エレンお義母様と対決かと思ったら悪妻に転身したミリーが!
決闘騒ぎから十日以上たった。転生してから三度目の春。
ヨーク・セントレ氏にのされたランベールお義父様は、セントレ病院に入院中。ジェシー・ウエストはウエスト邸にこもって頭を冷やしているという。
(はぁ~、何事もない平和な日々……)
先日二人の侍女を伴ってブナハウスを訪れたエレンお義母様が、ランベールお義父様について話してくれた。
「ランベールがアイラを見つけて良かったわ」
「なぜですか? わたし、愛人だと思われていたんですよね?」
「ペットだと思ってた。あの人、結婚してからも女癖が悪くてね」
「エェッ!?(ぺ……ペット!?)」
「わたしに気があるくせにグズグズしているから、気を利かせて結婚してあげたのに」
「エェッ!?」
「だけど、あなたに会ってからは浮気をしなくなって性格も穏やかになった。わたしに対しても妻として接してくれるようになったから、感謝してるわ」
(見た目と違い過ぎるんですけど……)
「わたし、奥様には歓迎されていないのだと……」
「今妊娠中だから、気分が優れなくてセントレに帰っているだけ。里帰り出産の予定」
「そ、そうだったんですか、おめでとうございます」
な、なるほど?
「ランベールは亡命貴族だから、上流階級の中では差別されていたみたい。この国には差別主義者が多いから」
「知らなかった……」
「クーデターに巻き込まれたギーズ一家がこの国へ来たときには、首都に屋敷を借りることさえできなかったそうよ」
「はぁ……」
「貴族のパーティーには呼ばれないし、思うことがあって出版社をはじめたんだと思う。全然相談してくれなかったけれど」
「今も差別はあるんですか?」
「どうかしらね」
そんなこと、わたしには一言も言わなかった……あのとき背を向けたりして……会ってゴメンナサイしなくちゃ。
※
わたしにはやるべきことがある。
セレーナさんを伴って、旧サウス邸へ向かった。これからはわたし名義の下宿屋敷『アイラ邸』。
ランベール様によると、わたしは遺産相続詐欺に遭っていたらしい。叔父が男爵家を継ぐのは法律上当然として、本来ならわたしにも遺産が渡されるはずだったのだ。叔父がそれを横取りしたらしい。
堂々とエントランスから屋敷に入る。この世界に来たときは、屋敷に入ることを制限されていた。叔父一家の引っ越し以来、邸内は雑然としていた。
「ご無沙汰しております、アイラです」
「……アイラお嬢様ですか!?」
わたしを迎えたのは白髪で初老の男性。一度だけ見たことがある。
「覚えておいででしょうか、お嬢様。わたしは先代男爵様のときから執事をしております、ライオネルでございます。長らくお待ちしておりました」
広いエントランスホール、赤絨毯の螺旋階段、重厚な扉。ウエスト邸ほどではないけれど、サウス邸のタウンハウスも豪華。アイラの両親は有能だったんだろう。
「マリオンさんはまだここにいるの?」
「はい、ただ今呼んで参ります。しばしこちらでお待ち下さい。その前に、アイラお嬢様にお見せしたいものがありまして……」
それは螺旋階段の二階踊り場にある肖像画だった。
「こちらが前当主様の肖像画です」
シルバーブロンドの四十代くらいの男性と、ブラウンヘアーの女性が描かれていた。二人ともわずかに微笑んでいる。タンディーゴルフクラブにあった肖像画には小さいアイラがいたけれど、ここにはいない。
(パパ……ママ……)
元祖アイラが出てきちゃったよ。
ご両親はあのときの事故で死んじゃったの、事実を受け止めて。でも大丈夫、あなたの周りにはたくさんの人たちがいるから、寂しくなんかないよ。
「お久しぶりです、アイラです」
「まぁ、まぁ、お嬢様!」
わたしに気付いたマリオンさんが号泣した。
マリオンさんは、サウス邸時代お世話になったおばさまだ。馬車の事故で負傷したとき、わたしが小屋に閉じ込められたとき、何かと世話を焼いて差し入れもしてくれた、白衣観音のような人なのだ。
「お嬢様はどこも悪くないのに、新しい当主様は、何もできない子だからと言って、あんな小屋に……」
その辺の事情は元祖アイラの過去を見たから知ってるよ。
マリオンさんから聞いた話によると、叔父一家は領地のサウス館へ行き、従姉のミリーは準男爵家の次男を婿養子に迎えたとか。
わたしが閉じ込められた裏庭の小屋へ。
短い間だったけれど、わたしが暮らしていたマイホーム、小さなログハウス。思ったよりも小さいキッチンダイニングと暖炉、アイラちゃん人形を抱いて眠った狭いベッドルーム、便座が大きすぎる木製トイレ。
転生したばかりのころは、この世界の両親のことなんて考えもしなかった。わたしは違う世界から来たよそ者だから、みんな他人だと思っていた。だから、この世界の両親やアイラのことを知ろうともしなかった。
「お嬢様がここにいたとき、執事様と相談して差し入れをすることにしました」
「感謝してます」
「本当に、今の当主様ときたら……でも、あの方も目と足を悪くされて……」
(サウス家、超不幸……)
「お嬢様の嫁ぎ先は伯爵家でしたか。下宿屋をはじめたら何人か使用人を雇うようです」
なぜかわたしは伯爵家に嫁いだことになっているみたい。
「この屋敷も大事だから、たまにはここに来るようにするわ」
ザクザクッと小石を踏む音がした。珍しく地味な姿をしたクズ従姉ミリーだ。
「すっごく久しぶりね、アイラ。伯爵様とはどうなったの?」
相変わらずの物言いだよ。
今日のわたしの服装は、フリフリの日傘と花飾りマシマシ帽子と野外用ドレスという、ザ・貴族令嬢のお出かけルック。昔のアイラとは違うのだ。
「ミリーにはどうでもいいことでしょ。どうしてここにいるの?」
「暫く会わないうちに、憎まれ口をたたくようになったじゃない。父が重傷を負ったから、代わりにセントレ銀行へ行かなければならないのよ。まだ領地へ運んでいない荷物を調べたいから滞在してもいいかライオネルに相談したら、しばらくならいいって」
おっと、わたしに無断でミリーを滞在させるとは。
「前の契約が終わったとき伯爵様が屋敷にいらしたのに、肝心のアイラが行方不明になったから焦ったじゃない。噂になると困るから捜索願いは出さなかったけれど、独自に捜してはいたのよ」
「え~と、ゴメン。サウス邸に戻ったらまた小屋に閉じ込められると思って」
「伯爵様のお手付きになったんだもの、閉じ込めるわけないじゃない。いつ先方から呼ばれるか分からないのに」
「お手付きぃ!?」
グゲゲッ、そんな風に思われていたんだ。
「結局元サヤに戻ったわけね?」
「そういう訳では……」
いや、元サヤではないどころか、ジェシー・ウエストに振り回されただけ。謝礼は頂いたからウィンウィンだけど。
「ここからわたくしたちを追い出して、さぞ嬉しいんじゃない?」
「さあ? 色々忙しくて、サウス家のことなんて考える暇なかったから」
「そう。お父様もアイラに対する扱いが酷かったから文句は言えないけど」
「そうよ、叔父様って最低!」
「ごめんね、あのとき何も出来なくて……」
驚いた。ミリーが謝るとは思わなかった。
「そういえば去年の秋だったかしら、サウス家の領主館に、伯爵家から変な手紙が来たけれど」
「えぇ? まさか、中を見たの?」
「もちろん。みんなの前で読んだわ」
「イヤ~〜ッ!!」
(アレだよね、ジェシー母が送ったっていう偽手紙! どんな内容だったの!?)
「そ、そのことは忘れて! 燃やしてぇ!」
「伯爵様と喧嘩したみたいだったけど。記念だから額に入れて居間に飾ったわ」
「ヤメテ~~!」
「わたくしがあげた水色のリボン、まだ持ってる?」
「見てない。トランクの底にあると思うけど」
「はあぁ、酷い! あれはね、わたくしが寺院から祝福を受けたとき、髪の毛に結んでいたリボンなのよ。祝福が逃げるから大事にして!」
「それならあのとき、そう言えば良かったのに」
「普通、人から頂いたものをそんな風に粗末にしないでしょ。とにかく、マトモな令嬢になることね!」
クズミリーに、マトモになれって言われたよ。
「不思議だったんだけど、どうしてアイラは小説が書けるのかしら。だって、アイラってしゃべれないから、叔父様叔母様に甘やかされてただけだったじゃない。ときどきヒステリーを起こして使用人に当たっていたし」
「そ、そうだっけ?」
(うわぁ、アイラ痛すぎ! 甘やかされワガママお嬢だったの?)
「マトモな淑女にならないと、伯爵家で苦労するわよ」
「ハイ、反省してます。これからは真面目にお勉強しますです」
「それじゃ、わたくしが首都に遊びに来たら、よさそうな殿方を紹介してちょうだい。頼んだわよ!」
ブフッ!
~とあるパーティーに続く~
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☞執事ライオネルは【第一部】『伯爵様が『ご所望』です?』でチョットだけ登場しました。
☞あと少しでラストです。
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