Ep.93『僕らがのぞんだ歴史』
「討て、大聖廟。」
「来て、理想を司る女神。」
バスターミナルが破裂し、凄まじい轟音を立てた。
ごっそりと抉り取られたビルの断面から、おそらくもう生きてはいないだろう人間がいくつも落下して、けたたましいクラクションを鳴らした大型バスがそれを追った。火花を散らしながら高速で回転したエスカレータのベルトがはち切れて、聞いていられないような甲高い金属音を鳴らしながらひしゃげていく。
鋼鉄の傷痕に、理想を司る女神が立っている。
「あァ、あァ、死に過ぎたんじゃねェかァ?ここァ、グランナダラじゃないんだけどなァ……?」
「関係ない。あなたを殺せるなら、何人殺してもいいでしょう?」
煙草をふかしたアステアが腕を振るう。軍用魔法の爆発音にも負けないような発破の音。モルヒネアの小銃から、砲弾のような弾丸が射出されて、エミリアが立っていた広場の一角に着弾する。
───弾着。
一瞬で粉塵に被膜され、その爆発圏内に存在していたなにもかもがめちゃくちゃに攪拌される。
地面を舗装していたタイルとコンクリートが引き剥がされて、植わっていた木々がチップサイズに分解される。金属製のモニュメントが針金みたいにぐにゃぐにゃになって、負荷に耐えきれなくなった歪曲点から引き千切られた。
広場の半分を穿った爆撃のグラウンド・ゼロに、片腕を失ったエミリア・カテドラルが立っている。彼女の半身、その背後、巨大な傷跡が、遺灰となって朽ちていた。
あまりにも強力な、妖精同士の必殺の打ち合い。互いの異能は、しかし、互いの命にまでは届かない。
「あァ、これが……!これがモルヒネの適合者ァ……最高だァ、アステア……!」
言ったエミリアの背後に、巨大な時計の文字盤が突き刺さった。爆撃によって巻き上げられていたのが、ようやっと落ちてきたのだった。それに追従するように、駅名を示すゴシック体がいくつも降り注ぐ。あわやその内の一つが、エミリアの頭蓋に激突しようとしたところ、彼女は見ることもなくその掌をかざした。
心臓が鼓動するような奇妙な波動が空間を滑り、「駅」という文字が、彼女の手の中で爆散した。
アステアが彼女の気を引いているうちに、呆然としていた僕もマツシマも、通じ合うように同時に走り出した。
まさか、味方だと思っていたものが、初手からこんなバカみたいな攻撃を行うとは、僕もマツシマも思っていなかったのだ。
走り出して向かう先は、同じ。ハナブサ・スズのところだった。
エミリアと差し向かうアステアは、その東都人の少女を地下鉄への階段に匿っていた。距離的にはマツシマの方が近い。奴の方が先に地下鉄入り口に飛び込んだ。
「っ、くそ」
数秒遅れて、僕も辿り着く。
階段を、一面の死体が覆っていた。
最初の爆発から、異常事態を察して逃げ込んだ重傷者、それの濁流にのみ込まれて圧死した死体、あるいはまだ生きている人間。そこで気付いたが、エミリアが抉った場所、地下には地下鉄の線路が通っている。
この地下鉄線の平均利用人数は一日約九万人。そんなキャパシティの中で、帰宅ラッシュに被るこの時間は恐ろしい人口密度を誇る。死傷者がその階段を埋め尽くしても、なにもおかしくはない。むしろまだマシだったとすら思った。
死体から沁みだした血液や糞尿、あるいは何かしらの組織からの分泌液。死後硬直の始まっていない死体は、まだぶよぶよとしていて、体液と合わさって踏み越えていくのは困難だった。
舌打ちして、その上を滑り降りる。ともすれば、ハナブサは既に死んでいるかもしれない。
一拍の思考───もう駄目だ。諦めるか。
ハナブサを探すために巡らせていた様々な配慮だとか視線だとかを棄却する。
「フラクタル」
ふわり、揺蕩った君が、僕の耳元で小首を傾げる。
「全員燃やそう。」
*
地下鉄入り口から、火炎放射のような火柱が噴き出した。
バスターミナルへの連絡通路を焼き融かすような熱量。どろりと融解したキャットウォークが、奇妙な軋みをあげて続々と崩落した。
通路の下で蹲っていた重軽傷者は容易くそれに押しつぶされ、通路の上を歩いていた人間も、黒焦げにされるか地面に投げ出されて転落死した。
生き残り、逃げ惑う者たちの上を、我が物顔で闊歩する重兵装の巨人は、ぶん、と腕を振り回し、コンバットナイフを羽虫のような敵に叩きつける。その刃は、エミリアを捉えることはなかったが、一太刀の軌跡に駅ビルの或るフロアを通過していた。
叩き割られたガラスの破片と、ナイフに纏わりついていた衣料品やぬいぐるみ、商品棚などがまとめて薙ぎ払われ、破壊の跡痛々しい広場に降り注いだ。
モルヒネアのコンバットナイフの上に乗ったエミリアは、にや、と嫌らしい笑みを浮かべ、刀身の中ほどまで歩いた。
緩慢なその動作に、モルヒネアがもう片方の手で突きつけた拳銃の弾丸が叩き込まれる。発砲音の残響が途絶える前に、その鉛の塊が塵すら残さず消滅する。エミリアがただ人差し指で触れるだけで成したことだった。
「ちょっと貰うぜェ……?」
モルヒネアが再度トリガーを引こうとする間に、エミリアの指先が地面を、コンバットナイフの表面をぴっと横切る。赤黒い脈動───切断面。グラインダーで切ったように、あまりにも綺麗にナイフの刀身が両断された。
モルヒネアの規格のナイフは、それだけで大型バスの天井面積と大差ない刃渡りを持っていた。
切断され、ぐらり、と落下し始めるそれを、エミリアは掴んだ。
ぐる、と空中で回ったエミリアの片腕の軌跡、振り抜いた彼女の爽やかな笑顔に少し遅れて、巨大すぎるナイフの刀身がモルヒネアの顔面に直撃した。
「モルヒネアっ……!」
タクティカルヘルメットとスコープ、対化学兵器マスクをさっくりと切り裂いたナイフの一撃は、その内側にあったモルヒネアの横顔を深く通り過ぎていき、粟立った血液が滝のように流れ出した。彼女の足元、停車していた客待ちのタクシーが、その血液によって陥没し、車内を真っ赤に染色した。
モルヒネアの脳髄を通過し、その幾許かを纏ったナイフは、勢いを多少殺しながらも飛んでいき、駅ビルの一部を掠めながら高架に激突した。粉塵に塗れて、それより先はわからなかった。
「大丈夫っ!?モルヒネア!!だめ、あなたは、そんな思い、しちゃいけないのに……っ」
モルヒネアの肩に乗っていたアステアは、エミリアの放った飛ぶ斬撃を、間一髪で躱していた。モルヒネアが肩をすくめたから、彼女は助かり、そして同時、そうしたから、モルヒネアは顔面を切り刻まれることとなった。そうでなければ、アステアは今ごろ、人の形をとどめてはいなかっただろう。
接合部を丸々切断された頭周りの装備が次々と落ちていき───翻る月色の髪が、するりと靡いた。
口の端を裂き、頬を通過して、耳から後頭部に抜けている切傷は、彼女の左脳を両断している。そんな凄絶な傷跡をもってしても、モルヒネアの美しさを毀損することはできなかった。
全てを見通しているような白瞳が、色素の薄い艶やかな唇が、一筆描いたような鼻筋が、無造作に投げ出された髪のその一筋、一本が、ただ、恍惚を生み出した。そこに、憧憬を生み出した。陶酔をもたらした。
地面に弾着したさしものエミリア・カテドラルも、ほんの一瞬とは言え、その美貌に言葉を失った。
厚く、戦争という殻に被覆されていた美しさ。重武装という被膜に眠っていた理想を司る女神の姿が、解き放たれた瞬間だった。
「やっぱり、可愛い……モルヒネア。」
慈しむように、アステアはモルヒネアの頬の傷に触れた。人間味のなかった作り物のような表情が、ほんの少しだけ頬に赤を差した。
アステアは、次の一手のために周囲に視線を巡らせ、そして───中空を駆け抜けていく九州新幹線を見つけた。
「ん……?」
*
「なぁ、マツシマ。東都のシンカンセンってのは、空も飛べるんだったっけか。」
「……東都レールウェイズはそんなとんちきな会社じゃないですよ。」
地下鉄線ホームは酷い有様だった。崩落した瓦礫によってひしゃげた列車と、ホーム、線路関係なく倒れ伏す死体、重傷者。僕が放った炎も、まだ消えずに、ところどころで熱を発していた。
僕が爆破したせいで空が見えるようになってしまった地下鉄プラットフォームからは、とうとう航空輸送の領域に羽ばたいた、東都最速の地上旅客輸送車両が見えた。
「流石に今ので死んじまったか?」
アンタゴニストで肩を叩きながら、マツシマの方を見やる。
彼が抱えていた少女は、五体満足には見えるが、意識の表出が見えなかった。少しだけ、脳が疼く。
マツシマの後ろに、歪曲した角を生やした女が二人。黒いローブを羽織っていて、感情のない瞳は、無感動に僕を眺めている。
女のうちの一人がハナブサの胸に手刀を突っ込み、ぐちゃ、と生臭い音を立ててその中をいじくった。やがて引き抜かれた女の腕は、血液やら筋線維やらで酷い有様になっていたが、ハナブサの胸は傷一つないほど綺麗に接合されていた。
小さく咳き込んだハナブサが、その矮躯を微か揺らす。
「……アダムスの適合者。」
「なに、私たちの聖戦に手を出させるつもりはないですよ。」
「聖戦?馬鹿言うなよ」
「えぇ、そうですね。」
くつくつと笑って、僕らは互いに視線を交わし合った。
マツシマは、女の一人にハナブサを預け、ポケットのピルケースからアダムスの錠剤を取り出した。そして、それを呑み込む。
「付き合ってください、リゼルキルトさん。彼女はそのために、ここまで来たんですから。」
そして、小さく呟く。
「解き放て、鏡面閉架。」
*
「チッ、マツシマんやつ、違ェ力ぁ使いやがったなァ……!」
明らかに自身の力が弱ってきているのを察して、エミリアは舌打ちした。というのも、人間を模していた彼女の身体は、今は随分と貧相になっていて、最初は片腕だけだった欠損が、半身と括られてしまうくらいには、人間らしくない見た目をしていた。
「っぱ、原初の魔薬にゃぁ、勝てねぇってことかよ、クソが。」
そして、それを成したのは───落下してきた巨大な何かが、駅前広場に激突し、爆薬よろしく破壊力を撒き散らした。タクシーローターリーを陥没させ、そこに駐車していたタクシーの一部をも押し潰したのは、切断され、その肩から零れたモルヒネアの片腕であった。
この世界に生み出されて、その猛威を振るったモルヒネ。そしてそこから生み出されたヘイロー。戦争という概念に密接に関わり、一基原植物というレッテルから全く逸脱した、カラシナという植物。
かたや白亜の原油と称され、その魔力に憑りつかれた人間のいくつもの鼻中隔を崩壊させながら、その実、パイプラインの先にあった脳髄をぐずぐずに融解させた最恐の魔薬、エリン。
致死量や力価、化学式の複雑さなどをとにかく詰め込んで、まるで蟲毒のように幽閉した。そこに最後に立っていたのは、最強の毒虫などではなく、全てのルーツを呑み下し、融合させた可憐な少女───妖精たちであった。
「リゼルキルトに伝えろォ!アステア・グルクロニド!」
人間───を模した身体───の断面は、焼け溶けて溶着してしまったシャツの化学繊維と、断裂してネットワークを破壊された血管の吐き出す血液によって赤黒い不可解な紋様を浮かべるだけであった。そこからは、妖精というシステムを構成する複雑怪奇な構成部品の緻密さなどは、見通すことができない。
地面に斃れたエミリアの前に、カラシナの手によって下ろされたアステアが立つ。
アステアも、煤や血液、切創によって、塹壕迷彩を纏っている。
「いいよ、伝えてあげる。」
アステアは、膝を折って屈みこみ、古くからの友人にするように気安く、エミリアに問うた。
「この戦争は、絶対終わらねェ……お前らは、妖精たちを棄てられない。この世界の奴らは、あの魔薬の快楽から逃れられねェ……もはや偽物の快楽なんて言えないほど、呪いはアタシたちを蝕んでるッ!」
彼女は、妖精としてではなく、まるで自分も人間の一人であるように語った。少し前の彼女のことを考えれば、全く見当違いだというわけでもなかった。
「切り拓いてみろ!リゼルキルト・カルテル!アルカロイドん中には、アタシらみたいなんしか入ってねぇ……!この呪いに侵された世界に、光なんてねぇんだァ……っ!ははっ」
「……うん。わかってる。わたしとリゼルキルトが、そうしたんだ。」
哄笑を上げていたエミリアは、そのアステアの瞳に表情を歪めた。愉快な感情ではなかった。しかし、そこに注入された激情に任せて口を開くことはなかった。声音が潜み、乱暴に扱われていた言葉が、微か、表現を取り戻す。
「んじゃあいい、さ。お前もリゼルキルトも、妖精の実存について、魔薬の快楽について、悩む暇もなく頷いちまうような人間だ。だが、妖精は、魔薬は、んな単純なもんじゃない。アルカロイドに眠る神々は、この世界の多くのもんから何かを仮託されている。そして奴らは、そこに代償を求めない。
だからァ、奴らの行動は、決定的な意味が生まれる。それが、歴史を決定する。」
理想を司る女神は、アステアの理想の地獄を作り出して見せた。そしてそこに、代償は課されなかった。やがて彼女の理想は、全世界を取り巻く”現実”になった。代償となる苦痛は、その薬の魔力の前に取り去られた。
妖精には、神々には、論理を超越した力があり、それは、敵と命の奪い合いに耽るだけでは持て余すほどの、因果を結ぶ力だった。
「魔薬の全てを、魔法の全てを仮託された妖精は、アタシらなんか目じゃないほど、強い力を、呪いを持ってる。そいつをどうするのかで、歴史が決まる。忘れんなよ、アステア。」
エンケファリン───魔薬を司り、全ての妖精を支配下に置き、ただ、盲目に、愛を信じ続けている、小さな女神。
アステアは、しかしそれでもアステアであった。例え世界がどれほど黒々とした呪いに覆われていたとしても、例え、どれほどの絶望が、彼女の身体に巻き付いて締め付けようと、その中に格納されたとある関数は、変わらない答えを出力する。
「わたしが選んだ地獄に来た。この地獄は、わたしと、リゼルキルトのためだけにある。それは、神様にだって変えられない。」
アステアという少女が持つ、とある咎。
それは、神殺しの異名であった。”神”という名前を持ち、実態を持つ存在。それを、彼女は、彼女の手で葬った。それは、因果と強く結びつく妖精の力にとって、重大な意味を持つ。彼女には、神を殺す権能が与えられている。
「リゼルキルトが云ってた。この地獄には、ある蓋然性がある、って。」
男の名を聞いて、エミリアは微か、その眦を和らげた。それは、性愛や友愛とも違う、親愛でもニュアンスが異なり、愛憎とは決定的に違った。きっと、彼も、同じような想いを抱く相手がいることだろう。エミリアはひとり完結し、「あァ」と相槌を打った。
「魔薬戦争を終わらせる手段が、一つだけあるんだって。」
驚きを表明しようとした表情筋に、しかし、エミリアは待ったをかけた。それは、あのリゼルキルトという男が言った話なのだ、と。だから彼女は、目を見開く代わりに、大笑いを上げるため、肺腑に空気を取り込んでおくことにした。
「その方法は、メヒクトでビールを注ぎにきた娘に、三倍のチップを払うこと。グランナダラの農家の作物に、五倍の価格をつけること。ブラウの物乞いが広げている帽子の中に、ダラの札束を三つ放り込むこと。」
エミリアは、その荒唐無稽なたとえ話に、やはり大笑いした。
それは、なんとも婉曲で、アイロニーに満ち満ちていて、それでいて、たった一言に換言できるものであったのだ。
「あいつの言いそうなことだ。でも、アンタなら、もっとわかりやすく言えるだろォ、なぁ」
「うん。リゼルキルトが言いたいのは……この世界から、貧富の差がなくなる必要がある、ってこと。この世界から、資本主義がなくなる必要がある、ってこと。」
唯一、この世界に現存する妖精、神の中で、アルカロイド由来じゃない一柱。
リゼルキルトはずっと、それについて論じてきた。それへの武力蜂起を考えてきた。それに特効薬を打ち込む方法を考えていた。彼が歩んできた足跡、血が滴り、注射器が突き刺さり、内臓が落ちていて、紙幣が彩る、その足跡。それが、書き記してきた。
「金によって不幸を被った全ての人間が、資本主義という神に呪いを仮託した。そして、それはやがて、たくさんの妖精や神々を呼び寄せた。」
資本主義という名前の神。とあるナイフと同じ道のりを生きた、とある神。
「魔薬は、資本主義にとどめを刺す薬。宿主を殺して、妖精たちも死ぬ。リゼルキルトはもっと悲観的に言ってたかな。跋扈した資本主義の天敵として、これは生み出された、って。」
「あァ、正論だと思うぜェ」
「だから、この地獄はどんな存在にも棄損されない。たとえ神様にだって、変えられない。全部、わたしたちの思い通りになる。これは、神様を殺すための地獄だから。」
消えゆくエミリア・カテドラルは、頷いてから言った。とある男の姿を思い浮かべた。付き従った、とある少女のことを思い浮かべた。
「終わらねぇんなら、僥倖だ。次は殺す、アステア・グルクロニド。それと、……リゼルキルト。」
ぱっと光って、エミリアは消えた。解けるように、輝きと成って行った。
口の中に溜まってきた血痰を吐き棄てる。アステアは思う。
───リゼルキルトは、エンケファリンを、どうするだろう。
空の彼方の牢獄に被膜された、魔薬資本主義の擬人化のような妖精。それが、一体どんな結末を迎えるのか。それが、この世界の歴史を左右する。とある不解決問題の別解を導き出す。第四障壁の問題を、再解釈する。
魔薬の快楽は本物か。それによって得られた世界は、本物か。
されど、この地獄は終わらない。アステアは、既にそれを了解していた。だからこそ、リゼルキルトの選択に興味が湧いた。
どんな選択をしても、彼が守るべき矜持が棄損されることはない。どの選択肢を選んだっていい。では、そんなおあつらえ向きな大義名分がある中で、選択に使用される感情はなんだろうか。その感情こそ、その人間の持ちえる、本物の感情ではなかろうか。
リゼルキルトが選択する。妖精の顛末が決まる。そしてそれが、歴史を決定する。解答を出す。
何かを切り拓いたとき、その中に眠っている輝きのことを、リゼルキルトは信奉している。
それならば、あの牢獄の被膜すら、彼は、切り拓きたくなるはずだ。そこには、本物の輝きがあるから。
アステアは首を振って、小さく自嘲した。
「わたしがいれば、……充分か。」
アルカロイド由来ではない貧民街の小娘は、自分の内側に眠っている輝きに無自覚だった。
リゼルキルトは自分の裸体が好きなのだと、まだ、本気で思っていたのだった。




