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13話 さすまたの強点

炎の龍が入場してくるとその根元には小男がいた。身長は160cmほどだろう。年は同じか少し上くらいだろうか?ワインレッドの短髪に吊り上がった眉、口の端に縦の傷。黒と赤っぽい服が妙に似合っている。

そして彼が口を開く。そこからは爆炎よりもビリビリ響く大きい声が――

「よう、冒険者!お前は賢い選択をした!魔法持ってんのに国の犬なんてやってらんないよなぁ!!もっともっとデッケェことしてデッカくなんないとなぁ!!」


「ではコチラが本日の試験官、レーバティンさんです!見ての通り火を操ります!」


「レーバでいいぜ!」


「イジス・マニャさん、今からこの方と戦ってください。気絶または降参によってのみ勝敗が決まります。気をつけてくださいね!」


「お前マニャって言うのか!わかった、マニャ!ギルドの話は聞くな!降参なんてしないでくれ!男と男が戦うんなら死ぬか生きるかだ!なぁ、そうだろ?」


「レーバティンさん!!」

嬢が諌めるが、レーバの目は僕を熱く射すくめていた。


「がんばります」


「はぁ、ではルールを説明いたします……まず、持ち込める物は魔法に必要な物のみです。レーバティンさんは火種としてマッチを持ち込みます。ですがマニャさんは道具なしで魔法が成立するので何も持ち込めません。ここまではいいですね」


理解した。彼の魔法は”火の操作”でありゼロから発火させることはできない。ゆえにマッチの持ち込みが許可されているのだ。確かに、操る物がなければ試験にならないからな。


「次にハンデとして試験官の魔法は明かします。レーバティンさんの魔法は【火炎操作】です。大体これくらいの範囲を操れます。」

受付嬢が手をいっぱいに広げる。2メートルくらいだろうか。


「ちなみに温度は操れず、形、速度のみを操ることができます。速度の上限は走るより少し早いくらいです!」

つまり相手は近距離限定の火炎放射器だ。近距離限定とはいえ危なすぎる。こりゃ早々に降参だね。


「そして最後のルールです。殺しは禁止です。これを破った場合、師団の『沈黙』が来てしまいます」


「え、怖。何が来るんです?」


「『沈黙』です」

受付嬢の回答は僕のほしい物ではなかった。何が来ちゃうんだよ。


「へぇ、『敬意』でも『忍耐』でも『尊厳』でもないのか!面白い!やり合いたいなぁ!!なぁ、マニャ!どっちが『沈黙』と戦うことになっても恨みっこ無しだぞ!」


なんだ?有名なのか?師団のことはロマーズから聞いたが『沈黙』なんて言っていなかった。彼女は「四つの部隊からなる治安維持の団体」「王直属の団体」「全員が魔法を持ち、下っ端1人でもクマの魔物を倒せる実力者」と言っていた。なら『沈黙』は部隊の名前か?それにしては言い方に違和感がある……


「マニャ?」

ファイヤ短髪が寂しそうににコチラを見ていた。怖気付いたのか?戦わないのか?と不安そうだ。


「すみません、ボーッとしてました。ルール理解しました!やりましょう!」

ファイヤ短髪の魔法を見たら即降参、からの撤退だ。

別に試験自体を断ればよかったのだが炎のドラゴンなんてカッコ良すぎるのでもう一度見たい。


「わかりました、では始めますね。お二人とも両端へ移動してください。お連れ様は私と」

受付嬢の指示に従い、僕は体育館ほどの広さの会場の端へ、レーバティンはその間反対へ移動した。ニチュカは受付嬢の横で今から始まる激闘を期待しているようだ。この不謹慎な感じ、マオちゃんに似ている。


「では、始めてください!」

合図と共にレーバティンは短髪を靡かせながら向かってくる。流石にいきなり炎の龍を見せてはくれないようだ。


「使ってこねぇのか?マニャ?!」

彼は拳を振り上げて駆け寄ってくる。そして数秒後に僕のガードの上から拳を穿ち抜く。完全に防いだはずなのに腕がビリビリと痛い。


だが痺れた右腕を無理やり伸ばし、レーバティンの襟首を掴む。そのまま反対の手で彼の腕も引っ掴み、地面に叩きつけると小柄な体が跳ねて転げた。


生前、ろくに喧嘩などしてこなかった。それでも、体格差のある相手ならばここまで圧倒できるらしい。マニャが鍛えてたのもあるかもしれないが圧倒的だ。

炎の龍が見られないのは残念だが、ここはトドメを指して終わりにしよう。銀行に金を借りに行くのも嫌だしね。タナボタだ。


そう思って駆け寄った僕の目の前には炎の龍が立ち塞がる。近くで見ると鱗の造形は荒く、輪郭がぼやけている。なんて言うか龍っぽくない。きりたんぽとかの方が似てるんじゃないか?だが、熱い。

僕は素早く後ろへ下がった。2メートルよりも後ろへ。


「ふっ……俺様にコレを使わせるとはやるじゃねぇか。さぁどうする?強行突破は自殺行為だぜ?」


確かにそうだ。2メートル近くある炎のきりたんぽを通過すると全身に軽く火が入ってしまう。ミディアムレアだ。

僕はさらに一歩大きく下がると、ゆっくり両手をあげて叫ぶ。


「降参です!」


「はぁぁぁ?!ふざっっけんなよ!許さねぇ!まだ終わらせねぇ!!」

激情したレーバティンが、ファイヤきりたんぽを携えたまま突っ込んでくる。勘弁してくれ。こちとら【発光】しかないんだ。

でも流石に受付嬢が止め――助けを求めた視線の先にはアワアワとしている受付嬢が見えた。


死ぬのか?こんなミニゲームイベントみたいなので死ぬのか?この距離じゃニチュカも間に合わない。【発光】を使ってみたが、闘牛の如く突っ込んでくるコイツには意味がない。

どうする?……くそっ、せめて武器があれば。盾か、せめて長い棒さえあれば逃げ切れるかもしれないのに!

――そう願った僕の手にはさすまたが握られていた。


「なああああ!!」

さすまたの使い方なんて知らないのでメジャーリーガーのように大きく振りぬくと、レーバティンは大きく吹き飛んだ。

【火炎操作】範囲のギリギリだったようで手の甲がヒリヒリする。だが無事だ。吹き飛ばされたレーバティンは信じられないものを見るような顔をこちらに向けている。「親父にもぶたれたことないのに!」とか言い出しそうだ。


「お前、ありえない……その歳で二つ目の魔法?【英雄】サルバドーリですら死ぬ間際に二つ目だぞ!どんな生き方してやがる!!」


「二つ目……?」

そうだ。確かにそうだ。イジス・マニャの魔法は【発光】と【魔王】だ。どちらも【さすまた召喚】ではない。いつこの魔法を獲得した?……魔法を獲得するタイミングは優男が語っていた。脳に強いストレスがかかった時。例えば――死んだ時。

里で安藤勇に戻った時、マニャの体は抜け殻となっていた。あれを死亡カウントするならばその時に魔法を獲得したのだろう。ならばなんだ?あの時僕は何を考えていた?さすまたのことを考えていたわけない。力だ、力が欲しいと願った。それならきっとこの能力は【さすまた召喚】なんかじゃなく――


「――【武器生成】」

瞬間、僕の手にはボウガンが握られていた。

ボウガンはミョンと間抜けな音を立てて一発限りの矢を射出し、レーバティンの腿を貫いた。

苦痛にゆがむ彼とともに炎の龍が萎んでいく。

それに駆け寄り、彼の顎をボウガン本体で殴りつける。途端、彼の目は焦点を失い意識が消えた。


「……勝者、イジス・マニャ!!」

受付嬢が裏返った声を上げる。

その表情は緊張からの解放だった。


「よ、よかった……『尊厳』が来なくて……!!」

嬢がニチュカに抱きつく。ニチュカは驚き半分、物足りなさ半分と言った顔をしている。

まるでマオちゃんがスピード違反で捕まった時のような顔だ。あの時は肝を冷やした。まさか軽自動車で、しかも生活道であんな速度を出すとは思わなか――


「ではマニャ様、こちらに」


「あの、レーバさんは?」


「えぇ、気絶しているようなのでのちに衛兵が回収、投獄いたします。死闘は未遂でも重罪ですから。困るんですよ血の気の多い方は。大戦はもう終わったというのに」

一貫して明るく振舞っていた嬢に、初めて陰りを見た。


「あ、あの!英雄って何ですか……?」

気まずい雰囲気を打破しようと興味もないことを口走ってしまう。だが意外にも嬢はノリノリで答えてくれた。


「えぇ?!ご存知ないんですか?!大戦を終わらせた我が国、バルフラ王国が誇る英雄ですよ?!真紅の髪を靡かせ、その四肢は鋼鉄を裂き、空を駆けながら目にも止まらぬ速さで敵を蹂躙するんです!そして魔法に絶対の耐性を持ち、決して倒れることなく弱者を救い続けた傑物です!」


「へぇ」

ぼくがかんがえた最強のキャラクターって感じだ。そこまで強いと逆に萎えるだろ。応援しがいがないよ。


図らずとも切り替わった雰囲気に若干辟易しつつもカルガモよろしく受付嬢の後ろをついて歩き始める。

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