第82話
岩井克也の学生時代は勉学がほとんどだった。
勉強していい成績を残せば両親が褒めてくれる。それこそが岩井の動力源になっていたのだ。
小学校、中学校ともに勉強漬けである彼は周りから「ガリベン」と呼ばれるようになっていたが、本人はさほど気にしてはいなかった。
なぜなら学業のできる人間が上位に立つことができるのだから、それを馬鹿にする成績の悪い人間はすでに敗者も同然なのだからだ。
そして岩井は四つの高校の中でもトップの成績を誇る東高へ入学した。
そこでもやはり勉強あるのみだった。
部活動や恋愛と言った青春を全て捨て、勉学に励んだ彼の成績は裏切ることはなく、テストは全てトップの成績を収めており、教師も彼の存在には大きく注目していた。
そして東高を卒業して都会の大学に入学した。
大学に入っても勉強を続けた。勉強をしていればいい人生を送ることができる。当時の岩井にはそれしか頭になかった。
しかしその考え方が悲劇を生むことになる。
大学を卒業した岩井はとある会社に入社したが、思うように仕事ができなかったのだ。
営業ができない、会話が弾まない、上司に怒られてばかりの毎日を送る岩井のストレスは限界に達し、上司の机に辞表を叩きつけ、都会を後にした。
「僕はここまで頑張ってきたんだ! それなのになんでこんなにもうまくいかないんだ! こんなのおかしい! ありえない! 僕のやってきたことはすべて無駄だとでもいうのか!? そんなことはない! 僕は誰よりも優れているんだ! 周りの連中がマヌケなだけだ! そうだ! 僕は絶対に悪くない!!」
そんな時、彼の前に一枚のカードが出現した。
豚のカードが描かれているそのカードに触れると、それが強大な力を発揮することができる能力がある代物だと瞬時に理解した。
岩井がさっそくその能力を使用してみることにした。
豚のビースト・オークの能力は女性を自在に洗脳して操ることができるというものだった。
今まで恋愛経験など皆無に等しかった岩井はこの能力を初めて使用することには抵抗はあったが、いざ使ってみるとそこから先は能力なしではいられない状態になっていた。
ビーストの力であらゆる女を自分のものにできてしまうという優越感。
今まで机に向かって教科書や参考書などをめくってきた日々などはすべて無駄だったことに気づいた岩井はこれまで培ってきて努力や経験をすべて捨て、多数の女性を抱えながら施設の中に閉じこもるようになった。
それが岩井克也のためのハーレム施設、嫁嫁クラブの誕生である。
◆
「克也様」
岩井に仕えている女性の一人が話しかけてきた。
「どうした?」
岩井の片手にはワイングラスが握られていて、赤いワインを軽く口に含みながら隣で抱き着いている女の頭を撫でる。
「なんでも、克也様の僕になりたいという女が見えまして」
「ほう……」
嫁嫁クラブにいる女性はすべてオークの能力によって洗脳した者ばかりだ。
しかし向こうから自分のハーレムに入りたいと申し出るものが出てくるのは初めてである。
「いいだろう。通せ」
「わかりました。おい、来ていいぞ」
「し、失礼しま~す」
現れたのは東高の制服を着た女子だった。
「わ、私も~克也様の一員になりたくて~」
若干おどおどしている大人しい感じの女子生徒だった。
「ふむ……いいだろう。それではさっそく忠誠の儀式をしようじゃないか」
「儀式……?」
「そうだ。僕のハーレムに入りたいというのなら僕の靴を舐めろ。それが忠誠の証だ」
今までの女は洗脳によって靴を舐めさせていたが、洗脳されていない女に命令するのは新鮮な気分だった。
会社勤めの頃はコミュニケーション能力が低かったためうまく言葉を発することができないが、女性たちを洗脳しているうちに自然と会話ができるようになっていたのだ。
これもビーストによる影響によって自身がついた結果と言えるだろう。
故に目の前にいる女子高生に対しても、緊張することなく接することができている。
「どうした? やらないのか? お前の僕に対する思いはその程度か?」
自然と高圧的な態度を取ってしまう岩井は自らの足を前に出した。
「で、では……」
女子高生はその場にしゃがみ込んで舌を出した、と思ったら両手で岩井の足を掴んできたのだ。
「なーんてねっ!」
両手の力だけで足を持ち上げ、そのまま一本背負いをしたのだった。




