9 アルパインの見る夢は
1
パリン
「杖が限界か……半数は弓矢に、もう半数は槍に切り替えろ! この魔熊自体の戦闘力は中型の上位クラスだ! 連携すればお前らでも十分に戦える! 」
アルパイン直属騎士団の『ボールマンの杖』が限界を迎えた。
三十人分の中級魔術による連続攻撃は魔熊を二百体近く戦闘不能にした。
「ここからが! 我らの本領発揮だ! なんとしても、ここを死守だ! ラザアお嬢の出産をこんな熊どもに邪魔させる訳にはいかんぞ! 」
「オオオオオオオ! 」
騎士団の士気は高い。だが、客観的に見て残り三百体近い魔熊との戦力差は十倍近くある。
「おらあ! この熊公が! 干し肉にしてウェンリーゼの土産にしてやる! 」
「胆嚢は栄養が高いっていいますからね! 」
「奥方様のいい土産になりますね! 」
「こんな奴らの肝は臭いかもしれんけどなぁ! 」
「「「ハハハハハハ! 」」」
アルパインも味方を鼓舞しようと前線で暴れる。
「はあ、はあ、はあ、くそが! あと十歳若ければ」
五十を過ぎているアルパインの動きは鈍ってきた。
少しずつ、武器を振るう腕が重くなる。
アルパインが使う『現代版流体金属』はユーズレスが使う『流体金属』と比較して形状が変化するごとに質量は変わらない。
その代わりに元の武器から『流体金属』は性能が一段階ダウンするのに比較して、『現代版流体金属』は二段階性能が下がり、形状の維持時間も三分程度である。
そのためにアルパインは戦闘ごとにかなりの神経を消費している。
精神的な疲労は若くないアルパインを削っていった。
「ガウウウウゥ! 」
魔熊の爪牙がアルパインを襲う。
戦場ではやはり数は力である。
アルパインは致命傷こそ追っていないが、徐々にかすり傷は多くなり魔力も減っていった。
「くそう! なめるなよ!」
アルパインが『現代版流体金属』を槍に変えて投擲した。
「ガウゥゥゥゥ……」
先頭の魔熊が絶命したが、後続は気にせずにアルパインを囲もうとする。
「閣下! 」
「親父ぃぃぃ! 」
直属騎士団が魔熊の波に割って入る。
「この熊が! 」
アルパインが腰からレツの形見であるハンマーを取り出した。
〖源〗
分類:ハンマー(レツ専用工具)
・効果とストーリー
巨匠といわれたウォルンとベンの合作のハンマー。レツが一人前になった証にウォルンより贈られたもの。レツは普段は鍛冶仕事のハンマーとして使用している。
火系統の魔術効果増大(小~大、魔力と相性に依存する)
氷系統の魔術効果増大(小~大、魔力と相性に依存する)
※魔力の代わりに魔石でも代替え可能
「おらぁ! 熱いのは飽きただろう! 今度は冷やしてやるぅ! 」
「ガガウ! 」
アルパインは魔力のほとんどを使用して、魔熊達の足元を凍らせた。
「今だ! ありったけの矢を食らわせてやれ! 」
「「はっ! 」」
アルパイン達は粘っている。
奇跡的に今のところ死者は一人もいない。
(クソが! ワシの魔力もスッカラカンだ)
(こんな時に)
(アイツらが居てくれたら)
アルパインの限界は近い。
2
神殿 医務室
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「ラザア様その調子です。落ち着いていいリズムです」
ラザアはジュエルとマロン、ハイケンに見守られながら陣痛と戦っていた。
破水の後も冷静なマロンの対処によって無事に神殿の医務室までくることができた。
「「「ガウウウウウウ! 」」」
ドッガーン
「音が、外では戦いが……」
「ご安心下さい。ラザア様、外ではアルパイン少将が直属騎士団を引き連れて防衛しております。ウェンリーゼが誇る『百器兵装アルパイン』が守備に就いたのです。過去に少将閣下が抜かれた記録はデーターにありませんと一部の報告を終了致します」
「ハイケンのいう通りでございます。安心して出産に集中して下さい」
ハイケンとマロンがラザアを安心させるようにいう。
「ええ、そうね。アルパイン伯父様がいれば安心だわ」
だが、ラザアはここにいる誰よりもアルパインのことを知っている。
アルパインは一見、粗野であるが誰よりも繊細で気遣いのできる心根の優しい人だ。そして、皆に対して武力という点でコンプレックスを持っている。
だからこそ、人の気持ちに誰よりも寄り添うことができる。
本当は……アルパインは戦闘が好きではない。
血生臭い戦場にいるよりも彼は、好きな花を育て人々を幸せにすることのできる人なのだ。
孤児でウェンリーゼに引き取られた彼はウェンリーゼ家を守るという呪いに取り憑かれている。
ラザアは出産中であったが、ふと皆のことを思い出した。
(クロ、シロ、ベン、ジョー、スイ、レツ、ヒョウ、ギン、ランおじさま)
(皆、どうか……アルパイン伯父様を守ってあげて)
ラザアは祈った。
その祈りは尊いものだった。
その刹那にラザアの指輪『海王神祭典』から虹色の光が溢れた。
3
秘密の部屋 クリッドとチルドデスク
「このパンケーキはバカウマだメェェェッェェ! バターに蜂蜜のハーモニーが、頭がお花畑になっちゃうメェェェ! 」
クリッドは飽きもせずに百枚目になるパンケーキを食べた。
チルドデスクは久しぶりの料理に熱が入ったのだろう。
「クレープもあるぞ。米粉をつかったから生地がモチモチだ」
トッピングで、ジャムやフルーツ、ミルク氷菓にホイップクリームを高速で作った。
「このクレープという包み焼きも最高ダメェェ! 生地がモチモチしてて、初めての触感だメェェェッェェ! 将来は、クレープ様と結婚するメェェェ! これだから、地上は最高メェェェ。ああ、アイスコーヒーにはガムシロップを、ご安心ください。こう見えて悪魔大帝なので状態異常が効かないから糖尿病の心配もないメェェェ」
クリッドは地上の英知を謳歌していた。
ギィィィィィィィ
「うん? この波動は? 大気が揺れた? 」
「どうした? コーヒーは苦かったか? 」
「これは? 珍しい。瞬間的に冥界の門が開きましたね。しかし、そのようなアーティファクトは存在しないはずですが……いやこれは? 武器? ああ、神が宿ったのですね。まったく、これだから地上は摩訶不思議な……すみませんが、このクレープにバナナなるものを挟めるとより一層バランスが」
「……なにかいいことがあったようだな。だが、甘いものばかりで飽きただろう」
「これは、クレープの中身がお肉にシャキシャキレタス! なんと、このような裏技が! まさかこれが古代語のチート、いや、奇跡というやつですか!! 」
古来より大事にされてきたもの、共に歩んできたものには時に『想い』が宿るといわれている。
それを人々は物に神が宿るといった時代もあったようだ。




