新たな契約のススメ
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★結婚を焦っているジェシー・ウエスト。若いと思っていても、もうすぐアラサ~、ウッカリすると三十代まっしぐら。
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「お邪魔するよ、アイラ」
ガーデンテーブルでぼやっとしていたとき、ジェシー・ウエストがナットさんを伴ってやって来た。セレーナさんも立ち上がり、同時に挨拶をした。
――ジェシー・ウエスト。
知り合い? 友だち? お兄さん?
そういえばプロポーズされたような。
されても困る。だってアイラはまだ十代だから~。
「伯爵様、何か御用ですか?」
「ジェシーと呼ぶことになっていなかったかな?」
「契約は終わりましたので『伯爵様』とお呼びします。事前連絡がないと困ります。勝手に門を開けたんですか?」
「ちゃんとトビーに頼んだよ」
(トビーさんとリタさんはジェシー・ウエストに雇われていたんだった!)
「そうですか。では、お帰り下さい」
「相変わらずつれないんだな、わが婚約者殿は」
「婚約者ではありません、金で買われた覚えはありますけど」
「そんなこともあったかな?」
「ごまかさないで下さい。一生言い続けますよ?」
「ま、まぁ、そこの所はお手柔らかに……実は急ぎの報告があって」
ジェシー・ウエストがさり気なく向かいの席に座って、オーラマシマシで長い足を組んだ。さすが富豪お貴族様である、そんな仕草もバッチリ。赤金色のウルフアイをしたタレ目とホクロも。
「手土産だ。ここのベリープディングはレディーの間で人気らしいよ」
「わ~い、いっただっきマース! お皿を持ってきまーす」
「それは後でいいから、とりあえず私の話を聞いてほしい」
「ハイ!」
わたしはもう一客あったカップにドボドボとブラックコーヒーを注ぎ、ジェシー・ウエストにデンッと差し出した。
「エエェェェエエ……」
いやだ、フェロモン大王がドン引きしてるわ。
「アイラ嬢、相変わらずですね」
ナットさんがが苦笑している。
「アイラお嬢様、そのようなことはわたしに任せてください!」
セレーナさんに怒られた。
「で、今日は?」
「最近エリーゼ嬢の輿入れが決まってね」
「聞いています。お目出度いことですわ、心からそう思います」
わたしはリタさんが作ってくれた、甘いだけのパサパサジンジャータルトをブラックコーヒーで流し込みながら、口を二ヘラ〜と引き伸ばして薄笑いを浮かべた。
あの女のせいで酷い目に遭ったのだ、もう一度会ったらゲンコツをお見舞いして高慢な髪の毛を潰してやりたい。ぐしゃぐしゃにしてやりたい。
けれど、お陰で一軒家をゲットできたともいえる。ざまぁしていいのかしなくていいのか微妙な存在だ。
もう会うこともないから関係ないか。
(某北関東民のエリーゼよ、さようなら~)
では、ジェシー・ウエストは?
う~ん、一回目の契約で嫌な思いをしたし、湖陵館ではこっぴどくやられたけれど、多額の報酬(注:ジェシー・ウエストの一カ月半のお小遣い)と一軒家を頂いたし……。
「先日オリエンス侯爵家から謝罪があってね。エリーゼ嬢はカレドニア伯爵ノルド家に嫁ぐことになったと。デキ婚らしい」
「デキ婚だったの!?」
意外。
ノルド家はウエスト家の敵。ということは、もしかしたらまたエリーゼと込み入った話し合い(取っ組み合い)があるかも? もう一度上毛かるたをおさらいしなければ。
「あの家は私の父親と因縁が深いんだ。どうしてそんなことになったのか、オリエンス卿も困惑していたよ。ウエスト家に嫁がせることができなくなり申し訳ないと謝罪された」
「では伯爵様は自由ですね、おめでとうございます」
「ありがとう。憂慮すべきことが無くなったから、アイラと新しい契約をしたい。今日はその件で来たんだ」
「また?」
「東洋には三度目の正直という諺があるらしい」
「二度あることは三度あるという諺もあるらしいですよ」
「前者を採用する」
「何基準?」
ナットさんが鞄から書類を出してわたしに見せた。それは、な、何と『婚約状』だったのだ!
(何だコレ! しかも、あちらさんは既にサイン済みぃ!?)
「私とアイラの永遠の契約だ」
「何ですかぁこれはぁ!!」
「婚約状だよ、ここに書いてある。本当は婚姻届にしたかったんだが、エリーゼ嬢が結婚するので急ぐこともないと思って」
「わたし、プロポーズの返事はしてません」
「ウエスト家への招待は、婚約者の行儀見習いでもあった」
「それ初耳!」
「そう言ったらアイラは契約してくれなかっただろう?」
「ひ、卑怯者!」
「何とでも言ってくれ」
この男が隠れクズだということを忘れていたわ!
「それにここでは、アイラは私の愛人と見られているんだ」
「えっ、何で?」
「実は、このブナハウスはウエスト家の別邸なんだ」
(な、何ですとぉ!?)
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気をつけよう、美味しい話と裏の罠
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「わたしを騙したんですかっ! わたしは愛人じゃないって言ったくせに! 嘘つき!」
「そういうわけではない、一軒家を提供したのは事実なんだから……そんなつもりじゃなかったんだ」
「嘘つきはみんなそう言うんです! 言い訳してんじゃねーですよ!」
「アイラ、その言葉遣い……」
「言葉遣いがなんだってんですか、愛人になれって言うんだったら、毎日花とドレスとアクセサリー持ってきなさいってんですよ!」
「それなら、本当に私の愛人になるか?」
いきなりジェシー・ウエストが立ち上がり、片手でわたしの顎を持って頬にキスした!
「あ、あわわ……」
ついでに首筋と……胸にも!
「や、やめてください!」
「伯爵様、お嬢様に何ということを!」
「フッ、そんなことでは誰の愛人にもなれないぞ。愛人というのは、生まれたままの姿で触れ合うことになるのだから」
低音ボイスで凄まれた。
「酷い!」
とうとうわたしは、セレーナさんに寄りかかりながら泣き出した。
愛人のハードル高すぎ!
「……私の妻になれば、ここを別邸として利用すればいいんじゃないのか?」
「つ、つま!?」
「これからはアイラの要求もしっかり聞く。私は、議員はやっていても幽霊議員のようなものだから、夫人としての務めはそんなにないし、領地は家令に任せてある。旅行ならアイラが行きたい所へ行こう。それに、アイラは小説家なんだから、好きなだけ書けばいい。私にできることは何でもしよう、愛している!」
(エェッ、『愛している』!?)
「もちろん、アイラを生涯大切にすると誓う。私と結婚してほしい!」
ジェシー・ウエストが目の前でひざまずき、わたしの両手を取ってキスし、頬ずりまでしやがった、ナットさんとセレーナさんの見ている前で!
セクハラじゃん、コレ!
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ザリッザリッ……。
そのとき、後ろから落ち葉と土を踏む音がした。
「アイラ、そんな嘘つきで不埒な男など、捨ててしまいなさい」
~ラスボス登場~




