第79話
俺たちの前に現れたビーストはチェックと同じくらいのサイズの小さな子豚だった。
俺のフェンリルや高渕のガルーダは人一人が乗れるほど大きなサイズをしているから、すべてのビーストは体の大きいものばかりだと思い込んでいた。
だから両手で持ち上げられそうなほど小さなビーストがいるだなんて思わなかったのだ。
「なんか……しょぼそうだな?」
「ふふふ……そんなこと言っていられるのも今の内だよ? やれ! 豚のビースト・オーク!」「オックゥ!」
オークと呼ばれたそのビーストはその場から高くジャンプした。
そして鼻からピンク色のビームを発射してきたのだ。
「あぶねっ!」
その場でしゃがんで攻撃を回避しようとしたが、そのビームは俺たちには向けられていなかった。
俺たちの後ろに立っている複数の女たちにビームがヒットしたのだ。
「「「きゃあああああああああ!」」」
「へっ! どこ狙ってんだよノーコン!」
味方である女たちに当てるなんてとんだマヌケだぜ。
「ふっふっふ。馬鹿を言うな、まさにクリーンヒットさ」
「なにっ? まさかっ!」
高渕が振り向くとさっきオークのビームに当たった女がいきなりキックを仕掛けてきたのだ。
「きぇぇい!」
「くっ!」
高渕はそれをバックステップで回避するが、他の女たちも連続で高渕に襲いかかってくる。
それを高渕は反撃することなくただただ回避するばかりだった。
「なにやってんだよ高渕! なっさけねぇな!」
「うるさい! 手数が多すぎるんだ! 反撃の隙を与えてくれない!」
急に女たちが束になって襲いかかってくるなんて、やはりあのオークの放ったビームが何か関係しているのか?
「ふっふっふ。知りたそうだから教えてやろうじゃなかいか。僕のビースト、オークの力をな!」
そう言うと岩井は隣に座っていた女に対してオークにビームを放つように指示をした。
ビームをモロに浴びた女の目はハートになり、急に頭を下げてきた。
「ご主人様、何なりとお申し付けください」
「お前はもう一人の男の相手をしろ」
「かしこまりました」
その女は空になった酒瓶を逆手に持って、俺に向かって襲い掛かってきたのだ。
「むぅん!」
「あっぶね!」
なんの躊躇もない本気の振りだった。
瓶はテーブルの端に当たって粉々に砕けた。
頭部に当たれば間違いなく頭蓋骨は割れて大量の血が流れていただろう。
「マジかよアンタ……」
そう話かけても女は反応しなかった。
あくまで聞く耳を持つのは岩井だけらしい。
「どうだい? これが僕のビースト、オークの力。女性をメロメロにして僕の言うことならなんでも聞いてくれる僕(しもべ)となってくれるのさ!」
なるほど。オークそのものの力は弱そうだが、他人を洗脳することができる能力は非常に厄介だ。
「どうした。反撃してもいいんだぞ? 駒ならいくらでもあるんだからな」
「あいにく俺は、女に対して暴力は振るわないようにしているんだよ」
フェミニストを気取っているわけではない。
俺の父親は母親に対して暴力を何度も振るっていた。
そんな男の息子である俺はある一つの誓いを立てている。
それは女を殴らないことだ。
もし俺が喧嘩とは言え女相手に暴力を振るってしまったらあの男と同じクズ野郎になってしまう。
だからたとえ相手がビーストの力で洗脳された女だとしても、俺は暴力を振るうことを許さなかった。
「ふん。清々しい心意気じゃないか。ならば……」
オークはあらゆる方向にビームを発射して、複数の女を同時に一片に洗脳し始めた。
「これだけの僕の手下たちを相手にしても、同じことが言えるかな?」
その数ざっと十人以上。
全員の目にはハートマークが浮かんでいるが、俺を集団でリンチにする気満々の眼差しにも見えた。
「きたねーぞコノヤロー……」
複数の殺気が俺に襲いかかってきた。




