第76話
「ところで君はこの施設を仕切っている男の情報は知っているのか?」
先に施設に入ろうとした俺に声をかけてきた高渕。
「なんだよいきなり」
「まさかなんの情報もなしに敵地に攻め入ろうとしていたのかい? やれやれだ」
「いきなり嫌味なこと言いやがって……んじゃあお前は何か知っているのかよ」
「もちろんだ」と言いながら高渕は小さなノートを取り出した。
「僕たち東高生徒会は事前調査を怠らない。君たちと違ってね」
「ほーほーそーですかー」
他人を見下す言い方には毎回腹が立つ。
高渕という男は非情な人間。それが俺の認識だ。
なぜなら前に鰐のビーストと戦った時、「作戦がある」と言ってそいつの言う通りに動いたら、オトリ役をやらされたことがあったのだ。
本人曰く「敵を欺くにはまず味方から」とのことだが、俺は納得いっていない。
こいつは俺たち不良のことを完全に下に見ていて余裕で捨て駒にしているのだ。
……だが、あの遠藤真久という自己中殺人鬼よりかはマシかもしれない。
なぜならこいつは俺たちと同じように、ビーストの力で誰かを救おうとしているからだ。
そして今回もビーストの力で事件を解決するつもりなのだろう。
そのために綿密な調査を前もって行っていたというわけか。
たしかに頭の悪い俺たちと比べたらやっぱり利口だな。
「岩井克也」
突然高渕が誰かの名前を言ってきた。
「誰だそいつ?」
「だから、この施設を仕切っている男の名前だよ」
「ああ……てかよくそんなこと調べられたな」
「東高生徒会は優秀なのでね、身元はすぐにわかったよ。それに彼は僕たちと同じ東高出身ということだったことも明らかになったから、よりよく調べることができたよ」
「ん?」
俺は首を傾げた。
東高は頭のいい連中の通う高校だ。
そんな出来のいい奴らが集まる高校の卒業生がなぜこんな人気の少ない所にある施設を仕切っているんだ?
いい学校に入れたのなら、いい会社に入るなり企業を起こすなりできるはずなのに。
「君がおかしいと思っていることは何となくだがわかるよ」
「お前はエスパーかっ」
心の声を聞かれたみたいで気味が悪い。
「確かに彼は成績優秀な生徒だった。成績は常に学年のトップを維持していたそうだ。しかし、それだけだった」
「どういうことだ?」
「その後彼は有名な大学へと進学してそこでも勉学に励んだ。そして大手企業への就職が決まったのだが……彼はものの数ヶ月でその会社を辞めている」
俺は耳を疑った。
成績優秀な優等生がなぜ会社を辞めなければならなかったのか。
「勉学ができる=仕事ができるわけではない。勉強しかしてこなかった彼はコミュニケーションスキルがからっきしだったゆえに営業職が上手くできず、人付き合いもてんでダメだったことから早期退職してしまったんだ。それ以来彼はどこにも職に就くことなく今を過ごしているとの事だ」
「あ、なんかそういうのバライティで見たことあるわ。たしか『高学歴ニート』っていうんだったかな? なるほど、そんでもってビーストに覚醒したってわけか……」
理由や経緯がどうあれビーストを使って悪だくみしている奴を放っておくわけにはいかない。
それがたとえ元優等生だろうがコミュ症野郎だろうがだ。
「事情はわかった。んじゃ、行くか」
「やれやれ。また君とタッグを組むことになってしまうとはな」
「嫌なら帰れよ」
「そういうわけにはいかないのさ」
こうして俺と高渕は岩井という男が仕切っている施設に足を踏み入れようとするのだが……
「待ちなさい」
自分よりも身長が高く、筋肉が発達した一人の女が俺たちの前に立ちふさがった。
「ここはあんたたちのような坊やが来るところじゃないのよ。家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってなさい」
「あいにく、僕はもう乳離れはしている」
「素直に返答すなっ」
クールな返答をする高渕にツッコミを入れる。
「とにかくここはあんたたちの来るような場所じゃないのよ。帰んなさい」
こういう怪しげな施設には黒いスーツにサングラスをかけた長身の男がスタンバっているものだと思い込んでいたが、実際に現れたのはレスリングでもしてそうなほどに強そうな女性だった。
よっぽどのことがない限り俺はビーストを使用しないようにしているからフェンリルを使わずに潜入したいが……どうしたものか。




