第62話
「ふむ。いい出来だ」
手作りの椅子に昨日購入したペンキを塗って色をつけてあげた。
我ながらいいできた。
せっかくだから写真を撮ってみようではないか。
ちなみに私はSNSというものをしていない。
なぜならSNSもまた私の安眠を妨げるきっかけを作る可能性があるからだ。
たとえば私がなにか写真や文章を投稿したりしてみよう。
それがきっかけで悪口を言われたりすることがあったりすれば、それがストレスとなって私は落ち着いて安眠ができなくなってしまうというわけだ。
そうならないために私はあえてSNSというものには触れようとしないのだ。
そもそも遠距離から悪口を放つということ自体が気に入らない。
伝えたいことがあるのであれば直接言えばいいのに、インターネットという防壁に守られながらでないと自分の内を打ち明けることができない連中にはほとほと呆れる。
「さて、今日の夕飯は何にしようか」
私は自分で食事を作ることができる。
一人暮らしでの生活が慣れているので包丁さばきはそこらへんの主婦にも負けない自信がある。
「なんだか、無性に……ムニエルが食べたいなぁ」
頭の中でふと思いついたもの今日の献立にすることがほとんどだ。
冷蔵庫の中身を見て「これでなにができるだろう」なんてことはあまりない。
その日のうちに閃いた料理をその日のうちに買って調理し、そして私はそれをいただくのだ。
さっそく近所のスーパーに行って買い物にいこうじゃないか。
車で行ってもいいのだが、今回は徒歩で行くことにしよう。
移動手段を車ばかりに頼ってしまうと足の筋肉が衰えて最終的に歩けなくなってしまうかもしれないからな。
それに適度な運動は心地よい睡眠を促すきっかけにもなるのだ。
歩いて10分のよく行くスーパーにたどり着いた。
昨日行ったホームセンター程の広さではないが、セールをやっていたり夜になると一部の商品に半額シールが貼られて買いやすくなったりするから私は好んでこのスーパーにあしを踏み入れる。
今回購入する食品はサーモンだ。
それと野菜や牛乳も買い物かごの中に入れて、レジへと向かう。
そんな時、耳を貫かれるような大きな声が店内に響いた。
「おいクソ店員! この弁当に髪の毛が入ってたんだぞ! 何考えてんだ! あぁ!?」
「も、申し訳ございません……」
ものすごい剣幕で怒鳴る中年の男。
それに対し頭を下げているのは女性店員だ。
「申し訳ございませんじゃねーよ! 土下座しろよ土下座!」
「…………」
ああいうのを見ると心が痛くなってしまう。
確かに商品に髪の毛が入っていたのは店側の責任だろう。
しかしだからと言って土下座を強要するのはどうかしている。
「……むぅ」
心に亀裂が入り、イライラが増してくる。
せっかくムニエルを食べたいという気持ちがどこかへ行ってしまったではないか。
そして何より。
今夜の睡眠の妨げになりかねないほどに、腹が立つ。
「ちょっとすみません」
私は怒鳴り散らかす中年の男の肩を掴んだ。
「あぁ? なんだよお前?」
怒りの矛先が一瞬にして私に向けられた。
寄せられた眉間がイヤというほどに目立つ。
私だってこういったトラブルに首を突っ込みたくはないのだが、今夜の安眠のためだ。
「少し、よろしいでしょうか?」
◆
結論から言って問題は解決した。
ああいう輩は今後も出てきてほしくないものだ。
それにしても今日作ったムニエルが実にうまくできた。
我ながら美味だった。




