第68話
「使い込んでいる? それはどういうことだ?」
ビーストを使いまくっていることと、チェックが一人で立ち向かわなかったことになにか関係でもあるというのか。
「これはまだ説明していなかったと思うが、ビーストっていうのは使えば使うほどビースト自体の力が強化されていくもんなんだ」
そんなことは初めてだった。
「使えば使うほど強くなるか……例えるならあれだな、筋肉だな!」
陽介が自分なりの解釈を見つけたようだ。
陽介の比喩にチェックも「まぁ大体合ってる」と首を縦に振った。
別の例えを出すならRPGのようなものだろうか。
敵キャラを倒すと経験値が手に入ってレベルが上がる的な。
「ビーストを使えば使うほどっていうけどさ。私たちだって結構ビーストを使っているよな?」
確かにそうだ。
俺たちだってチェックと出会ったことでビーストを召喚する頻度が上がっている。
チェックの言っていることが正しいのなら、俺たちのビーストも何か変化があるはずなのだが……
「変わったことと言えば俺のフェンリルが必殺技を身につけたぐらいだが?」
「それはエーイチ自身が覚えさせただけであってフェンリル自体に力がついたわけじゃない。猿に玉乗りを教えたからって、その猿がゴリラに勝てるわけじゃないだろ?」
「なるほど……」
「確かにお前たちのビーストも召喚回数が増えているだろう。しかし昨日見たあいつのビースト。十年か二十年以上は頻繁に召喚を繰り返していると見たぜ。お前らとは召喚している回数が断然違うのさ」
「二十年以上……」
俺は喧嘩をする時はビーストの力を使用することはない。
基本的に殴るか蹴るかグラビア雑誌を丸めて叩くかぐらいで決着がつくからビーストは必要としていないのだ。
実際に俺がビーストを召喚するなんてことは自分の身の危険があった時ぐらいだ。
父親を殺してしまったその日以降はよっぽどのことがない限りフェンリルを召喚することはなかった。
だからチェックと出会うまではフェンリルを召喚することなんて年に一、二回あるかどうかだ。
陽介は幼少時にビーストカードを手に入れていたが、自分自身そのことを忘れていたようなので俺と出会う以前からミノタウロスを召喚することなんて皆無に等しいと思うし、聖来のヨルムンガルドは最近になって入手したビーストだから、召喚回数なんて10回も満たないはずだ。
「そんなにやばいのかよ、そのビーストは」
俺たちとずいぶんな差があることを前もって教えてくれたチェックに聞いてみる。
「間違いねぇ。お前ら三人のうち一人が戦いに行ったとしても返り討ちにされるのがオチだ」
「それだけじゃねぇ」とチェックはさらに続ける。
「相手はなぁ、簡単に人間を殺しちまうとんでもねぇやつだ。殺人という行為になんの躊躇も迷いもねぇ」
「んだよそれ、サイコパスってやつじゃねぇか」
「できることならそんなとんでもねぇ頭をした奴とお前たちを戦わせたくないが、ビーストカードを回収するためには避けて通れない道なんだ。だからこそあいつと戦うことになったら俺たち四人であいつを仕留めようと考えている」
「相手の力の力量は未知数。だったらたしかに大勢で向かっていった方がいいのかもしれないな」
こうして俺たちは最善の準備をして、殺人野郎と対面すると心に決めた。
◆
そしてやつ、遠藤真久は今、俺たちの目の前にいる。
「私が君のお兄さんを殺した? ……ふむ」
聖来が見せている写真を見ながら、遠藤は手を顎に当てて少し考えたが、首を左右に振った。
「一体誰のことだがわからないな」
「ふざけやがってこの野郎!」
聖来が飛び出した。
思い切り殴りかかるが、遠藤はそれを回避する。
そして奴はそのまま聖来の片腕を掴んだ。
「ずいぶんと血の気が多い女の子だ。最近の女子高生はこんなにも凶暴なのかい? そんな態度じゃ将来いいお嫁さんにはなれないよ?」
「てめぇ! 離しやがれ!」
南高で恐怖のスケバンと恐れられている聖来だが、大人の男の腕力には敵わないのか。
「おらぁ! 離しやがれ!」
そこへ駆けつけてきたのが陽介だった。
陽介は遠藤の腕を強く握った。
「くっ!」
さすが筋肉バカの陽介だ。
さすがの遠藤も自分よりも強い握力には勝てなかったのか、聖来の腕を放した。
「陽介! そのままにしていろ! 俺が一発痛いのをお見舞いしてやらぁ!」
そして俺が顔面に一発パンチをお見舞いしてやろうと一気に近づこうとしたが、腹部に衝撃が走った。
「く……」
遠藤が俺を蹴ってきたのだ。
「まったく。暴力沙汰は嫌いなんだが、素行の悪い少年少女三人に囲まれたとあれば正当防衛も適用されるでしょう」
そういいながら遠藤は裏拳で陽介の顔面を殴った。
「うぐっ……」
鼻を抑える陽介を横目に「それよりも……」と遠藤は話を続ける。
「君たちはずいぶんと私にストレスを与えてくれたね? 急に殴りかかってくるわ、兄殺しの汚名を着せてくるは、腕は掴まれるわ……おかげで今晩ぐっすり眠れるかどうかわからなくなってしまったではないかぁぁぁぁぁ! この責任はしっかりと取ってもらうぞぉぉぉぉぉ!」
怒り狂った遠藤は右手から一枚のカードを出現させた。
「てめぇ! やっぱりビースト使いか!」
「ビースト、よく知っているね。これはいい道具だよ。私の身に降り注ぐ様々な不安や恐怖を払拭してくれるからね! この力で君たちもこの世から消してやるよ! すべては安心で快適な今夜の睡眠のために! |いでよ! 蜥蜴のビースト(コール・ザ・サラマンダー)!」




