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【完結】転生薄幸令嬢の奇妙な愛人契約――イケオジパトロンか富豪貴族か――えっ二股愛人ですと?  作者: 赤城ハルナ
【第六部/最終章】クズな人たちの、クズな人たちによる、ドクズな契約

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ジェシー・ウエスト――壊れた理想

 頭を抱えながらウエスト邸に戻ると、ヴェストル領から家令が来ていた。ナットの父親だ。湖陵館での事件処理が終わったらしい。といっても、警察沙汰にはしていない。せいぜい関わった使用人と母を左遷し、緘口令(かんこうれい)を敷いたくらいだ。

 不本意だが、ランベール・ギーズがエリーゼの嫁ぎ先を強制してくれたことには感謝している。


(そういえば、母の滞在先別荘が決まったとか……)


 私はバスルームで汗を洗い流し、健康ジュースを飲んで一息ついた――マジで死ぬかと思った、あんな優男があんなに強いとは。


「ウイスキーをストレートで頼む」


 不味いことをした。いくら気が動転していたとはいえ、アイラを置き去りにしてしまうなんて……私を庇ってくれたのに……明日謝りに行こう……いや……明後日……いや……。

 庇ってくれたということは、アイラは私のことを……す、す、好き、あ、あ、愛して……クフッ……。


 ヤバい、全身が熱くなる。


 元凶はあの亡命男だ!

 アイラとの婚約を許可してほしかっただけなのに!


 最初の一年間はアイラをホッタラカシだった。

 次の二年は距離を詰めようとした――母にジャマされたが。

 気づいたらアラサ~じゃないか!


 平凡で幸せな家庭はどこに。



※



 それにしても、まさかアイラの義母――エレン・セントレだったか――の父、セントレ銀行頭取が来るとは!

 お陰で事なきを得たが……ギーズを取り込んだセントレに文句を……と言いたいけれど、できない。今やセントレ家は、ある意味貴族よりも権力を持っているのだ。確か親族が下院議員になっていたはず。ウエスト家も、使用人を雇う際にはセントレ商会を利用している。


 次は違う所にしよう。


「ナットから事情を聴きました。先代は滅茶苦茶な方でしたが、ジェシー様は意固地過ぎませんか」

 居間に入って来た家令に意見された。

「そんなつもりは……ない」

「カレドニア伯爵家とは亀裂が入ったまま、オリエンス侯爵家や、経済を握っているセントレ家まで拒んで、どうするおつもりですか?」

「拒んだわけではない……向こうから拒まれたんだ……いや、拒んだのか? 拒んだところもあれば拒まれたところも……」

「過去にあったことは遺憾です。しかしアイラ嬢を奥様にと望むのでしたら、ギーズ卿とも妥協しませんと……」


 それはそうだが……妥協できる気がしない。


「分かってるよ。ギーズ卿がアイラを手放そうとしないから……外国人のくせに!」

「困りましたね。ところで、わたしの妻は東国人ですよ」

「そうだっけ?」

「何の問題もありません。それに、ギーズ卿の国はクーデター政権が握っているとはいえ、戦争をしている訳ではありませんし、貴族同士であればなおさらではないでしょうか。話し合う余地はあるのでしょう?」

「……だとしてもあの男は……頭がおかしい」


 亡き父の話し相手でもあった家令は、湖陵館での事件以来、私とアイラの置かれている状況が心配なんだろう。

 アイラは貴族令嬢だ。結婚することに何の問題もないはずなのだ。


 サウス家がまともであったなら!


「ジェシー様、ギーズ卿は義娘のことが心配なだけではないですか? ギーズ出版社の女流作家なんでしょう? それに、アイラ嬢を置き去りにするなんて……」と、ナットも私を諭す。

「それも分かっている。今は心を落ち着かせたいんだ。でないと、彼女の前で冷静になれない気がして」

「しばらくはわたしがここに留まりましょうか? その代わりナットを湖陵館に行かせます」と、家令。

「……頼む」


 あの決闘騒ぎを思い出すと心臓がバクバクする。落ち着くまでもう少しかかりそうだ。


 ……しかし、あのコーヒーの注ぎ方はないな。

 一ヶ月くらい祖母の実家で行儀見習いをさせよう。多くは望まない、ただ、淑女らしい振る舞いを身に着けてほしい。


 見も知らぬアイラ・サウス嬢と訳の分からないアホ契約を結んだのが二十五歳のとき。気が付けばもうすぐ二十八、アラサ〜。

 愚かすぎて涙が出る。

 悪友は結婚して、子供ができたらしい。


 あれから二年半の年月が過ぎてしまったのである。



※



 アイラに『ゴメン、ありがとう』の手紙を出して落ち着いたころ、ランベール・ギーズから一通の招待状が届いた。


~ ~ ~ ~ ~

『ヴェストル伯爵家当主ジェシー・ウエスト様


先日は大変失礼いたしました。

冷静さを取り戻した今、己の行いに深く反省をしております。


さて、タイミング良く、ジョン・ミルズ氏のロイヤル芸術大賞受賞及び男爵への叙任パーティーに招待されましたので、ヴェストル卿に参加していただきたく、招待状を送らせていただきました。

義娘のアイラも、令嬢奇譚小説家『カナン・ノース』として参加する予定です。


僕からのお詫びとして、どうかこの招待状を受け取って下さい。

お会いするのを楽しみにしております。


アイラの義父、ランベール・ギーズより』

~ ~ ~ ~ ~



~アイラ邸に続く~

~~~~~~

☞一人の女性を巡って死んだ父を反面教師にしたジェシー・ウエストは、平凡な愛と家庭が理想です。にもかかわらず、一人の女性を巡ってややこしいことに。しかも父と同様決闘騒ぎに。理想は壊れ、これからどうするのか。

~~~~~~

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