14話
「アルマ……?」
思わずこぼれた声に、デントに一瞬だけ視線が集まる。部屋の中央に現れたのは、喜捨場アルマと全く同じ背丈と顔を持った人間らしきもの。光を通さない真っ黒な髪とどこか冷たい瞳、動かない表情がアルマと違うところだった。しかし、デントはなぜか目の前にいるナニカがアルマそのものに見えたのだ。
「ほ、本当にそっくりですね……」
「ほーん。アルマくんって無表情だとこんな感じになるんだ」
ネネノとマツジは各々の感想を言う。二人とも瓜二つ、程度の印象を受けたようで、デントと同じ感想を抱いた人間はいなかった。
「ルニエさん、ご説明を」
「えーと……これが、あーしたちの技術力を結集した対エテルナレッド最終兵器、エテルナブラックでーす」
最終兵器と言ってもだけど、とDr.ルニエはまた自虐を始める。相当な技術を要したはずなのに、彼女に達成感や安堵の気持ちは感じられなかった。
エテルナブラック、と呼ばれたアルマそっくりのそれは眼球を動かしてデントたちを観察している。その様子を見て、フアンは少し眉を動かした。
「これ、知能はあるのかしら」
「うん、ちゃんとあるよ」
ウルティはいつの間にか菓子を頬張っていた。袋にはみかんの果汁が溢れるイラストが描かれている。もぐもぐ食べながら話すので、エンディアが小さい声で彼女に注意した。
「ほらエテルナブラック、話してみてよ」
「——こんにちは」
淡々とした声だが、やはりアルマそっくりである。彼の声を少しだけ低くした感じだ。いつものアルマを知っているエテルナエルガの面々には、その声は機嫌が悪い時のものに聞こえた。
「えっと、どれくらい強いんですか? もしかして、アルマさんと同じくらい……」
「いや、完全にエテルナレッドを再現した……はずなんだけど、あの滅茶苦茶具合は無いんだよね。どこにも」
Dr.ルニエはフアンの方を一度見て、それからため息をつく。
「頑張ってみたけど、そっちの最終兵器と同じか、ちょっと強いぐらいかな。いや、実際どっちが強いかは戦わせないとわかんないけど」
「その必要はないわ」
エテルナブラックを凝視するデントを尻目に、最終兵器についての話は進んでいく。
「それよりも、エテルナレッドと戦闘した時にどのくらいもつか、それが重要よ」
「現在のエテルナレッドとなら、エテルナブラックが死なない立ち回りをすれば丸三日は生きられると思いまーす。本人が力を自覚しなければ、それ以上かな」
そのうち、エテルナブラックがデントの目線に気がついた。目が合って、デントは焦ってわざとらしく顔を背けた。
ヒーロー本部の最終兵器は「どれだけエテルナレッドに攻撃できるか」を突き詰めたものだったが、秘密結社作のものはそれとは少し違うようだ。
「はい、僕からも質問」
「なんですかグリーンちゃん」
「ブラックくんはどんな性格なのかな? アルマくんとはまた違ってるみたいだけど」
マツジの質問に、エテルナブラックは顎に手を当てる。「性格」と呟いて、少しの間考え込んだ。
「少なくとも、エテルナレッドではない」
「あは、そういう答えか」
口調や表情からなんとなく察してはいたが、彼はアルマのクローンだが中身は似ていないようだ。そのことに、デントは胸の中に何かが溜まる感覚がしていた。
「ワタシもまだ質問があるわ。これから運用していく、と聞いていたけれど、これをどのように使うのかしら。何度もレッドと戦わせて、その度に逃げるつもりなの?」
「いいえ、エテルナブラック自体の戦闘能力も魔獣と比べると破格なものですが、それよりも魔獣のコントロールに使うことが多くなるかと思います。エンディアさんに任せきりにすると大きな負担になってしまうので」
既に運用方法を把握しているチーフが説明した。
普段はエンディアが7、ウルティが2、Dr.ルニエが1ぐらいの比率でエテルナレッドの前に姿を現している。エンディアの負担が大きいので、それを軽減する役目も兼ねているということだ。エンディアは「まあ、ありがたいですけど」とぼそぼそ独り呟いた。
「んじゃ、使い方はちょっとだけこっちに似てるんだ」
そう言って、マツジはフアンを見る。彼女は相変わらず冷えた瞳をしていた。
「……本当に、アルマじゃないんだな?」
デントの発言を聞いて、ネネノが不思議そうな顔で首を傾げた。ここに、エテルナブラックを喜捨場アルマと同一視している人間はいない。少なくとも、彼以外は。
「自分はエテルナレッドでも、喜捨場アルマでもない。彼の記憶は持っていないし、彼の感情にも共感しない」
「そうか……」
それを理解しても、デントの頭はどうしてもそれをアルマと重ねてしまう。彼と全く同じ目、というのはデントを混乱させた。
「いつから使うのかしら」
「いろいろテストしないとだから、まあ1ヶ月後とかかな。まだエテルナレッドのデータもそこまで入れてないし」
その時が来たら、デントたちはエテルナブラックを知らないフリをしなくてはいけない。すっかり慣れっこだが、デントにはその自信が湧いてこなかった。
「他に質問はありますか?」
「まだ、最後に一つあるわ」
「フアンちゃん、今日はたくさん喋るね」
フアンはマツジの言葉を無視して、質問する。
「あなたは、エテルナレッドのことをどう思っているの」
その質問の対象ははDr.ルニエでも、チーフでもない。フアンはエテルナブラック本人に聞いていた。
それは考える素振りを見せず、即答する。
「自分が作られた理由だ。それ以上も以下もない。それだけだ」
「そう」
フアンは目を逸らす。デントは彼女がその質問をした意味がよく分からなかった。
それから、Dr.ルニエからエテルナブラックの詳しい性能の説明がされた。どんな力を持っているのか、どれだけ活動できるのか。「生物兵器」と言うに相応しい能力を持っていたが、エテルナエルガのメンバーたちに特に驚きはなかった。それよりも遥かに以上な存在を既に知っているから。
「最後にですけど、まあ、こんなオーバースペックな生命体他に用途ないんで……もしエテルナレッドへの隠蔽作戦が終わったら、その時は処分する予定です」
「えっ、殺しちゃうんですか」
ネネノが少し裏返った声を出す。
「それはちょっと、可哀想なんじゃ……」
「あ、処分するのは使わないからってのもそうなんだけど、他にも理由があって……終了せざるを得ないが正しいですねぇ……あーしたちの世界ではほんとは駄目なんで、こういう高い知能を持ったイキモノ作るの」
内緒にしてね、とウルティが菓子の袋を閉じながら言う。そういう法律や憲法、はたまた取り決めがあるのかは知らないが、エテルナブラックは本当の意味でアルマのために生まれた限定的な命であるようだ。
「意義はない。ただ役目をまっとうするだけだ」
「わあ、かっこいいねぇ」
ウルティは手を合わせてエテルナブラックを賞賛する。デントはそれの行く先に納得はしたが、それでも気分は良い物ではなかった。
「これで以上ですけど……だいじょぶそうですかね」
「はい。ご説明ありがとうございました」
Dr.ルニエはまたリモコンを取り出し、エテルナブラックをお立ち台ごと下にしまう。それの目が見えなくなって、デントは大きなイベント事が終わったような気分になった。
エテルナブラックの発表が終わり、次々に席を立っていく。デントも同じように白い椅子から立ち上がった。
フアンを先頭に、エテルナエルガの四人はヒーロー本部へと戻る。彼女の背中はいつも話しかけ難い雰囲気を醸し出しているが、今日はそれが顕著に現れていた。
「……それ以上も以下もない」
ぽつり、とフアンが呟いた言葉をしっかりと聞き取れた人間は、ここにはいなかった。




