『アイラは頂いた!』『長続きするといいですねぇ』
~~~~~~~~
★ジェシー・ウエストの事情も考えず自分の要求だけを通そうとする自己中アイラ。ジェシーから最後に痛いしっぺ返しをくらいます。和やかでほのぼのとした、幸先の良い婚約パーティーがはじまろうとしています?
~~~~~~~~
さて、わたしが普段過ごしているブナハウスの応接間で、ある式典が催される運びとなりました。
立食パーティー形式婚約調印式。
ナンノコッチャ。
発案者は誰?
わたしのお隣には妖艶美女セレーナさん、後ろにはカッコ可愛い護衛役のタンディーさん。テーブルを挟んだ向かいにはジェシー・ウエスト、お隣にはナットさんのお父様。わたしの義両親ギーズ夫妻は窓辺にいる。
妊娠中のお義母様にはウォルティーさんと二人の侍女が張り付いている。
なお、ジェシー・ウエスト(クズ男改めフェロモン大王)の髪の毛は相変わらずフッサフサです。
(クズで嘘つきだけど、わたしを大事にしてくれるから離れられなくなったじゃない……こうなったら責任を取ってもらわなくちゃ)
ところがここにミリー・サウスもいるのだ!
何でだ!
「暇なの? ド田舎に帰れば?」と言ったのに。
「アイラはおバカさんだから、わたくしがいないと変なことを言い出しかねないじゃない。それに、わたくしはサウス家代表よ。妹の面倒を見るのはわたくしの使命よ!」だって。
妹じゃなくて従妹だし。
「それよりも、さっさと首都で遊べる殿方を紹介してくれない?」
それが目的らしい。
「わたし、ギーズ子爵家夫人でアイラの義母になったエレンよ。あなたが次期サウス男爵夫人でよろしかったかしら?」
「は、はい、わたくしが次期サウス男爵夫人で、アイラの従姉にあたるミリーと申します。いつもアイラがお世話になっていますわ」
(エレン奥様とミリーが涼やかに挨拶を? しかもミリーが頭を下げている!)
「フフフ、そうね、若奥様。今後ともよろしくお願いしたいわ。色々とお聞きしたいこともあるから」
「……はいっ(汗)」
ミリーが怖気づいているわ。この前も思ったけど、エレン奥様ってあんなキャラだっけ?
※
そして、道徳的に極めて怪しい登場人物満員御礼の中、ある交渉がはじまったのだった。
今まで、『そんなことどうでもいい』と突っぱねてきたツケが回って来たのかもしれない。わたしに対する包囲網が360度でき上がっている気がする。
亜空間に逃げちゃおうかな。
「僕はもう覚悟しましたよ。婚約状にサインもしましたしねぇ。アイラが伯爵家へ嫁いでしまうのは寂しいけれど、一時的に預けるだけだしね」
「???」
何だかランベールお義父様、ダークサイドに落ちてない?
ソファテーブルの上には婚約状とは別に、独自の契約書がある。これはジェシー・ウエストとわたしの間で交わす覚え書きのようなものだ。
「契約するにあたって、伯爵様に要求というか、要望があります」
「契約ではなく、来年結婚するときの約束事だ。そこを間違えないように」
ジェシー・ウエストの圧がスゴイ。間違えると容赦しないぞと、タレ目とホクロが訴えかける。
なるべく多くの要望を出して、何割かを承諾してもらおう。
「結婚したら、アイラちゃん人形用のリトルハウスが欲しいです。シル〇ニアファミリーみたいなの」
「シル〇ニアファミリーが何なのか分からないけれど、デザイン画があればドールショップに製作してもらおう」
「確認しました。次に、商業地区に女性限定の文芸クラブ、『ノース・クラブ』を作りたいです」
「女性限定のクラブ? 聞いたことがないな、何をする場所なんだ?」
「ティールームを主体とした談話室で、そこにカナン・ノースの小説と、二次創作やグッズを販売するんです。ほかの作家さんやファンたちを招いた交流会も開きたいです」
「そういうのはサロンパーティーでよくないか? ウエスト邸で開けばいいだろう」
「上流階級だけでなく、ミドルとも交流したいので」
「……二次創作が何なのか分からないけれど、許可できるか検討してみよう」
「それから、列車旅、キャンプ、温泉、ティールーム巡り……」
「……? 行楽として一括りでいいんじゃないか?」
「それから……」
というわけで、結婚するにあたっての要望をジェシー・ウエストに出した。
あとで承認したという印鑑をもらおう。契約違反したら離婚の理由になるしね、オホホ。
ミリーはくすくす笑いをし、お義父様とお義母様は困った顔をして見つめ合っている。ジェシー・ウエストが次第にイライラしてきているのが分かる。
(ジェシー・ウエストって短気だものね。短気は損気だよ)
「……最後の要望です。結婚しても、住まいは離れかブナハウスがいいです。あと、これから大学に通いたいので、結婚式は五年後くらいでお願いします」
ギーズ邸は大学街にある。確か最近、この国初の女子大学ができたはず。
「はぁっ!?
結婚は五年後!?
離れかブナハウス!?
結婚した早々別居する気か!?
しかも大学!?
別居先で学生の愛人を連れ込む気なのか!?」
とうとうフェロモン大王がブチ切れて、茶卓ならぬソファテーブルをひっくり返した。
ガシャーン!!
ティーカップとソーサーが割れ、紅茶が絨毯にこぼれた。
(何でそういう思考になるの?)
「全部却下だ! アイラ・ギーズ絶許!」
(あ、ヤッチャッタ……?)
「アイラ、何を言ったのか分かってるいのかい?」
タバコの煙を吐きながら、ランベールお義父様が余裕の薄笑いを浮かべた。
「バッカじゃないの。はじめから別居? 大学? もうっ、この子は一から教育し直さなければならないわ。はぁ……」と、残念そうな顔のミリー。
あなたには言われたくないわね。
『離れかブナハウス』案に賛成したのはエレンお義母様だけだった。理由は謎です。
周りがドン引きしている間に、わたしはジェシー・ウエストに左手をつかまれ、婚約状に無理矢理『アイラ・ギーズ』と正しいスペルでサインさせられた。
「アイラ、覚悟しろ!」
《メロメロになれ、心も身体もメロメロになれ、メロメロになって一生ジェシー・ウエストから離れられなくなれ!》
☆
「諸君、アイラは頂いた! 今後一切私たちの邪魔をするな。ではおさらばだ!」
☆
わたしはジェシー・ウエストに縦抱きにされ、肩に担がれてお持ち帰りされた――ウエスト邸に。
「お義父様、みんな、助けて!」
※
【メロメロになれ、心も身体もメロメロになれ!】
(ジェシー・ウエスト談)
【長続きするといいですねぇ】
(ランベール・ギーズ談)
【アイラお嬢様……困ったときはいつでも頼ってください】
(トマス・タンディー談)
【使えるかもしれないわ、あの子】
(エレン・ギーズ談)
【バッカみたい……こんな連中とは付き合いきれないわ】
(ミリー・サウス談)
~次回で最終回です~




