Ep.95『くだんな(笑)』
「うん。だって、私の頭ん中の脳内魔薬の方が、よっぽど気持ちいいもん。」
英鈴は、つまらなそうに控室の机にエリンの粉末を溢し、いつ泊まったのかもわからないホテルから持って帰ってきてしまったルームキーで、ラインを形成した。カツ、カツ、という乾いた音がした。
「ねぇ、スズ……それ、やめなよ」
同僚の友人が心配そうに言う声も、鈴にとってはわざわざ意識を向けるほどのものではなかった。
勢いよく鼻を啜り、エリンをスニッフィングする。ゴールデントライアングルから得られる純度の高いエリン。それは、混ぜ物でかさましされた上に、大した質でない東都の混ぜ物エリンでは得られない快感をもたらした。外国からわざわざ遊びに来た東都人の男から与えられたものだった。
鈴は時折、その快楽に、固形に近しい粘性の液体を想像した。
それは、極彩色の虹色をしていて、あまりにも美しく、その周囲の色彩すらも歪ませてしまうような鮮烈な光を放っている。どろり、と流れていく様は、それがどれほど密度の高い物質なんだろうと考えてしまうほどじれったく、しかし重い。
あるいはそれは、鈴の脳の中に存在した爆弾なのかもしれなかった。それが触れた部分から、爆風が発せられ、じゅぐじゅぐの脳内で、正体不明の気持ちのいい汁がとめどなく溢れ出す。爆弾は、現実的な破壊力を持たず、物理的な世界に干渉する術を持たない。ただ、鈴の精神世界にのみアクセスすることができ、そこに残響を残す。
がくがくと痙攣して、鈴は控室の床にへたり込んだ。甘い吐息の間隔が短くなっていき、その吐息が膝を撫でる感覚にも過敏になっていた。唾液が口の端を垂れていき、地面にぽたぽたと落ちる。
「ちょ、……鈴、……もう、勘弁してよ……」
下半身に不快な水気を感じて、鈴は瞳を巡らせた。けれど、眼から送られてきた映像データは、彼女の脳内でぐにゃぐにゃに歪められてしまったので、特に意味がなかった。ただ、腿を滑り落ち、スカートを張りつかせ、ソックスをぐしょぐしょに濡らしていく感触があった。
控室の床には、彼女を中心とした不格好な円が描かれており、その円を塗りつぶしたのは彼女が漏らした尿だった。
乾いた昏い笑みを漏らして、鈴はその状況の愉快さにまた笑った。
同室だった少女は控室を出ていき、鈴は一人で笑い続けていた。
*
鈴の同僚だった少女は、九州の料理が好きだった。特に、畜産が盛んな地域の肉には目がなかったし、今回の遠征先のグルメにもいくつか目星をつけていた。そんな少女がため息を吐いたのには、二つの理由があった。
一つは、駅で引き起こされた未曽有の爆弾テロであった。確認されているだけでも五百人以上が死傷しており、脱線した新幹線が一キロ以上先にあったマンションに突っ込んだ衝撃的な映像は、瞬く間に東都中に配信された。そんな最中でも、いやそんな最中だったからこそ、ストリップクラブは興行を敢行した。
もう一つは、久しぶりに同じ舞台に上がる同僚、英鈴のことであった。
随分前から、嗜む程度だった鈴の薬物依存は深刻化しており、前は家でしかしなかったエリンのスニッフィングは、劇場の控室で恥ずかしげもなく行われるようになった。流石に、彼女以外の人間と同室の場合は自重しているようだったが、その理性がどこで切れてしまうのかは神のみぞ知るというところだった。
今日の控室も、交流があるから、という運営側からの配慮により鈴と同室だった。
控室のスライドドアは、昔嬢がバリケードを作って立てこもった事件以降に導入されたものだった。
「久しぶり、鈴。」
「あ、久しぶり……!元気だった?ってか、投稿見てるから元気そうなのは知ってたんだけどさ」
いつもと変わらない様子だった。はにかみ交じりに応じた鈴のそれに、少女は曖昧な返事を返した。
いつもと変わらない、けれど、どこかがすれ違っている。あるいはそれは、戻った、と形容した方がよかったかもしれない。
「なんかさ、」と鈴は唐突に言った。
「私、踏み込みすぎちゃったみたい。だから、捨てられちゃった。」
抽象的な題目の答え合わせが続くと思っていた少女は、それっきり沈黙してしまった鈴に困惑の声を漏らした。
鈴のすぐ隣に置いてあったプラスチック製の安っぽいゴミ箱の中に、丸めたティッシュペーパーと茶色のカードキーが捨てられていた。
「……薬、もう、辞めたの……?」
「ぁー……こないだはごめんね?私の、その……おしっこ掃除させちゃって」
「い、言わなくていいから!」
照れ笑いの鈴に、やはり少女は自身の違和感が間違っていなかったと悟った。
「辞めてはないんだけどさぁ……なんて言ったらいいかな。必要なとき以外は、もう辞めよ、ってか……もう、いいかな、って。」
鈴は昔から、そうやって大枠だけ言って満足する癖があった。少女はそのたびに、言葉の仔細を一つ一つ問い質し、やっとのことで彼女の含意を読み解くに至った。今回も例に漏れず、彼女が何を言いたいのかはわからなかった。
しかし、彼女がどうしてそんな話法をしていたのかには、思い当たった。
英鈴とは、誰かにわかってもらわなくてもよかったのだ。自分の中で決まっていることがあって、それを、誰よりも自分が了解している。だから、それを他人に理解してもらう必要などなくて、彼女は問い質されたから最低限に応えていたに過ぎない。
今回も、きっとそうだった。
少女は、どうしてか鈴が着ているスーツの裾がボロボロになっていることも、彼女のバッグが煤によって汚れていることも、ゴミ箱の中にあったティッシュの中身についても詮索しなかった。それが、鈴にある決断をさせたのだと、そう推察するにとどめた。
だから、鈴が次に放った言葉が、それと地続きだったのに驚いた。
「エリンってさ、めっちゃ気持ちいいの。知ってる?」
もちろん知らなかった。少女は、まだ学生だった頃に悪い遊びとしてキュルケーを口に含んだ以外に、違法薬物に触れたことがなかった。ましてや、魔薬カルテルが製造するハードドラックのエリンなど、触れたことすらなかった。鈴と知り合いでなければ、お目にかかることもなかったはずだ。
「アルカロイドって言うんだって。じわぁって気持ちいのが出てきて、たまんなくなっちゃうの。」
「……そんなんで、やめれるの……?」
滔々と語る鈴に、非難めいた言葉が出てきてしまうのも仕方がなかった。けれど、鈴の答えは簡潔で、それ故に強固だった。しかし、言い草があんまりだったので、少女は笑いを堪え切れずに破顔した。
その日、鈴の演目は誰よりも盛り上がった。彼女のときには立ち見ですら場所が取れず、劇場の扉を開けて覗き込むような観客に、劇場の人間が注意しなければならないほどだった。演目の間の写真撮影の時間は、列が途切れなかったから時間を延長する事態になった。
舞台袖で小さく息を吐いた鈴は、携帯端末でゲームを始めた。タップするたびに画面に当たる爪が、コツコツと音を立てた。
彼女がやっていたのは、流行ったというほどではないが有名な、あるリアルタイム戦略ストラテジーゲームだった。課金して得たGで自陣に工場を建設した鈴は、次のタップで建設にかかるクールタイムをゼロにする課金アイテムを使った。
気持ちのいいサウンドエフェクトが流れ、工場から物資が搬出され始めた。
鈴は愛くるしそうにそれを笑って、画面をスクリーンショットで収めた。
撮影された写真の片隅には、戦い続ける前線の兵隊たちが写っている。
*
「お前ッ!死んじまうぞ!?マツシマァ!!」
どす、注射針が、ジャケットを脱ぎ捨て、袖を捲ったマツシマの腕に突き刺さった。フェネチニビル───鎮痛作用を持つ強力な合成オピオイド───は、マツシマの血液─脳 関門を容易く突破し、バチバチと弾けた快感は、その脳細胞を蹂躙しただろう。それは、魔薬密売人がやらないタイプの魔薬だ。
「いいですね……!死んじまうまで、殺してやりますよ、リゼルキルトさん。」
マツシマの鼻から、ぶ、と鼻血が噴き出した。もちろん、マツシマはそれに頓着しなかった。
モルヒネの百倍、ヘイローの五十倍の威力を持つ魔薬。もし、適合されれば、それが解き放つ力は果たしてどんなものか。
「っ、撃て───!」
火焔が立ち上り、中空でくるりと首を巡らせた。
フラクタルはそれを、酷く扇情的な眼で舐り、唇に触れていた指先を弾いた。彼女の唇を通り抜けていく、温かな吐息の音が聞こえた。
聴覚をつんざく悪辣な炎が、マツシマ目掛けて駆け抜けていった。
細めたマツシマの眼───間に合わない。
「討て、術野の悪夢」
炎を切り裂いて、妖精が解き放たれる。ぼろきれを頭から被り、その隙間からは美しい真っ赤な髪がこぼれ出ていた。全身を燃やされながら、その妖精───ジア・アリーゼは、僕に掌を差し向けた。照準した。その腕は、指先から上腕まで真っ黒に染まっており、それは纏っているというより染まっている、といった方が正しかった。タトゥーを連想する。
なにか、嫌な予感がした。
咄嗟に、駆け出していた。何か、何かがおかしい。そして、その何がおかしいのかを僕が考えようとしないのが一番可笑しい。何もおかしいと思っていないのに、その何もおかしいと思っていない状態が、おかしいのだ。
───あぁ、だめだ、考えたら
可動橋がゆっくりと分割されて、ぐわ、と上がっていく。傾斜はまだ急じゃない。そのスピードなら、僕の走力で走り抜けられると思った。第一歩、微かな傾斜に踏み込んで───頬肉が木目に擦り付けられて、淀んだ血液色が伸びた。最大出力を出そうとして突如に脱力した僕の体は、そこにたわめられていた力が規格外だったばかりに、けたたましい音を立てて地面に突っ伏した。
───あぁ、そういうことか……ぼく、さっきから、呼吸してないな
アンタゴニストを自分の首に突き立てた。やれるかはわからない。それでも、自分の知覚能力を信じてみる。体内で発芽した、呪いの火種を照準する。躊躇いはなく、トリガーを引く。
ぎゅる、じゅるじゅる、きき、ぎゅる。
体の中から聞こえちゃいけないような音がする。魔素偏光の煌めき───モノクロになりつつあった視界の中でも、それは、色彩とは隔たれた色を持っていた。がきん、引き金が、完全に絞られる。
「Mgc:Antagonistッ」
首から体内に直接投与された魔法が、僕の体を縛っていた異能効果の拮抗薬となる。
内臓を絡めとるような異物感が消滅し、口から黒い水が吐き出された。
「ふ、らくた、るッ」
フェネチニビルの妖精が、僕のすぐそばまで来ていた。
巻き起こった炎の雪崩が、それを塵一つ残さずに焼却する。断末魔を上げる野生動物のような絶叫、灰燼に帰した妖精の奥、マツシマが特徴的なバイアルを投げ捨てた。誇張された馬鹿みたいな爬虫類の絵柄が施されたフィルム。一柱殺されたら、次、というわけだ。
「っ『アリゲーター』か」
チープ・ヘイロー・ドラッグの異名を持つ、キツィリト連邦お手製の合成魔薬だった。
どうしてそんなにもゲテモノばっかり食ってるんだ、マツシマ。そんな軽口も出てこないほど、内臓が軋んでいる。仮にも一度呼吸停止を起こした身体だ。
マツシマが注射器を打ったのだろう場所、一筋の傷跡が走り、それがゆっくりと裂ける。不思議と流血はなく、脈動する血管と生々しい筋肉の断面だけが浮き彫りになった。その狭間、ちらりと見えたくすんだ白は、多分彼の上腕骨だった。
「穿て、融解する道祖の石。」
蹄───マツシマの関節よりもよほど大きなそれが、引き裂かれた無血の傷跡から這いずり出てくる。ずるり、それが引き連れてくる体躯は、マツシマの腕を真っ二つに引き裂くほど巨大だった。
筋肉質、に見える六本足の馬。見える、とは、それが実際には筋肉を持っていなかったから、断定できなかったということだった。その多足の馬には、首と、肉がなかった。骨だけのスカスカの身体、その肋骨の中に、存在しなかった首と肉が詰め込まれていた。
馬の頭蓋骨を被った、淀んだ瞳の妖精───ヌマがこちらを睥睨している。
僕の傍ら、地面の中に埋まっていたのだろう何かのパイプが、煉瓦敷きの地面をゆっくりと浮き出てきた。それは、地表を破壊することなく、浮き出てきたのだ。切断されたパイプから、異様な匂いの白い煙が噴き出した。
見れば、ヌマに掌を差し向けたフラクタルの腕も、同じようになっていた。肉が融解し、ぼとぼとと地面に落ちる。骨だけで頼りなくなってしまったフラクタルの腕は、それでも、ヌマに火焔を叩き込んだ。
「討て、髙天厡。」
ヌマの眼前で、フラクタルの炎が握りつぶされたように消えた。遅れて、彼女も同じ末路を辿った。
「ッ、くそ」
ぐちゃ、と嘘みたいな音がした。
四肢をあらん限りの方向に折れ曲がらせて、不気味に凹んだ頭部がぐるんと回転した。首の接合部が使い物にならなくなったからだった。
圧縮されたフラクタルは、やがて不格好な丸い肉塊に変じ、地面にごろりと転がされた。輝きと共に、その姿が解けていく。
僕の体にも裂け目が走り、鋭い痛みが、怒りに水を差す。
マツシマの前には、ヌマと、アルティプラノ。アリゲーターの妖精とオグジー───エリンの精製過程で得られる化合物に石灰を混ぜた魔薬───の妖精だろう。何か奥底を覗き込めそうなほどの黒い髪と、心配になるほど白い肌。その全身をゴシック風のドレスで包んだ、景気の悪そうな女。
「マニアックな奴らばっかり使いやがって」
血を吐いて、マツシマは言った。
「しかし、効果は中々いい。」
真っ二つになっていた腕が、もとに戻っている。
地面をお気楽に歩いていた鳥が、ヌマの前を横切った。ずるり、とか、ずしゃり、とか、いっそ心地いいほどの音がして、野鳥は骨格標本にジョブチェンジした。貧相になった身体が、バラバラの骨になって解体される。視界を何かが横切った。ひしゃげた僕の肘から飛び出した骨が、血液を撒き散らした飛沫だった。
僕の中から、僕を構成しているあらゆる情報が露出する。骨が浮き上がり、外皮は壊死していく。どす黒く変色した皮膚を、眺めていた。
僕の中から、僕を構成しているあらゆる情報が露出する。指先がせり出し、外皮は引き裂かれていく。僕の胸から這いずりだした僕を、眺めていた。
「頼んだよ、僕。」
ヌマの力は強力だ。そしてそれ故に、制御なんてできたもんじゃない。それは、その力の素となるアルカロイドを見ればわかる。それは、陶酔を、快感をもたらして、その後に、その使用者を死に至らしめるような、お行儀の悪い魔薬なのだから。
敵と味方の区別なんて、つかないような妖精なのだから。
「久しぶりですね、アンタニオスさん。」
ずば、と僕から飛び出したアンタニオスは、その手にアゴニストを持っていた。
ドレスが翻り、アルティプラノがその場で回った。解き放たれた漆黒の網が、どくん、と脈動を打った。それが、アンタニオスを絡めとり、ぐるぐる巻きに締め付けた。彼の身体が一塊になるその直前に、彼の持つアゴニストの切っ先がアルティプラノに突きつけられる。しなやかなスピンを終えた妖精の長い前髪の奥に、モノクロームの端正な顔があった。その黒い瞳の眼前に、死があった。
圧縮されて肉塊になり、血飛沫と肉を撒き散らしたアンタニオス。対照的に、体の中で発生した障壁によって発散され、肉片を撒き散らしたアルティプラノ。
死因に違いはあれど、その末路は変わらなかった。
「ヌマ!次が来ますよ!」
そして、それを茫然と眺めている僕ではない。
二つの肉塊が穿ったロングレンジの境界が、溶ける。
不可侵の距離、飛び出した骨のせいでギザギザした輪郭の僕は、その疾駆は、既にマツシマの領域に踏み込んでいる。
上腕骨から侵入したアンタゴニストのブレードが、第1、第2、第3肋骨と突き進んでいき、そこに匿われていたヌマごと切断する。もう第何肋骨なのかもわからないところで、流石に一刀の推進力が絶える。
「ぃ、た……い、よぉ……」
呻いたヌマには悪いが、粉々になった頭蓋骨を纏ったアンタゴニストに命じる。
引き絞ったトリガーが、銃口から火炎を呼び出す。炸裂した熱が、刀身に火を差した。魔力繊維は、それをよく吸収し、そしてその命令に従順だ。
発散された炎が片手剣の刃渡りを駆け抜けていき、その表面で炎が爆ぜる。
爆薬を纏った一撃が、爆散を顕す斬撃に推移し───ヌマの涙ごと、その骨格がごりごりと削り取られ、切断され、炸裂していく───この世界に爆撃を著す一筆となった。
骨を燻製した香しい匂いが白煙に付与されていて、その霧を纏ったアンタゴニストは、真っ黒の刀身をしているくせに、真っ白の軌跡を描いた。
中空をぐしゃぐしゃに描いた白の終端で、僕はべ、と舌を出す。そこに載せられた紙片が、ようやっと追加の幻想を連れてくる。
キュルケーを吐き出して、マツシマにアンタゴニストの斬撃を振り出して、僕は、小さく呟いた。
「討て、聖火の守護聖人───!」
苦悶の声を漏らすマツシマ。その肌を、青紫色の瘢痕が舐った。マツシマの端正な顔面の半分が、見るに堪えない疵痕に侵される。されど、アンタゴニストは一撃を終えなかった。
黒鉄が白銀と激突し、甲高い音色を奏でた。
モノクロームの鍔迫り合い───ファミリア・ナイフの刃渡りに、僕の剥き出しの殺意が映る。
──────
ホテルの部屋で電子タバコをふかしながら、鈴は端末を無心にタップしていた。
いつからか習慣になっているそのゲームを手持ち無沙汰にいじっていると、端末の上部にメッセージの通知が入る「今なにやってる?暇だったら一緒にラーメン行こうよ」。
画面の中で戦い続ける兵隊をスクリーンショットに収め、その画像と共に返信した「暇すぎてげーむ。ラーメンめっちゃあり」。
すぐに既読がついたが、返信までに少々あったので、鈴は画面をゲームに切り替える。少し目を離した隙、鈴の操る兵隊は勝利をおさめ、各々宿舎や家に帰っていくところだった。デフォルメされた二頭身のキャラクターが、コミカルな見た目の建物に吸い込まれていく。
「おまえら、もっとやりたいこととかないのかー?」
通知が来る。返信ではなく、新しい戦闘の通知だった。
引っ込んだばかりの兵隊たちが、気力充分という感じで出てきて、また戦線へと走っていった。ご丁寧に「絶対に勝ってみせます!」というテキストまで表示される始末だった。
次は返信の通知だった。
鈴は、なにが送られてきたのか確認することもなく文章を送信する「こいつら、ずっと戦ってんの」。
勝っても負けても、戦い続ける。脱色しすぎて痛んできた前髪をわずかに避ける。
なにを懸けて戦っているのかもわからないから、鈴にはそれが末恐ろしく思えたし、なにか嫌なものを見たような気になった。一体、いつまで続けるんだろう。そんな疑問も、ずっとだよ、という自答にたちまち空疎になる。
おぞましさと憐れみを含んだ指先が、追伸する「ばかみたい。下んないでしょ(笑)」




