里2 作者言い訳Q&A回
1ヶ月も過ぎた頃、僕はすっかり里の料理人となっていた。燻製から始まり、塩釜、炙りなど現代料理は里の皆の胃袋を掴んでいった。なかでも一際好評だったのは「出汁」だ。
直火焼きの文明の彼等に「グルタミン酸」だとか「イノシン酸」だとかは衝撃的だったようで、あり物で作った出汁スープのアンコールが1週間止まなかったのは記憶に新しい。だが干し椎茸と鳥肉と塩のスープは現代人の僕には物足りないものだった。
いや、現代人と括るのは良くない。なぜなら日本から来た僕と同郷のこの男は満足していた。
「よくこんな材料で作れるな。うまかったよ」
織田は空の食器を洗いながら語りかけてくる。彼ともこの1ヶ月で仲良くなったものだ。
「こんなの、誰だってできるだろ?」
「いやぁ、俺にはできねぇ、現に10年ちょっとこの里に住んでたけど直火焼きがデフォルトのままだからな。こんなことなら母親に習っとくんだった」
「ん?10年前?」
僕は織田の一言に引っかかった。
彼は『魔王』の全国放送を知っている。そしてその放送から1年ほどしか立っていないはずだ。
「そうだ。……あぁ、こっちとあっちじゃ時間の概念……?がちょっと違うらしい。俺も聞いた話だからよくわかんねぇけど。転生してこっちの世界で生まれ育って、13歳の頃ミィちゃんに一目ぼれしてさ。そっからずっとこの里に住んでんだ。あんときのミィちゃんは――」
「へぇ、聞いたって誰に?」
僕は興味のない馴れ初め話をぶった切り質問を続ける。
「んあ?山田さんって人。俺よりちょっと先にこっちに来ててさ、この世界で銀行とか作ったすげぇ人」
織田は少年のような笑みを浮かべる。
織田と出会った瞬間から別の異世界人がいる可能性は考えていたのでさほど驚かなかった。
にしても銀行か。異世界ドリームだな。僕も全部片付いたら漫画とか描こうかしら。
「織田はなんかやんないの?向こうの技術なら大儲けだろ?」
「うーん、いや、俺のせいで産業革命とか起きても困るし、この世界は平和で気に入ってんだ。それにミィちゃんにも出会えた。今世も普通の人間として過ごすよ」
「はははっ、普通って、吸血鬼のくせに!」
「え?俺は人間のままだぞ。転生してこの体になってからずっと人間のままだ」
「…………え?」
僕は今日一驚いた。
里に住んでて八重歯でガタイも良いのに人間のまま?驚きだ。それに好きな人が吸血鬼なら一緒に吸血鬼になりたいものだろう?
「吸血鬼になると体重無くなるし、それまでの記憶も無くなっていくらしいからなんか怖くてな。それにミィちゃんももう長くないからこのままでいいかなって」
唖然とする僕に織田は続ける。
だがその理由に僕は妙に納得できた。
この後は気まずくなった僕が話題を急転換させてこの世界のQ &Aを開催した。
Q,吸血鬼は一般的?
A,知られてはいる。
「バチカン市国市民」のような存在。いるのは知っているが見たことがない……そんな感じらしい。
Q,動植物は地球と一緒?
A,少し違う。
見た目は似ているものが多いが性格が全然違う。かなり好戦的。植物も自ら狩りをする種類も多く、それらは総じて『魔物』と呼ばれる。
Q,文明の発達度合いは?
A,酷い。
中世ヨーロッパ以下。魔法が万能な分、科学がそんなに発達していない。武器も移動手段も調味料もほとんど未発達。
Q,世界の大きさは?
A,そんなに広くない。
三つの大陸に一つずつの国があるらしい。魔法の攻撃範囲が広いため、地続きの国が共存するのは難しいそうだ。
僕らが今いる「バルフラ王国」も元は二つの国だったが十年前に起こった大戦で一つになったとのこと。
Q,魔法使いは多いの?
A,少ない。
魔法とは後天的に身につくものだが、その方法は確立されていないため織田の感覚で言えば「東大に入るくらいムズい」らしい。だが僕がこの世界に来た初日、”教会”に攫われた時のロマーズとやらが「魔法の発現方法」なんて口にしていたのを思い出すに一部では知られているのだろう。
どこの世界にも既得権益にすがる連中がいるもんだ。
Q,夏星真央はどこにいる?
A,「っふ……だっはははは!!不謹慎ネタかよ!!」
織田は文字通り腹を抱えて笑った。そのせいで織田の洗っていた食器が落ちて砕けた。
世界からの評判には無頓着だったが、どうやら僕は不謹慎扱いらしい。核だとか差別だとか大災害だとかそんなものに肩を並べる存在らしい。正直ショックだ。直接誰かを殺したわけでも何か壊したわけでもないのにこの扱いだ。
ちょっと国の名前を変えただけじゃないか。なんとも狭量な世界だろう。マオちゃんを見つけたら本当にここに住もうかしら。
そうしているうちに食器洗いは終わり食後のデザート、プリン(簡易版)が出来上がった。焚火で作ったため固まり具合にムラがあり、使ったのも粗雑な砂糖モドキ。味、触感ともに最悪なものとなってしまったが甘味の経験が希薄な吸血鬼には大好評だった。
里の子供たちに囲まれて、若者から担ぎ上げられ、老人に祭られた。まるで世界を救った英雄のような歓待が1時間ほど続いた。
アッくんと双子幼女なんて感動に打ち震えて弟子入りまで懇願してきた。
ちなみに織田は「カラメルは?」などと不服そうだった。
こいつプリンにはうるさいのかよ。めんどくさい。
――
――――
一通りの片付けが終わり、里の中心で瞑想を始めたミーアカリファと織田を眺める。
眠ると【無法地帯】が解除されてしまうため彼女は眠れない。たまに剣を振るったりしているが基本的に瞑想などで暇を潰しているらしい。
織田はそんな彼女の横にいて、少しでも気を紛らわせようとしているそうだ。なんとも健気だ。まぁ、織田は瞑想中に寝落ちしてるようだが普通の人間なので仕方ない。
「ねぇ、お兄さん。里は……大丈夫だよね?」
ニチュカが僕のそばに来ていた。
僕が来てからの数週間、襲撃はピタリと止んだ。その異常事態に怯える者も多く、彼女もその1人らしい。
「あぁ、大丈夫だよ。僕は最強なんだ」
また僕はテキトーなことを言った。
虚言癖とでも言うべきだろうか。まぁでも大丈夫だろう。いくら超能力もとい魔法が発達している世界だとしてもルーダスの【念動力】なら地爆天星もストーンエッジも出来るのだ。ナルトだのカバルドンだのが来なければ勝てるだろう。
それに秘策だってあるしな。だからあながち嘘でもないか。
不安そうな顔で僕のことをつま先から頭のてっぺんまで見回すとニチュカは口を開く。
「――でもお兄さん吸血鬼にも勝てないじゃん?」
「なんだァ?てめェ……」
♢マニャ(安堂)キレた‼︎




