第70話
絶望的だった。
陽介のミノタウロスがやられて、聖来のヨルムンガルドがやられて、そして勝利の要であったチェックのネメアもやられてしまった。
涼しい顔をしながら三体のビーストを強制退場させた遠藤真久という男は、次なる標的を俺のフェンリルに向けてきた。
幸いにも、俺たちを殺すと言っていたが、まだ陽介たちには手を出していない。
ならば……
「お前ら、逃げろ!」
俺の言葉に反応した陽介たちだが、速攻で反論してきたのは聖来だった。
「はぁ!? 何言ってんだよ! お前を置いて逃げれるわけねぇだろバカ!」
「そーだそーだ! そんな真似したら男が廃るし筋肉はもっと廃っちまうぜ!」
意地でもここから離れる気はない聖来と陽介に「バカはお前らだ!」と俺は言い返す。
「あいつは俺たちを殺そうとしているんだ! だったら今俺に矛先が俺に向けられている今お前らが逃げればいいだけの話じゃねぇか! あいつのビーストは確かに強力だ! 俺のフェンリルが対抗しても一秒持つかどうかかもしれない。だからその一秒を使ってお前らはあいつから離れろ! あいつは危険だ、危険すぎるんだ!」
俺は今まで色んなビースト使いと戦ってきた。
うねうねと蠢く触手を操るビースト。
無数に分裂するビースト。
重力を操るビースト。
地面や壁の中を移動するビースト。
口の中からあらゆるものを吐き出すビースト。
どれも強くて勝てそうにない時もあった。
けどなんとか勝つことができたんだ。
それは自分のビーストの力でもあるし、陽介たちの助力があって掴んだ勝利もある。
だからこそ内心舞い上がっていたのかもしれない。
俺たちは誰にも負けることがないんじゃないかと。
俺たちが一番強いビースト使いなんだと。
この遠藤という男が召喚したサラマンダーというビーストの凶悪級に匹敵する強さを目の前にするまでは、調子に乗っていたのかもしれない。
自惚れていたんだ。
こんな時になって「井の中の蛙大海を知らず」ということわざが頭をよぎる。
だってまさにそうじゃねぇか。
俺たちが最強だと思っていたら、俺たち以上に最強、いや、最凶と呼ぶにふさわしい存在が目の前に現れたんだぜ?
勝てっこない。
喧嘩で基本負け知らずな俺でも、本能がそう叫んでいるんだ。
このままでは本当に殺される。
だからこそ今すぐに逃げ出したい。
だけど俺たちが一斉に逃げ出したとしても全員助かる保証はない。
だったら俺一人が犠牲になってでも、陽介と聖来、そしてチェックを逃がす。
ビーストを使えない三人をこの場から離れさせることこそ、今の俺の戦いだ!
「いいから行けぇ! 行かねぇとぶっ飛ばすぞ!」
「どこへ行こうというのだね?」
サラマンダーが陽介たちに目線を合わせた。
「ごるぁ! 蜥蜴野郎! お前の相手はこっちだ! そっち向いてんじゃねぇ!」
俺はフェンリルにサラマンダーに攻撃するように指示した。
一気に間合いを詰めて自慢の爪で胴体を切断する勢いで思い切り腕を振ったのだ。
しかしその攻撃はかわされてしまう。
くそ! 攻撃だけじゃなくて、反射神経も俺たち以上ってことか!
「邪魔をするな」
サラマンダーが口から真っ赤な炎を吐いた。
対して俺のフェンリルも素早く回避するが、若干間に合わなかったようだ。
俺のフェンリルの片腕が、焼き消されてしまったのだ。
「フェェェェェン!」
「な……!」
さすがミノタウロスやヨルムンガルドを一撃で強制退場させてしまうほどの威力だ……と、感心している場合じゃねぇ。
フェンリル自慢の武器の片方が消されちまったんだ。
あいつらを逃がすための時間稼ぎ、本当にできるのだろうか……?




