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18話

「みんな! 見てくれ、オレの家族だ!」


 そう言って、居住区に堂々と姿を現したアルマ。彼はフウマの肩を抱き寄せ、自慢げに顔を近づけてみせた。


「わ、そっくりだねぇ」

「ア、アルマさんの兄弟さんなんですか?」


 マツジとネネノは打ち合わせ通り、初めて彼を見たかのようなリアクションをする。デントは部屋の隅で頭を押さえていた。


「ほら、自己紹介」

「あ……黒原フウマだ。よろしく」


 エテルナレッドとエテルナブラックとして出会うものだと思っていたのに、まさかアルマとフウマとして顔を合わせるとは。流れるはずのない冷や汗が頬を伝った気がした。


「フウマはヒーロー本部で働いてるんだ! こんな奇跡中々ないよな、凄いよな!」

「あ、あはは……」


 そう、そんな奇跡あるはずがない。ネネノは精一杯の愛想笑いをした。


「ちなみに、どっちがお兄ちゃんなのかな?」

「それは分からない。出生の記録は詳しくは知らないんだ」

「でも、オレだと思うけどなー!」


 フウマもそう思うだろ、とアルマは同意を求める。兄弟の存在がよほど嬉しいのか、アルマはいつもより声が大きかった。


「ほら、フアンも見てくれよ! オレの双子!」

「そうね、とてもよく似ているわ」


 フアンはフウマを一瞥することもなくそう言った。雑な演技にデントは声を出しそうになったが、すんでのところで留めた。


「……ふざけてる」

「ん? フアン、なんか言ったか?」

「いいえ。それより、ワタシは本部に呼ばれているの。ここで失礼するわ」


 フアンは目を伏せ——わざとらしくフウマから目を逸らし——居住区から姿を消した。


「フアンはいつも忙しいんだ。たまには休んだほうがいいと思うんだけどなー。……フウマ?」

「いいや、なんでもない」


 少し沈黙が流れて、どことなく気まずい時間が訪れる。そんな時、マツジがテレビの電源を付けてアルマたちを手招きした。


「そういや、フウマくんってゲーム得意? ちょっとやってみせてよ」

「おー、それはいいな! オレも兄弟とゲームしてみたかったんだ!」


 アルマはフウマの手を引き、いつもエテルナエルガで並んで座るソファに座らせる。アルマは遠慮せずどかっと座ったが、フウマは少し浅く腰を下ろした。


「オレ、ここに来てから初めてゲームやったんだよね! フウマは?」

「自分はやったことがない。ここでやるのが初めてだ」

「へー! そこもオレと似てるんだ!」


 ゲーム画面が大きく表示される。いつもマツジとアルマが競っている格闘ゲームだ。


「ほら、デントとネネノも! 一緒にやろうぜ!」

「あ、えっと、やりましょっか、デントさん」


 デントは言われるがままにふてぶてしく歩き、フウマを見下ろしてから彼の隣に少し空けて座った。


「大丈夫だからなー、フウマ。オレがちゃんと守ってやるから!」

「ちょっとー、チーミングは駄目だよー」


 フウマは「なぜ自分はこんなことを」とうっすら思いながらもコントローラーを握る。それから、「フアン」という名のついたアカウントを操作した。



————————



 その頃、フアンは訓練場を訪れていた。無機質で、マス目がついた壁に囲まれた部屋である。


「始めましょうか、フアンさん」


 ガラスの壁越しに男性職員がスピーカーで声をかける。フアンはそれに返事をする事はなかった。


 ジー、と機械が動く音だけがフアンの耳に届く。それからマス目のうち一つが裏返って、コンクリートの壁が丸いアーチェリーで使うような的に変わった。

 その的を見て、フアンはすぐにその中央を撃(・)ち(・)抜(・)い(・)た(・)。しかし、彼女は手ぶら。銃なんて持っていない。——彼女が使ったのは、自身の肩(・)から展開された機関銃だ。


 他の壁も次々に的へ変わっていく。彼女は二つの目と、うなじから伸びたカメラで周囲を見渡し、正確に赤い丸に銃弾を的中させる。一つにつき一発だ。彼女は一歩も動く事なく、全身から飛び出た黒い銃口を正確に操作した。

 大きな的を打っていく中、天井から眼球ほどの大きさしかない的が降りてきた。それを認識すると、フアンは人差し指をその的に向ける。すると第一関節がパカっと開いて、そこから小型の弾がまっすぐ伸びた。見事的中である。


 その瞬間、ピーッと笛の音が鳴る。全ての壁がひっくり返り、元の均等なマス目の壁に戻った。男性職員が何かのボタンを押すと、フアンの装備がすべて格納されていき、元のスリムな女性の姿に何事もなかったように変化した。


「的中率100%。不具合もありませんね」


 職員は特に感心した様子もなく告げる。

 ヒーロー本部が作り上げた対エテルナレッド最終兵器——春前フアンという名のサイボーグは、何を言うでもなく高い壁を見つめていた。


「前回追加した新装備も特に影響せず安定しているようなので、次回は踵部加速器を付け替えましょう」

「はい」


 彼女の身体は全て、喜捨場アルマを、エテルナレッドを殺すために作り替えられている。それ以外の用途を考えられていない特製のボディだ。それでもなお、エテルナレッドの生命活動を終了させるには足りないが。


「では、訓練場から退出して、それからテストを行ってください」

「はい」


 フアンの性能チェックの後には必ずメンタルチェックが行われる。と言っても、毎回同じような回答をするだけだが。

 部屋から出て、フアンは狭い部屋に入る。向かいには穏やかな表情をしたショートカットの女性が座っている。


「今日もお疲れ様でした、フアンさん」

「はい」

「いつもと同じですが、なるべく正直に答えてくださいね」


 それから、職員に一つずつ最近の心理状態を質問される。フアンは前回とさして変わらない回答をしながら、心の隅でエテルナブラックについて考えていた。

 同じ役目を課されて生まれた、同じような存在。エテルナレッドのため、世界のために作られた安全装置。意味を成していない安全装置。


 何もかも似ている存在が、今やエテルナレッドと双子ごっこをしている。「それ以上でも以下でもない」はずなのに、フアンがエテルナパープルとして活躍しているように「おままごと」をさせられている。

 くだらない。何のために仲良しこよしのフリをしなくてはならないのだ。


 フアンの願いはただ一つ。世界の平和のため、宇宙の安全のため、エテルナレッドをこの世から消す事だ。

 ——そう、叶いっこない願いである。

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