幕間12 数日後の或る国境都市における閑話
「……で、何なんすかこの大量の荷物は」
「よくぞ聞いてくれたわ。まずこれがなんとかっていう街のなんだか有名らしい塩だったかで」
「いやモノの詳細について尋ねてんじゃねェんすよ。つーかせめて詳細な情報をくれよ。全部あやふやじゃねェすか塩であるらしいこと以外」
「申し訳ございませんわ、イフラ様、トープドール様。なんと言いますか……成り行きで聖王の地元巡りに興じてしまい……」
「……やっぱ観光してたんじゃねェすか。なんでそんな事になったんすかラヴァリッサ様までついていて」
「聖王に拉致されたのよ。つまりは不可抗力ね。私だって本当は寄り道せず帰りたかったと言えば嘘になるわね」
「……? あー……望んで行ったんじゃねェかよつまりは!」
「構わないさ。我々とて同様にセラン・ウェーラーを二日かけて巡った。不必要な観光で余計な時間を使ったという面ではお互い様ではないだろうか」
「待たせた側と待たされた側じゃ不均衡にも程があるだろうがよ心労的によ。それもいつ合流できるかわからねェまんまこいつと二人で居させられたんだ、愚痴る権利くらいは与えてもらいてェんだが」
「まぁ落ち着きなさいイフラ。可愛い顔が台無しよ、私の」
「なんで自分の顔の心配してんすかフューフィル様。いつも通りお綺麗なのが今は逆に癪っすよちょっと」
「あらさり気なくお上手ね。そんな貴方にはお土産の中でも特にお勧めのこれを」
「……やっぱ土産物だったんすね、この大荷物。どんだけ堪能して来てんだよ」
「最近何かと心労が嵩み気味なイフラには最適だと思うわ、どうぞ」
「誰のせいで悪化したと思って……何すかこれ?」
「野菜の漬物よ。陽の当たる窓際に干しておくとじわじわ色合いが変わるのが癒されるらしいわ」
「それで癒される精神ってもう手遅れじゃねェすかね……いやまぁ帰ってから改めて頂きますけどよ」
「最後に精一杯の感謝を込めて包丁で両断する時が癒されの絶頂ですって」
「病んでんじゃねェかそれ完全に。何を供養する儀式させんすか俺に」
「気が引けるならば私が代わりに断ち切る役目を引き受けてもいいが」
「手っ取り早く元凶のてめェを断ち切る方が早そうだがな。いやまずその奇怪な儀式をやる前提で話すんじゃねェよ」
「いらないの漬物? もったいないわね」
「なんで儀式するか受け取らないかの二択なんすか。普通に食わせてくれよ。……いや違ェ、観光と土産の内容はどうでもいいんすよ。既に予定より二日遅れてるって話だ帰りが」
「遅くなったら何かまずいことでもあったかしら? というかそんな綿密な旅程で帰らなくちゃいけないの?」
「いや、なんつーか……ユラエナ様がなんか妙に手の込んだ旅程を表にして渡して下さってたんすよ。この通りに乗り継いでくればこの日までには帰れるはずだっつって」
「恐らく、作りたかったから作っただけで、その表の指示に従う理由は特に無いものと思われる。ユラエナ殿の趣味だろう」
「まぁ俺だってきっちりこの通りに行動する気はさらさら無ェがよ。一応の指標として示されてんだ、あまり表とかけ離れた遅刻をする訳にもいかねェ」
「どれだけ真面目なのイフラ。放っとけばいいじゃないそんなの」
「と言いますか、こうなったそもそもの元凶がユラエナ様だったと思うのですけれど」
「ユラエナというか奇人三人衆ね。あの三人が帰りの手段をちゃんと用意していればこんな事にはならなかったはずだもの。お陰で楽しめたけど」
「それはまぁ微塵も反論の余地が無ェ事実なんすけど、急ぐ理由は他にもあるっつーか……この旅程表より気掛かりな問題っつーか」
「あぁ、カナヴェーヌの事だな」
「ぷふっ」
「……んふ」
「あぁ、最近のカナヴェーヌ様の……いや何でいま吹き出したんすかフューフィル様。何にやけてるんすかラヴァリッサ様」
「いえ、つい。こっちの話よ」
「またいずれ話し……ますかもしれませんし話さないかもしれませんが、ひとまず置いておいて続きをお願いしますわ」
「……何だっつーんだ。まぁいい、カナヴェーヌ様についてなんだが、最近どうにも様子がおかしくてよ」
「いつも通りじゃない。あの男に様子がおかしくない時なんてあったかしら?」
「……。回答は控えるが、そういう意味じゃねェ。なんつーか、挙動が怪しいっつーか……良からぬ事を企んでいるみてェな感じでよ」
「いつも通りではありませんこと? 彼の怪しさは今に始まった事では無いように思いますけれど」
「いやだからそういうんじゃねェんすよ。確かに今始まった訳じゃねェ、前の会議辺りからなんかずっと妙な感じはあったんだが……とにかく、今はあまりあの人から目を離したくねェ」
「考えたくはない話だが……もし何かあった際、彼を力で取り押さえることができるのは私とイフラ、ドゥーガー殿とギナディオ殿、そしてエイゼン殿くらいのものだ」
「結構いるわね。力業にこだわらなければミアムやクレウグでもどうにでもなりそうだし」
「うむ、私もいま話していて意外と大丈夫そうな気がしてきたところだ」
「まぁ目と手が多いに越したこた無ェ。だからなるべく急いで戻りたい事情があったっつー事すよ」
「わかったわ、急ぎましょう。まずはこの荷物を宿に置いて、一通りくつろいでからお土産を見て回って夕食にしましょう」
「何一つ急ぐ気無ェな」
「致し方無い。今から北行きの翼輿に乗ったとて、シュネアロアでの乗り継ぎで結局翌朝の便を待つことになる。ならばここで一日潰して翌朝発っても所要時間は変わらないだろう」
「それは解っちゃいるがてめェに正論で諭されるとなんかイラッとすんな。まぁしゃーねェ、一旦宿に向かいますかね」
「しかしフューフィル殿、まだ何か買い込むつもりなのだろうか? 既に随分な大荷物になっているようだが」
「トープドール、イフラ、信じてるわ」
「俺らに持たす気満々かよ。いや違ェ、モノの量より金の方が心配なんだがよ俺は。あの時渡した金じゃ絶対足りねェでしょこんな買い物するには」
「それなのですけれど、色々ありまして……これは聖王と、ミアム様に頂いたお金のようなものですわ」
「……聖王殿とミアム? どういう事だ?」
「実のところ私達にもよくわかりません。聖王にもよくわかっていないようでしたわ」
「……成程、よくわからないな。いや、言われてみれば確かに以前あの二人がそのような話をしていた気はするが」
「よくわからねェが、とにかく自由に使っていい金だっつーならそれで晩飯にしましょうや。俺らが取ってる宿の近くに良さげな店が集まってる通りがあるんすよ」
「そういえばセラン・ウェーラーの料理ってどんな感じなのかしら。やっぱり北部と南部の特徴が混ざり合ってたりするの?」
「概ねその認識で間違い無いだろう。この地は古来から、北部と南部の奪い合いの渦中にあった場所だ。自然と、食文化も融合する。双方の良いところを取り入れながらな」
「それは一枚の大皿に全要素を凝縮して盛り付けられたりするのかしら」
「なんだそりゃ。そんな奇怪な料理は出ねェと思いますが」
「そうよね」
「ですわよね」
「……お二人はローナセラで何食ってきたんすか」




