8 百器兵装アルパイン
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王都内 神殿までの道
「ガウゥゥゥ」
魔熊別動隊五百は本命の部隊であった。
この魔熊達は通常の魔熊に比べて二回りほど小さく、人種の女性程度の大きさである。膂力も通常個体には劣るが、毛皮が特殊で『認識阻害』の効果を持つ特殊個体である。
また足音を立てずに移動が可能であり、今回のような大規模な混戦での隠密行動に特化している。
フューネラルの眷属たる魔熊達の知能は高い。
それぞれの群れにボス熊がおり、統率の取れた動きをする。
実際にこの特殊個体の群れは、嗅覚で強者の匂いをかぎ分けながら、混戦であぶれた騎士や冒険者をすでに百人近く葬った。
魔熊達は、中枢にある大神殿を目指していた。
魔熊達は、分かっていたのだ。
ここに敵の蓄えと避難場所であると。
ここを叩けば敵が一番嫌がると。
「ガウウウ! 」
魔熊達が神殿を目前に立ち止まった。
「「炎よ燃やし尽くせ」」
魔熊達に二十を越える中級魔術《火柱》が襲いかかる。
「ガウウウ!」
先頭の魔熊五十体が《火柱》に焼かれる。
「クソが! 直前で気付いたか! 勘のいいボスがいるみたいだな! 」
アルパインと直属騎団三十人が神殿の影から現れた。
「ガウウウ! ガウウウ! 」
魔熊達は最小限の犠牲で難を逃れたが驚愕した。
あれだけ万の魔熊による大規模な囮作戦が見破られたのである。
「貴様らのやることなんざ、大体分かるワイ! ワシでも本丸を狙うからな! 」
アルパインが『四次元』の外套から『現代版流体金属』を取り出した。
『百器兵装アルパイン』、ウェンリーゼが誇るこの武将は特別な戦闘の才があったわけではない。ギンやヒョウ、死んでいった仲間たちと比べたら単純な戦闘力は一段も二段も劣る。
だが、アルパインは不思議と軍才があった。
緻密な計算や腹の探り合いが苦手ではあったが、アルパインは戦局において神がかった采配を振るうわけではない。だが、アルパインは負けることがなかった。
大勝利を収めるような功績はない。
だが、どんな局面でも苦しくも盤上をひっくり返す。それがアルパインである。
ランベルトがかつてアルパインに、勝利の秘策を聞くと。
「花を飾るのと同じで彩りとバランスが大事なんだ」
ランベルトには理解できはしなかったが……
また、アルパインは粗野ではあるが器用であった。
アルパインは、近距離、中距離、遠距離全ての戦闘や武器を使用でき、魔力量もそこそこであり、そのせいあってかどの場面、戦闘や戦場でも十全に活躍した。
一時期は【コンプレックス】であったが、それを乗り越えたアルパインは、単純な戦闘力は一流に劣るが、経験や応用力に基づく戦闘能力は超一流である。
「ワシが突っ込む! お前らは、初級魔術で援護しろ! 」
「「はっ! 閣下! 」」
パリン
アルパインが『現代版流体金属』を変化させながら突っ込んだ。
アルパインの戦闘は独特だ。
盾で突っ込んだと思いきや、瞬時に『現代版流体金属』武器を変化させ双剣で魔熊の足を斬りつけ、囲まれたと思いきや、大槌を振り回す。
スペースが空いたと思えば槍で牽制しながら、自身の魔術で魔熊を削ぐ。
直属の兵士達との連携も完璧であり、アルパインの変幻自在な攻撃に合わせるように、魔術や弓の援護、近距離では盾によるガードをする。
「閣下に後れを取るな! 」
「まったく、親父には参ったぜ」
「熊風情が、親父には指1本触れさせんぜ」
アルパイン 直属の兵士達は皆、孤児であった。
アルパインの妻は今年、出産を控えているが五十過ぎのアルパインに実子はいなかった。
アルパインは、デニッシュの右腕と言われた『瞬槍』の弟である。
本人は自分を孤児と勘違いしているが、当時は『ウーゴの奇跡』で平民から貴族に成り上がり、第二王子デニッシュのパーティー『銀狼』の荷物持ちだった少年には何かと貴族からの嫌がらせがあった。
何より今でこそ先王デニッシュは『賢王』等と偉大な王として名を残したが、王位争いは分が悪かった。
マウとしても只の少年に過ぎなかった彼は、苦肉の策で弟であるアルパインを、デニッシュの懐刀であったウェンリーゼのキーリに託したのだった。
アルパインは人並みの暮らしを送れたが、どこか寂しさがあったのだろう。
心優しい花屋は、孤児達に愛を教えた。
まるで花を愛でるかのように。
「お前ら! あまり、無茶するんじゃねぇぞ」
「「「いつものことです! ! 」」」
アルパイン直属騎士、愛を知る騎士達強い。
厳密にはアルパインの指揮では、一般兵と大差がない彼らであるが鬼神の如き強さを発揮する。
例え目の前が竜の巣であろうがアルパインが飛び込むなら、喜んでついていくであろう。
彼らにとってはアルパインは父親以上に、尊ぶべき存在であるのだから……
特殊個体魔熊残り四百二十体
アルパイン直属騎士団三十人




