくれよ。なぜか群れてるらしい。報酬は俺から直接出してやる!」
えらく上機嫌のシュワルツネッガーから逃げるようにギルドを後にする。脱出間際、受付嬢からB級の証として金色の腕輪をもらったがダサいのでポケットに詰めた。何だかゴテゴテしていて趣味じゃないのだ。
「ねぇお兄さん、銀行はもう開いたかな?」
ニチュカはなけなしの手持ちで買ってやった牛串を噛みちぎりながら尋ねてくる。
確かにそういう話だったね。同郷の銀行マンに借金すれば冒険者になる必要はなかったね。できればやりたくないけど。
「まだだよ、あと2時間くらいかな」
「ふぅん、ねぇ!オオカミ狩りに行こうよ!お金にもなるし美味しいんだよ!」
食べるのか、オオカミ。日本の動物愛護団体が知ったら気絶しそうだ。
「わかった。時間になったら帰るからな」
――
――――
結論から言えば大失敗だった。
王国から30分ほど歩くとすぐに森になった。それからさらに数分探すと5頭ほどの狼の群れを見つける。白銀の毛に獰猛な牙と鋭い目。幼少期に図鑑で見た狼そのものだった。僕は【武器生成】で刀を作り、ニチュカには槍を持たせた。
不意打ちが成功し、二頭を絶命させたが残りは毛を逆立て戦闘体制に入ってしまう。だが所詮獣、文明を手にした人間様には勝てないと思い一歩踏み込むと石礫が飛んできた。それは頬を掠めて鮮血が噴き出る。
料理の皿を落とした時のように時間が一瞬止まった。
――よく見るとオオカミは魔法を使っていたのだ。
そこから命懸けの逃走。石礫が急所に当たらないことを祈りながらニチュカの後ろを走る。石礫が肩を、ふくらはぎを掠めるたびに心臓が縮み上がるような気分だった。当然反撃も考えたがヴァンプは機動力はあれど耐久力が無い。石礫が掠めただけで危ない。この時点でニチュカは使えない。
次に【武器生成】だ。クールタイムは数秒なのでもう使えるが、剣だの槍だので対抗できる次元ではない。かと言って銃が作れるわけでもない。この辺の線引きはかなり難しいのだがとりあえず複雑なものは作れない。
僕は【武器生成】で盾を作り、【魔王】で出血を止め、【発光】で目眩しをしながら森を駆け抜けた。民家がポツポツと見えてきたところで石礫の雨は止んだ。
「くそっ、なんなんだ」
火を纏う猪がいるくらいだから魔法を使う魔物に警戒するべきだった。だが無理だ。見た目は完全に普通のオオカミなのだ。警戒する方がどうかしている。この調子だとクマとかどうなっちゃうんだ?そしてそれを全員が1人で狩れる師団ってなんなんだ?
この2週間……いや、あと12日くらいか?安全な場所で過ごそう。なんとしても借金を成功させて街の名物でもつまみながらのんべんだらりと暮らすのだ。そんで”安堂勇”に戻ったら大暴れしよう。
そう心に決め「本当に倒してきやがったのか……冗談のつもりだったんだがな……」と驚くギルド長からオオカミ2匹分の報酬を貰い、ニチュカと僕の寝酒を買って宿に戻った。まさか腕輪が記録器具だと思わなかったがポケットに入れた状態でも動く代物でよかった。おかげで昼間から僕も酒にありつくことができたのだから……




