11話 倫理観の欠如
「何があった……?!」
「アンドウが行ってからコイツ、ずっと舌を噛みちぎってるネ。だから私がずっと直してたヨ」
「あ、あぁ、そうか。ありがとう」
怒りで思考から抜けていた。家族同然の存在がゴミのように一掃されてしまった遺族の気持ちを。そりゃ死にたくなるだろう。僕もマオちゃんがいなくなった時もそんな感じだった。
「お前、死にたいか?」
問いかける僕を睨んでからニチュカは頷く。
「わかるよ、死にたいよな。辛いよな。殺してやろうか?」
ニチュカは再び首を縦に振る。
「……でもいいのか?家族が蹂躙されて、仇も討たず、お前だけ自分の意思で楽に死ぬのか?」
ニチュカは首を振らなかった。代わりに僕を睨む。
これで良い。煽れ。煽り続けろ。
「お兄さんに何がわかるの?!私と違って恋人1人いなくなっただけじゃん!フラれただけじゃん!」
「あぁ!わからないね!命より大事なもん奪られて泣き寝入りするようなザコの気持ちなんて僕にはわからないさ!あと、フラれてねぇから」
「この……っ!」
ニチュカは怒りに任せて突っ込んでくるが【迎撃】により弾き飛ばされる。
「もう一度聞くぞ、お前だけ楽に死ぬのか?」
「……いやだ。やだやだやだやだ!全員殺す!教会を全員殺してやる!」
歯を食いしばったニチュカの目には光がない。代わりに憎しみが座っていた。だがそれでいい。
この時、僕には打算的な考えはなかった。「ニチュカがここで死ねばマオちゃんが探せなくなる」だとかそんなことはどうでもよかった。【サイコメトリー】で読み取った里の人々の思いが呪いのように絡みついてきたのだ。「ニチュカを頼む」と。そんな使命感に駆られてのことだった。それにこの体なら自力でマオちゃん見つけられるし。
「アンドウ、今度、お説教だかラ……」
そんなやり取りをしているとリーシャンが恐ろしげなことを口にしながら消えていく。これで決まりだ。召喚した奴らは超能力を使うほどこの世界での滞在時間が減るのだ。何とも不便な仕様だ。
「あぁ、わかった。またそっちで」
地球に戻ったあとはしばらくリーシャンから逃げよう。彼女のお説教は長いうえに心にくる。
そう言うとリーシャンは消えた。
――そして僕の体も同時に消え、魂は安定を求めイジス•マニャの体へと入り込む。
「は?」
なんで『安堂 勇』の体が消えた?超能力の使用者が消えても生成物は残るはずだろ?……向こうの世界のものだからか?
考えてみればそうだ。あの髪の毛はこっちに転生する前にリーシャンに渡したものだ。リーシャン、ルーダスの帰還に併せて彼らの衣服も消えるように、彼らが持ち込んだものも消えるのか……?
しまった、2つ持っている【魔王】はどちらもクールタイムに入っている。検証しようがない。
しかもニチュカを焚き付けた手前「2週間待っててくれ」なんて恥ずかしい。……だが仕方ない。
「ニチュカ……さん。2週間待ってください……」
僕は殴られた。イジス・マニャの体で受ける吸血鬼パンチはかなり致命傷に近かった。
――
――――
この2週間の過ごし方を話し合った結果2つ決まったことがある。優先度順に、
1、銀行を訪ねる
2、教会本部を探す
僕は2週間後に全て解決するから寝ていたいと抗議したが復讐に気持ちが切り替わったニチュカはそれを許さなかった。
ショッキングな出来事の後、寝込みたくなる僕と行動したくなるニチュカ。彼女は現代日本に生きていても鬱とかにはならないんだろうなと思った。
ちなみにそんな彼女が協会よりも銀行を優先順位高く置いた理由は
「教会を探すにもお金がかかるから銀行で借りてきて。借りられるだけ借りてきて!同郷の人が運営してるんでしょ?」
とウシジマくんも真っ青な発言をしたからだ。
同郷といえどウォーレンバフェットだとかホリエモンだとかだったら取り付く島もないぞと言ってみたが彼女にはうまく伝わらなかったようだ。
とりあえず今日はもう暗いので里で朝まで過ごそうということに落ち着いた。
買ってきた玉ねぎを半月切りに、鶏肉を一口大に切り分け、作り置きしていた椎茸スープに塩を加えて米とともに煮る。そのあとは卵を溶きいれる。雑炊だ。なんだかいくつか味が足りない気もするが、友人たちの死体を見た後では特に気にならなかった。
食い終わったら埋めに行くか。今日は寝られないだろうし。
埋葬文化は日本と変わらないらしく、死体を集めて焼却してもニチュカは遠くを睨むように見ているだけだった。
限界まで焼き、その間に桜の横に掘っておいた穴に亡骸を埋めた。
全て終える頃には朝日が昇り始め、死臭で澱んだ村を照らしていた。いつのまにかニチュカは支度を済ませていたようで手持ち鞄がパンパンになっていた。彼女はもうここには戻らないつもりなのだろう。
復讐を遂げたあとはどうするのか?里の皆と僕的には幸せになって欲しいのだが難しいかもしれないな。
「お兄さん、行くよ」
ニチュカは駆け出さなかった。里を惜しむように一歩ずつ地面を踏み締めて銀行のある街へと向かう。
――
――――
この世界は織田に聞いたとおり、3つの大陸がある。球体に正三角形を描くように頂点がイリス連邦、右下がフルゴ聖王国そして今我々がいるのが左下のバルフラ王国。
かつてジェフリ帝国というのが同じ大陸にあったらしいが10年前の大戦で滅び、今の形になったらしい。聞いている限り大陸は全て同じ大きさで一つ当たりがオーストラリア程っぽい。
脱線したがとにかく僕らはバルフラ王国の首都を目指す。
場所は買い出ししていた街からさらに三十キロほど離れた場所、時間にして6時間くらいだ。
道中魔物とやらも出たが見た目はほとんど地球の生き物と変わらない。鹿に長い一本角が生えていたり、猪が火を纏って突進してきたりとその程度だ。流石にデカいカマキリには恐れ慄いたがニチュカがあっさり倒した。漫画のバキ君も倒してたし意外となんとかなるのだろう。僕には無理だが。
整理してみると僕のスペックの低さが際立つ。
・【発光】手が光る
・【魔王】出血がすぐ止まる
・体力がある
以上だ。正確には【魔王】の能力で2週間に一度召喚ができるが今はできないのでノーカンとする。そう考えると今の僕はクリスマスツリーとそう変わらない。さすがに動けるので僕に分があるがホタルと比べられるとトントンくらいだろう。まぁ、道中はニチュカに頼るのでどうでもいいか。
僕は見た目だけで言えば一回りも年下の女の子の後ろに隠れ、バルフラ王国中央都市を目指した。




