第72話
俺の後ろに現れた一匹の虎。
通常の虎よりも一回り大きいその虎は、間違いなくビーストだろう。
「もしかしてお前が俺を助けてくれたのか?」
虎のビーストは返事をしてくれなかった。
「ふん。とんだ邪魔が入ったが、貴様も消し炭にしてくれる。やれ! サラマンダー!」「マンダァァァァァ!」
サラマンダーの吐き出す炎が虎のビーストに襲いかかる。
すると虎のビーストは俺を軽く突き放した。
「うわっ!」
これは俺がサラマンダーの炎に巻き込まれないようにした行為だろう。
しかしそれではあのビーストが火だるまになってしまうのは明白だった。
そうなると思っていたが、そうはならなかった。
なぜならさっきまでそこにいた虎のビーストは、そこにはいなくなっていたのだ。
「なに? どこへ行った?」
首を上下左右に動かして虎のビーストを探す遠藤。
それは俺も同じだった。
ついさっきまで立っていた場所からいなくなるなんておかしい。
もしかして瞬間移動ってやつか? それがあのビーストの能力なのか?
いや違う。
あのビーストは今でも移動している。
完全に見えるわけではないが、あの虎のビーストの残像がちらほら見える。
複数の残像がサラマンダーの周りを取り囲んでいた。
これは目にも止まらぬスピードで移動している。
つまり高速移動こそがあのビーストの能力なのだろう。
俺のフェンリルもスピードには自信があるが、それを上回るほどの速さだ。
「くっ……ちょこまかと!」
これにはさすがの遠藤も困惑しているようだ。
「マンダァ!」
残像の一体がサラマンダーに襲いかかった。
ようやくサラマンダーにダメージを与えることができたが、虎のビーストは高速移動をやめてしまう。
「ふん……どうなることかと焦ったが、長続きはしないようだな」
俺も遠藤と同じことを考えていた。
目にも止まらぬ速さでの移動がそう何秒も続くとは思えなかった。
「だがこれ以上こんな奴と付き合うのはごめんだ。今回は退くとするが次会う時は確実に君たちを殺す。すべてはより良い安眠のために……」
サラマンダーをカードに戻した遠藤はそのまま立ち去ってしまった。
「助かった……のか?」
思わず俺はその場に座り込んだ。
そして虎のビーストの方を向いて一言こういった。
「ありがとな」
それを聞いた虎のビーストはすぐさまその場を立ち去ってしまった。
◆
建物の影。
そこに立っていた者が虎のビーストをカードに戻した。
永一たちの無事を確認した後、その人物はすぐにその場を立ち去った。
「早く彼をなんとかしないと。これは私の責任なんだから……」




