15話
秘密結社の幹部、ウルティ。
女子にしては身長が高めで、自慢の黒髪のケアは欠かしたことがない。
「悪の組織らしさ」を演出するため、エンディアと同様にほとんどの日をコスプレで過ごしている。ボスの雰囲気に合わせ、彼女の衣装はフリルがふんだんに使われた可愛らしいゴスロリになっている。モチーフは魔女だ。
エンディアは格好に慣れるまでかなりの時間を要したが、彼女は最初からノリノリだった。もはやゴスロリが普段着である。彼女の衣装だけバリエーションが豊富なのもそれが原因かもしれない。
「あはは! もっと壊しちゃえー!」
そう言って、彼女が大はしゃぎしながら軽くステップを踏む動画がSNSで投稿されている。一般人が逃げながら撮影したものなので写りは悪いが、これが何百万再生もされているのだ。
エンディアより遥かに出番は少ないが、ウルティの存在はかなり世に広まっている。設定としては「カワイイ魔獣とセットで現れるきまぐれ美少女」だ。顔を仮面で隠しているのに「美少女」とは、とエンディアは彼女の評価を疑っている。
そんな彼女は現在、ガラスの筒の中に入った、とても小さな魔獣と睨めっこしていた。
彼女が行っているのは魔獣の操作テストである。魔獣は大きくなればなるほど制御するのが難しくなるのだが、それよりも難しいのが極端に小さい魔獣だ。操作を間違えるとすぐに弾けてしまって扱うことができなくなる。ウルティは制御を可能にすることで様々な技術に転用しようと思っているのだ。
「よしよし、良い子だからねー」
魔獣は足をピクピク動かす。ウルティは毛むくじゃらの蜘蛛のようなそれに可愛らしい挨拶をさせた。
なかなかうまく操作できているのでは、とウルティは自分のことを自慢に思う。ちょうどその時、ガチャン、と扉が開く音がした。
「ごめん今見えない。誰ー?」
「エテルナブラックだ」
「お、きみだったか」
ウルティは視線は動かさず、魔獣を動かしながらエテルナブラックと会話をする。彼は人工的に生み出した、魔獣と同じような生命体だが、知能があり、魔獣を制御する技術もあるので通常と同じように勤務させているのだ。そのおかげで、秘密結社内での仕事が減りそうでエンディアは喜んでいた。
「Dr.ルニエに第二研究所まで来るよう言われているのだが、場所がわからない」
「あーそっか、まだ第二研究所のこと言ってないもんね」
戦闘能力のテストをするために第二研究所でテストをする、とDr.ルニエが話していたことを思い出した。ウルティは彼女の杜撰さを思いながら、どうしたものかと頭を悩ませる。魔獣は筒の端まで移動した。
「あー、私が案内した方がいいんだろうけど、今ちょっと忙しいんだよなぁ……。えーと、ここの地図は頭に入ってるよね?」
「ああ、覚えている」
「なら、17番のポータル使って。それならルニエちゃんのとこいけると思うから」
ちなみに、ポータルと次元の穴は違う物だ。ポータルは特定の場所を繋いで行き来するための人工的なもので、次元の穴は名前通り別の次元へと繋がる、天然でしか生まれない物である。次元の穴とは違い、ポータルで繋げることができるのは同じ次元の空間だけだ。
「分かった」
「うん、よろしくー」
エテルナブラックはポータルの場所へ向かい、ウルティは自分の作業に戻る。小さな魔獣は頭を動かし始めた。
ウルティはそれを動かしながら、エテルナブラックについて考える。彼はこの世に生み出されてすぐの存在なのに仕事を嫌がらないし、よく勉強する。対エテルナレッドというとんでもない役目も「それが作られた理由だから」と簡単に受け入れた。もしウルティたちの次元で高い知能を持った生命体の製造が禁止されていなければ、未来永劫使っていきたいくらいの優秀な人材である。
魔獣が筒の中を往復した時、再び扉が開く。エテルナブラックが戻ってきたのかと思ったが、その声はウルティがよく知る部下のものだった。
「ウルティ様、ルニエ様から連絡が」
「え? なになに?」
「まだエテルナブラックが到着していないが、何があったのか、と」
ウルティは部下の言葉を復唱する。
「いや、さっき見送ってきたよ。ちゃんと17番のポータル使いなって言ったし」
「え、ウルティ様17番のに案内したんですか?」
奥で作業していた桃色の髪の女性職員が顔を出す。ウルティはうっすらと嫌な予感がしていた。
「うん……駄目だった?」
「あれ、最近繋がる先が不安定になってるから当分使用禁止にしてませんでしたっけ。ほら、エンディア様が言ってたじゃないですか」
「……あ、言ってた」
もうエテルナブラックに指示を出してから10分は経過している。ポータルの位置的に、まだ到着していないのはありえない。既に通った後だ。
「やっば、やらかした」
エテルナブラックは秘密結社が量産できるようなスペックをしていない。失くしたとなれば大事だ。そもそもそれ自体の存在がかなり危ない物だというのに。
「どっか知らん星に飛んでたらどうしよ、あれ、これ……やばい。ちょ、今それどこ繋がってる?」
「はい、調べますね」
優秀な部下はすぐにポータルの元へ向かう。それからしばらくして、彼女は焦った顔で戻ってきた。
「ウルティ様、良いお知らせと悪いお知らせがあるんですけど」
「きみ、勿体ぶって言うの好きだよね。良いお知らせからお願い」
「はい。現在17番のポータルは知っている場所に繋がっていました」
不具合を起こしたポータルはランダムな場所へと繋がる。だというのに知っている場所に繋がっていたとは、なんてラッキーなんだとウルティは思った。
「じゃ、悪いのは?」
「ヒーロー本部です」
「……へ?」
「あのポータル、ヒーロー本部に繋がってます」
ウルティはエテルナブラックの顔を思い出す。あれが誰の顔をしているのか、そんなの言うまでもない。
「……やっば」
きまぐれ美少女は魔獣を破裂させた。
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「アルマさん、今日は検査の日ですよね?」
ネネノはココアを飲みながら、ソファに寝っ転がって本を読んでいるアルマにそう言った。すると、アルマは「あ!」と大きな声を上げながら本を顔に落としてしまった。
「まっずい、忘れてた!」
「で、ですよね。もう5分前なのに大丈夫かなって思ってて」
「アルマくん、遅刻はヒーローのすることじゃないよ」
マツジはにやにやとタレ目を細めて笑う。
「検査」というのはエテルナレッドの身体情報を得るための定期的な作業だ。本人はベッドで横になるだけの、ただのバイタルチェックだと思っている。
「今のうちにトイレ行かないと! うわ、あっぶねー!」
「そんな時間ないよー」
アルマはどたどた部屋を駆け回る。トイレに行って、服を着替えて、転びそうになりながら行ったり来たりした。
「教えてくれてありがと! 行ってきます!」
「はい、いってらっしゃい!」
アルマは「施設内で走るな」と言われたことも忘れて廊下を走った。まだ、平均的な速度である。
「やばやば、チーフ怒ってるかな……」
チーフは時間に厳しい。アルマが収集に2分遅れた時も口うるさく注意された。走っている途中にアルマはズボンが前と後ろ逆なことに気がついたが、それを直すよりも彼女に怒られないことを優先した。茶色い髪を跳ねさせて、だんだん加速しながら検査室へと向かう。
長い廊下を進み、検査室がだんだん近づいてくる。——もちろん、アルマの息は切れていない。ここの角を曲がればすぐだ、と踵を浮かせて方向転換しようとした時。
「うわっ!?」
アルマの目の前に、いきなり人影が現れた。
ぶつかってしまうと思ったアルマは咄嗟に体重を後ろに持っていく。つま先で踏ん張り、わざと尻餅をつくことで衝突を回避した。
「大丈夫ですか!」
アルマはぶつかりそうになった人を見上げる。
そして——
「……ん?」
その、黒い影と目が合った。
「……え?」
黒い影——アルマと全く同じ見た目をした男は、困惑に満ちた顔でアルマを見下ろしていた。




