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2話

「ああ、今日もみんな無事でよかったな!」


 基地に戻り、変身を解くエテルナエルガの面々。無機質な仮面の姿から、生身の人間へと姿を変えていく。

 1番に変身を解いたのは、赤み掛かった茶髪に、正義の光が凛々と輝く瞳を持った青年。

 エテルナレッド——もとい、喜捨場(きしゃば)アルマだ。


「アルマ、何度言ったら街に被害を出さないようにしてくれるんだよ」

「ごめん、オレ、みんなみたく力加減があんまりわかんなくて」


 これじゃリーダー失格だな、とアルマは笑う。次に変身を解いたのはきっちりと黒髪を整えた青い目の男だ。眼鏡をわざとらしく上げて、キツめの視線をアルマに向けている。


「いつも言ってくれてありがとな、デント」

「お前が覚えないからだぞ」


 エテルナブルー——茅切(かやきり)デントは、腕を組んで大きなため息を落とす。それから仮面型の変身キットを自分用のカプセルの中に入れ、ガラスの蓋をした。


 アルマは若々しい青年といった外見だが、デントは落ち着いた大人という印象を受ける見目をしている。しかし、アルマがデントに敬語を使う様子もなければ、デントがアルマに配慮する様子もない。


「ん、おいネネノ、変身キットをしまうの忘れてるぞ」

「え? ああ、すみませんデントさん!」


 ネネノ、と声をかけられた女性はわたわたと手を忙しなく動かし、ガラスの筒の中に黄色の仮面を入れた。エテルナイエロー——八ツ星ネネノはいつも同じような失敗をする。それをデントが注意する、というのがいつもの流れだ。


 ネネノは髪を二つ結びにしていて、それぞれに黄色のメッシュが入っている派手な外見をしている。しかし、彼女を「派手」にしているのはそれだけではない。ネネノは女子の平均身長、そして男子の平均身長を遥かに凌駕する長身の体を持っているのだ。彼女と目線を合わせて話すことのできる人間は、日本人には中々いないだろう。


「ネネノぉ、そうやって「うっかり変身キットを外に持ち出しちゃいましたー」とかしないでくれよ」

「アルマさんまで……! あ、あたし、そんなうっかりさんじゃないですから!」

「どうだかねえ」


 へらへらと笑いながらその様子を見ているのは、髪を後ろで括った褐色の男、エテルナグリーンこと新界マツジだ。間延びした話し方の、のんびりとした男である。マツジはかなり身長が高い方だが、それでもネネノには敵わない。


「そうだアルマくん、今日は何食べたい?」

「うーん……肉!」

「お、奇遇だねー、僕も肉の気分」


 マツジはネネノに視線を向ける。すると、ネネノは膨らませていた顔を明るくして、すぐにどたどたと足を鳴らしながらキッチンへと向かった。


「すぐ作りますから! 待っててくださいね!」

「あは、ネネノちゃんは本当に料理好きだよね」

「凄いよな、普通めんどいって思うもんなー!」


 普通ではないだろ、とデントがラフな服に着替えながら言う。それから少し離れたところで、真っ白な髪を短く切りそろえた女性が何をするでもなく座っていた。


「フアンもお疲れ」


 デントの言葉に、エテルナパープル——春前フアンは目線だけで応える。ここにはその態度を失礼だと思う人間はいない。フアンはそういう人間だと、皆がとっくの昔に理解している。


「そうだ! デント、今日の被害は?」

「建物に多少の損壊がある。死者はゼロ、重症もゼロだ」

「良かった! 今日も正義を守れたな!」


 アルマの「正義」という言葉に、デントとマツジがぴくりと反応する。しかしデントは少し間を開けて、すぐに「そうだな」と返した。


「どれもこれも、リーダーくんのおかげだよー」

「あはは、エテルナエルガ全員のおかげだろ!」


 きらきらと輝く瞳を細めて、アルマが笑う。マツジは一度アルマと目を合わせて、それからついと目を逸らした。


「あの、すみませーん」

「どうした?」


 キッチンからネネノの声が響き、大きな人影が壁の隙間からひょっこりと顔を出した。その手には調味料の瓶を持っている。


「このフタ固くって……誰か開けてくれません?」

「お前、その見た目なのに意外と力無いよな」

「ちょっと、大きいのは仕方ないじゃないですか!」


 デントの多少デリカシーのない言葉にネネノはぱたぱたと足を浮かせて怒る。マツジも彼女に同意した。

 ネネノが掲げる瓶を見て、一人がすぐに手を挙げた。リーダーのアルマである。


「オレが開けるよ」


 え、とネネノの口が動く。先程までわいわいと談笑していたデントとマツジも話を止めて、微妙な笑顔のままアルマを見た。


「ん? どうしたんだよ」

「いや、えーと……」


 アルマさんは、とネネノが小声で呟く。不自然に口角を上げた彼女にアルマが眉を顰めていると、ふいに立ち上がったフアンがネネノから瓶を取り、簡単にそれを開けた。


「開けたわよ」

「あ、あっと、ありがとうございます!」


 ネネノは開いた瓶を持って、そそくさとキッチンへと戻っていく。フアンは何事もなかったかのように椅子に座り直し、カバーがついた本を手に取った。


「なんだよ、オレじゃ駄目だったの?」

「……あー、あれじゃない? ネネノちゃん、アルマくんの力じゃ開けられないって思ったんじゃないかな」

「え!? オレ、そんな非力じゃないけどなぁ」


 アルマは自身の手を握ったり開いたりを繰り返す。デントは眼鏡を拭き、低く響く咳を一つ落とした。


「アルマ、改めて変身キットの注意事項を読もう。手加減せず街をぶっ壊されたらたまったもんじゃないからな」

「お? 分かったぞ」


 デントは何一つ装飾がなされていない机にマニュアルを開き、アルマを隣に呼びつける。それから、キッチンでの料理する音をBGMにしながら、改めて変身に関する注意の項目を読み上げた。



 ネネノが作った料理も食べ終わり、各々が好きな時間を過ごしている夜。——基地からでは外の様子を見ることができないので、時刻から夜だと判断しているだけである。

 ネネノとマツジはオセロで遊び、デントはタブレットで小説を読み、フアンは何もせず座っている。そして、アルマはひと足先に歯を磨き、寝る準備を整えていた。


「ひんは、ほふほひへひははるほなー」

「何言ってるか分かんねえよ」

「磨き終わってから話しなー」


 ぱちん、とオセロがひっくり返される。うげ、とネネノが苦い声を上げた。

 彼が洗面所へと向かい、水の流れる音が止まった頃、アルマは口元を拭きながら戻ってきた。


「みんな、よく起きていられるよなー」

「ああ、それが言いたかったのね」

「アルマさんが早寝すぎるだけですよ」


 ほぼ真っ黒にひっくり返されたネネノが頬をかきながら笑う。アルマは腕を組んで、どうしたら夜遅くまで起きられるのか考え込んでいた。


「アルマ、お前まだ18だろ? 育ち盛りなんだよ、きっと」

「18は育ち盛り終わってるくないか?」

「いやいや、僕ぐらいになってからやっと育ち切ったって言うんだよ」


 エテルナエルガの中で、アルマだけが唯一10代の人間である。他のメンバーは全員20代だ。


「でも、前はこんな……ふわぁ……」

「ほら、もう寝ろって。無理に徹夜する意味ないだろ、お前は」

「まあ、そうかも……」


 アルマは後頭部を掻く。ネネノはそわそわとしながら、フアンは少し離れたところでアルマに視線を向けていた。


「じゃ、オレ先に寝るわ。おやすみー」

「おやすみ」

「お、おやすみなさい!」


 アルマが自室の前に立つと、扉が自動でスライドする。彼が中に入るとまた一人でに閉まった。

 アルマの姿が見えなくなった後も、エテルナエルガのメンバーたちは自由に時間を過ごしていた。オセロを続けて、本を読み、天井を見上げる。


 ——そして、5分経った頃。

 いきなり、各々が活動を止め始めた。デントはタブレットの電源を落とし、ネネノとマツジは途中だったオセロを中断して片付ける。フアンは立ち上がり、静かに彼らを待っていた。


 片付けが終わり、デントたちは静かに基地の居住区から移動した。ヒーロー本部の長い廊下を歩き、「会議室」の文字が書かれた扉の前で止まる。デントがそこに手をかざすと、重たい機械の扉は簡単に開いた。

 

 その部屋の中で待っていたのは、スーツをきっちりと着こなした真面目そうな女性と、少し俯いて皆の様子を伺っている若い男だ。彼女は軽く会釈をして、エテルナエルガ全員に椅子に座るように促す。


「皆さん、揃ったみたいですね」


 女性が資料を持ち、モニターの前で立って話を始める。デントも、ネネノも、マツジも、フアンも、誰も表情を動かしていない。その理由は簡単だ。


「では、喜捨場アルマ——エテルナレッド対策会議を始めましょうか」

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