5話
ヒーローの姿に変身し、送られた座標通りの場所に向かうエテルナエルガ。風を切り、喜捨場アルマ——エテルナレッドを先頭に空を飛ぶ。
魔獣の出現地点に近づくにつれ大きくなる人々の声。ブルーたちはその叫びに罪悪感を感じていた。
「見えたぞ、あそこだ!」
「レッド、降りるぞ」
魔獣の黒く輝く角が見えて、エテルナエルガはゆっくりと降下していく。そのビビットな姿に「来た!」と喜びの声を上げる人間もいた。
「エテルナエルガ、さんじょ……ん?」
控えめなポーズを決めたレッドが魔獣の姿を見て首を傾げる。決め切らない語尾にイエローは思わず顔をレッドの方へと向けた。
「ど、どうしました?」
「なんか……この魔獣、見たことある感じしないか?」
エテルナエルガの面々に緊張が走る。なぜなら、そのエテルナレッドの言葉が図星だったからだ。
今日試すという新しい魔獣は「前の魔獣の要素を再利用する」というものだった。同じ魔獣を出すと当然怪しまれてしまうので毎回違った魔獣を登場させる必要があるが、そのバリエーションも日を重ねるにつれ減っていく。そのため、前の魔獣を合体させることで魔獣の幅を増やす、という試みである。
鱗の色や爪の形状を若干変えて「再利用」だということを悟らせないようにはしているが、レッドはデジャヴを感じている様子だった。
「気のせいだと思うぞ」
「全く新しい魔獣だね」
「見覚えはないわ」
口裏を合わせたかのように、三人がテンポ良くレッドの違和感を否定する。レッドは何度か小さく頷いて、そうだよな、と戦闘体制に戻った。
今回の魔獣は上半身がドラゴン、下半身が蛇のようになっているアンバランスな見た目をしている。毒々しい濃い紫色の肌は地球の自然界ではなかなか見ない姿だ。
「レッド、今日はお前が魔獣を引きつけてくれ」
「了解!」
レッドはグッドサインを作り、ひと足先に魔獣の元へと向かった。それを確認して、四人は目線を一度だけ合わせて動き出す。
この魔獣の能力は細い光線と鋭い尾での攻撃だ。事前の打ち合わせでは、ブルーが一度光線に当たり、グリーンが尻尾をかすめる予定である。あまりにも余裕のある戦いは不自然に見えるかもしれないからだ。当たり前に、レッドに攻撃を当てる筋書きはない。
レッド以外の面々には、耳元で本部からの無線が絶えず流れ続けている。レッドだけが、全員全く同じ通信が届いていると勘違いしているのだ。
全員が配置についた頃、レッドは魔獣の目の前までやって来ていた。堂々と足を広げ、英雄然とした立ち姿で魔獣を真っ直ぐ見据える。
「かかってこい、魔獣!」
竜の目がぐるりと動き、縦に開いた瞳孔がレッドを捉える。凶暴な目つきにもレッドは全くたじろがない。
そして、魔獣が尻尾を動かし、腕を振り上げて——
「え」
魔獣は、レッドを前に背中を向け、逃げ出した。
「は? え!?」
「ちょ、どうしたんですか!?」
轟音を鳴らし、魔獣は必死になって東京を走る。
無線の先も困惑で満ちている。こんな行動、事前の話し合いでは一度も話題に上がらなかった。今までにも「逃げ出す」を選んだ戦闘は無かったというのに。
ブルーも、イエローも、皆内心パニックだった。
「と、とりあえず追うぞ!」
「あ、ああ、頼む」
レッドは速度を抑えて魔獣と並走する。レッドが1番落ち着いている状況は恐らく初のことだ。
ブルーはレッドに聞こえないように口元を押さえ、少し遅れて魔獣を追う。
「チーフ、これはどういうことですか」
「少し待って。状況を把握中です」
無線の奥では多くの人間が話し合っている声が聞こえる。ブルーは必死に頭を回転させるが、それでも逃走の理由は判明しない。
そんなブルーの横にグリーンが飛んできて、青の仮面に顔を近づけて声を潜めた。
「……何が起こっているんですかね」
「これ、僕の予想なんだけど」
グリーンはレッドと魔獣を交互に指す。レッドが魔獣の右に移動すると魔獣は左に動き、レッドが左に動くと右に体を逸らす。
「もしかして、レッドから逃げてるんじゃないかな」
「……レッドから?」
魔獣の動きは完全にレッドを避けるようなものだ。彼を怖がっているのかもしれないが、魔獣に相手の力を感じ取る能力を追加する理由はない。
「でも、どうして?」
「それは分からないけど……」
イエローとパープルは街に被害が出ないように、暴れる尻尾を押さえている。本気で魔獣と戦うのは久しぶりのことだ。
そして、ちょうどその時。ジジ、と通信の音が揺れた。
「みなさん、原因が判明したかもしれません」
チーフの冷静な声が届く。ブルーは早く原因を知るため、無線を耳に押し付けた。
「彼らの推測ですが、魔獣を再利用したことによって、かつてエテルナレッドに倒された記憶が残っていて本能から逃げ出したのではないか、と」
「……は!?」
あの魔獣はどちらもレッドがトドメを刺した魔獣だ。ドラゴンの方はパンチで、蛇の方は踵落としで退治されている。もしかしたら、の域は出ないが、妙に説得力がある予想だった。
「どうしますか、今の状態でレッドに攻撃させるわけにも、でもこのままじゃ被害が……」
「安心してください」
ブルーは、本部で映像を見ながら眼鏡を上げるチーフの姿を想像した。
「既に要請しています。彼に」




