ジェシー・ウエスト/最後に笑う者
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☞平凡を求めるジェシー・ウエスト、だんだん黒くなってきました。
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先日私は、意を決してオリエンス侯爵家を訪ねた。
『お嬢様と結婚する意思はありません。どうしてもとおっしゃるなら、アイラ嬢を愛人として館に迎えます』と、オリエンス卿とエリーゼの前ではっきり宣言した。
エリーゼなら愛人の存在を許さないだろう。これで私との結婚を諦めるはず。
『愛人などどうでもいい。これは侯爵家と伯爵家を結びつける結婚なのだ。分かるかジェシー、エリーゼを保守派以外の家に嫁がせる訳にはいかない。それにこれはお前の父との約束なのだ』
『愛人なんて許しませんわ、お父様!』
『お前が正妻になるのだ、毅然としなさい』
それぞれの気持ちなど無視して、オリエンス侯爵はエリーゼと不本意な婚約状を突きつけた。もう時間がない。だとしても、私の幸福な結婚を何としてでも実現させる、オリエンス侯爵家のクモの巣に絡め捕られる前に!
その前にアイラとの婚約を実現させ、婚姻届を提出する!
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前回の謝罪のための招待だったのに、再びの不祥事。母があんなことをするとは。我ながら迂闊だったとしか言いようがない。本当なら、母はアイラに損害賠償をしなければならない立場なのだ。
そもそも彼女は貴族の令嬢らしくない。思ったことをはっきり主張する、最近流行りの女性活動家のようだ。不気味とも取れる不思議な目を指摘されても動じないどころか、堂々としている。だからこそエリーゼに張り合うことができたんだろう。
バカみたいな死に方をした父の代以前から続く古臭い伯爵家を、彼女なら変えることができるかもしれない。
二回目の契約終了時、結婚してほしいと告白したが、返事はまだもらっていない。問題はあの男――ランベール・ギーズだ。アイラと結婚するためには、パトロンと公言するあの男を納得させられるかどうかが鍵だろう。それよりも、後見人をあの男から私に代えるべきだ。
(覚えていろよ、スパイ野郎!)
『婚約状』を作成するにあたり、私は顧問弁護士に指示してサウス家をもう一度調べさせた。ところが、サウス家にはアイラの籍がなかったのだ!
(どういうことだ!? サウス家から自立したと聞いてはいたが、籍がない!? あり得ない!)
私は弁護士から渡された調書を読み進み、衝撃の事実に慄いた。サウス家から抜けた彼女の籍が、思いがけない所へ移っていたのだ!
『ガリア国オクシタン県ギーズ子爵家養女 アイラ・ギーズ 十八歳』
(な、な、なんだと!? アイラがギーズ家の養女に!? しかも養女になった日付は二月二十日、契約終了後間もなくじゃないか!)
「あんのタヌキ野郎ォ!!」
私はソファテーブルに調書を投げつけながら叫んだ。いや、絶叫した。血管がぶち切れそうだった。
「ふぅ~~っ」
この国では、養子縁組にはややこしい手続きが必要だ。貴族家なら尚更で、役所から様々な調査が入る。それに比べ、何事もいい加減なあの国は比較的簡単に手続きできる。今あそこはクーデター政権だ、役所も混乱しているだろう。孤児になった貴族の娘を引き取るなど、外国籍でも容易だろう。
しかし問題はそこじゃない。
アイラに結婚を申し込むためには、あの男(将来の義父になるかもしれないクズ野郎)にお伺いを立てなければならなくなったということじゃないか!
《ランベール・ギーズ絶許!》
※
私は今、ギーズ邸にいる。
国内の男爵家のままだったら、アイラとの婚姻は全然問題なかった。
しかしこんな、ろくでもないスキャンダルを武器にするスパイ野郎に頭を下げるなど、頭が煮えくり返りそうだ。
(……悔しい!)
私は顔を能面にして、ランベール・ギーズに申し出た。
「ご無沙汰しております、ギーズ卿。湖陵館では誠に申し訳ありませんでした。改めて謝罪します」
「アイラに対しての謝罪ですかね。謝罪は受け取りますが、許してはいませんよ、伯爵様。一歩間違えば命を落とすところだったんですから」
「……反省しています」
そこで私は改めて背を伸ばし、座りなおした。
「以前も伝えました通り、私はアイラ嬢を妻にと思っています。ですので、養父であるギーズ卿の許可をいただきたいのです」
「なるほど? こちらの事情はご存じでしたか。義娘が幸せになるのなら考慮してもいいでしょう。ただし……どうでしょうね。最初の契約時でも次の契約時でも、ウエスト家への印象が良くなかったと聞いております」
ランベール・ギーズはわざとらしく、アイラを『義娘』と言った。思わせぶりな態度でタバコを吸いながら。
「今回のウエスト家への招待では、前回の彼女への不当な扱いに対し、十分挽回できたと思っています。私は誠心誠意彼女に尽くしました。その上で、彼女を妻にと望んでいるのです」
「そうですか? 伯爵様はアイラの境遇を正しく理解しているのでしょうか。彼女を弄ぶなど、あってはならないことなのです」
「そんなつもりはありません。アイラ嬢の身の上についても理解しているつもりです」
「本当にそうでしょうか?」
私はその後、これまでのアイラについて説明された。サウス家ではまともな教育を受けていなかったこと、にもかかわらず女流小説家になって間もないという社会的立場のことなどなど。
「それは、彼女の護衛という者から聞きました」
アイラは事故死した先代男爵家当主の娘であり、本来なら首都の遺産を継ぐ権利を持っていた。しかし彼女を障害児とし、『一切の能力無し』と裁判所に申し立て、叔父がサウス男爵家の遺産すべてを奪った。
何も知らされていなかったアイラは、両親が亡くなってからは屋敷内の小屋に放置されていたという。そんな彼女を経済的に支援し、作家に育て、正当な遺産を彼女へもたらしたのがランベール・ギーズだ。
最終的に、この男は彼女を自分の元へ引き取ったわけだが……。
※
「私の認識が足りなかったことは認めます。それに、彼女を保護して頂いたことに対して深く感謝します」
「勘違いしないで頂きたい、伯爵様のためではありませんよ」
「だとしても、このまま彼女との関りを絶つことなどできそうにありません」
「あの子は見かけによらず自由奔放です。何をしでかすか分からない、誰かが傍にいないと危うい。伯爵家の妻など無理でしょう。それでもあなたはアイラを妻にと望むのですか?」
「……それでも私は、彼女を支えてあげたいのです!」
ランベール・ギーズは目を細めて悪戯っぽく笑った。
「伯爵様は、義娘を愛人として囲うつもりなのかと思っておりましたよ」
「誤解です。私は本気でアイラ嬢と結婚したいのです!」
(なぜ私が彼女を愛人にするなどと思うのか!? 愛人にしたかったのはコイツじゃないのか!?)
「あの子は宝石箱に入れた僕の宝物です、僕が暗闇の中から見つけ出したんです。誰にも渡したくはありません。それに、あなたは結婚したら彼女を屋敷に閉じ込めるつもりなのでしょう?」
「そんなことは……」
「話は終わりです」
この男もアイラに執着しているのだ。しかし負けるわけにはいかない。私は渾身の眼力(タレ目なので効果は薄い)を用いて、ランベール・ギーズに言い放った。
「そうだとしても、最後に笑うのは誰でしょうか?」
※
もう身を固めるのだから、私は娼館通いを誘ってくる悪友(外交官の息子)と会うのをやめた。外交官クラブは……顔つなぎくらいには出ておこう。ある程度の社交は必要だからね。
あのブナハウスにアイラがいる限り、彼女は私のものなのだ!
フッフッフ、アーッハッハッハ……。
~続く~




