第71話
もうこうなったらやけくそだ!
「お前ら! 速く全力でここから離れろ! こいつは俺が引き受ける!」
「バカ! エーイチ! お前死んじまうぞ!」
チェックが俺のそばに近づいてズボンの裾を引っ張ってきた。
確かに俺も命が惜しい。
本当ならばここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
目の前の遠藤真久という恐怖からいち早く離れたい。
だけど……
「俺はもう、大切な存在が壊れるのはゴメンなんだ……!」
チェックとの出会いは偶然か必然かよくわかんない。最初は生意気な小動物という認識だったけど、今ではいい俺たちのマスコット的存在だ。
陽介とは同じ学校なのに共に過ごすことはなかった。同じビースト使いという繋がりがあったからこそ俺たちは仲良くなっている。
聖来だって同じだ。行きつけの喫茶店であいつと出会って、あいつの作るナポリタンに感動して、しまいにゃ俺と同じビースト使いにまで覚醒しやがった。
あいつらはいい奴らだ。
俺にとってあいつらはいい仲間なんだ。
だからこそ、失いたくねぇ。
俺はビーストに覚醒したと同時に父親を殺し、同時に母親の心を壊してしまった。
俺はフェンリルのことは恨んではいないが、ビーストが俺と母さんの繋がりを断ち切った原因でもあることが確かだ。
俺はこれ以上、ビーストの所為で、かけがえのない存在がどうかなっちまいことが、死んでも嫌だった。
だからこそ、命に代えても、俺がこいつを食い止めるんだ!
「話は済んだかい?」
刹那――
俺のフェンリルは一瞬で灰になってしまった。
これからみんなを守るんだという俺の心意気は瞬く間にかき消されたのだ。
それほどまでに奴の操るサラマンダーの炎が強力過ぎるというのだろうか。
圧倒的に、あっけない。
世界で一番、情けない奴だ……俺は。
「君たちは後でいいだろう。まずは、君からだ」
強制退場してしまったフェンリルがいない今、あいつのビーストを食い止める術はない。
「く……」
未だに俺のズボンの裾を掴んでいるチェックを蹴飛ばした後、俺は後ろにいる陽介たちを守るように、両腕と両足を広げた。
「な、何やってんだよ永一! 早くそいつから離れろ!」
聖来の声が聞こえるが俺は無視をした。
俺が今やるべきはここから離れることじゃねぇ。
ここに立ち止まって、お前らを守ることだ!
たとえ、消し炭になったとしてもだ!
「さっさとこいよクソ野郎! てめぇの炎なんてなぁ! 痛くもかゆくもねぇんだよボケがぁ!」
「永一ぃぃぃぃぃぃ!」
鼓膜が貫かれるのではないかと思うほどの陽介の絶叫が響く。
お前らも俺のことを思ってくれてありがたいぜ。
だが、俺はここまでだ。
後はお前らがこのクソな連続殺人犯を何とかしてくれ。
「あばよ」
サラマンダーの口が開かれ、その奥から真っ赤な炎が俺の全身を焼き包む――かと思ってが、俺は今、サラマンダーから五メートルほど離れた距離の場所にいた。
「へ?」
おかしい。
本当ならば俺はみんなを守るために黒焦げになっているはずなのに、俺の体はなんともない。
少し違和感があるとすれば、襟首を引っ張られて少し息苦しい。
「なんだ、アレは?」
遠藤が俺の方を見ている。
いや、俺ではなく、俺の襟首を引っ張っている存在に注目しているのだろう。
襟首が解放され、俺は動けるようになった。
そして恐る恐る後ろを見てみると、そこには一匹の虎がいたのだ。
「……ビースト?」




