第67話
それは、何の前触れもなく訪れた。
その日は喫茶・安心地帯で好物のナボリタンをすすりながら新手のビースト使いが出現しないことに安心を感じていた時だ。
ついこの間、薬島博美という昔世話になったシスターとの戦いで俺は両手を大火傷してしまったのだ。
火傷については中林のユニコーンの力でなんとか回復できたが、昔よくしてくれたその人が犯罪に手を染めてしまったというショックから立ち直るには時間がかかった。
そんな俺に気を使ってくれたのか、聖来がナポリタンをおごってくれたのだ。
聖来の特製ナポリタンをすすることにより、俺の心のショックは少しずつ回復していたのだが、そんな時に現れたのはいつか見た顔の奴だった。
「…………」
その時外は雨が降っていたのだが、そいつは傘もささずに俺の目の前まで近づいてきた。
その顔はとても暗く、博美さんが捕まった時の俺よりももっと深い絶望を抱えたような顔だった。
「お前……」
「永一、知っているのか?」
陽介がそう言った。
「ああ」
俺の目の前に現れた男は、ずっと前に俺に喧嘩を売ってきた三人組「舞炎隊」と名乗る奴らの一人だった。名前は確か……武内鉄男という名前だ。
「どうしたんだよ。ずぶ濡れじゃねぇか」
全員雨水だらけの体などお構いなしに、武内は俺の肩を掴んできた。
ここでやりあう……つもりではなさそうだ。
なぜなら掴まれた肩には力がまるで感じられないからだ。
「あ……あああ……」
武内が小さく口を開いて何かを呟いている。
「どうしたんだ?」
「う、ううう…………」
なんと武内は泣き始めてしまった。
俺は何もしていないのに、他にも客がいるにも関わらず男は涙を流し始めたのだ。「おいおい! 落ち着けって! な?」
俺も武内の両肩を掴んでなんとか慰めてみる。
鼻をすすって俺の方を見た武内。
「一体何があったんだ?」
俺の問いに武内は枯れそうな声で呟いた。
「尾坂さんが、死んだ……」
◆
尾坂という男は、以前俺に向かって銃弾を発射してきた上級国民を名乗るクズ野郎だった。
そんなあいつが先日、亡くなったという。
奴の死因は謎の焼死だった。
全員が黒焦げにされて、遺体は路地裏にあったらしい。
警察は犯人を捜しているが未だに目星がついていないらしい。
なんでも証拠となるものが一つも出てこないとのことだ。
証拠がないとそれを手掛かりに犯人を捕まえることができない。
この事件がきっかけで、しばらく町の小学校では集団下校が行われ、俺たちの高校でも寄り道をせずに帰宅するように命じられた。
そんな中一人だけ堂々と外出をしようとする奴がいたのだ。
「落ち着け聖来」
「速やかに帰宅をしなさい」という教師の指示を完全に無視して俺と陽介は商店街にいる。
その途中、商店街中を走り回っている聖来を見かけたので止めに入った。
「これが落ち着いてられるかよ! 焼死体だぞ! もしかしたら……」
そう。死んだ聖来の兄も焼死体で見つかったとのことだった。
もしかしたら今回の事件の犯人が、聖来の兄貴を殺した犯人と同一人物かもしれないと聖来は考えているのだ。
警察の捜査が難航している中、たった一人でも先に犯人を探し出して仇を討とうしているのだろう。
「まーまー気持ちはわかるけどよぉ聖来。ポリ公でも悪戦苦闘しているのにお前がどうやって犯人を捜すって言うんだよ」
筋肉バカの陽介にしてはまともな意見だ。
「そ、それは……」
珍しく聖来はしゅんとしてしまった。
しかしこれで躍起になっていた心も少しは落ち着いたようだ。
「手がかりならあるぜ」
どこからともなく声がしたが、俺たちにとってはもう慣れたもんだった。
「チェック」
神の使いであるウサギが俺たちの前に現れたのだ。
「オレっちもいろんなところを見て回ってビーストに関する情報を集めてはいた。そしたら昨日とんでもないものを見ちまったんだよ」
「とんでもないものって?」
「ああ。ビーストの力で人を殺していたんだ」
「「「!!」」」
チェックのこの一言によって俺だけでなく陽介と聖来も絶句してしまった。
「そのビースト使いの特徴と行動パターンも調査済だ。顔もしっかり覚えているし、名前も知ってるぜ」
「そうかでかしたぞチェック! けどよ、犯人がわかっているならなんでお前がなんとかしねぇんだよ」
チェックは神の使いであると同時に俺たちと同じビースト使いだ。
ネメアというどんな攻撃も反射する能力を持つビーストを所持している。
その力さえあれば対抗できるはずなのだが……
「それについてはちゃんと話すつもりでいた。確かにオレっち一人でもなんとかできたかもしれなかった。ただ相手は非常にビーストを使い込んでいやがったんだ」




