第61話
今日は休日である。
ホワイト企業勤めの私に土曜日や日曜日に出勤する都合などなく、一般的に快適な羽休めを楽しむことができる。
今日のスケジュールは隣町へドライブだ。
先日DIYで作った手作りの椅子が完成したので、せっかくだから色をつけようと考えたのだ。
どうせなら隣町にある大きめのホームセンターへ行ってペンキを購入し、おしゃれなカフェで昼食を取り、絶景スポットを眺めた後に帰宅し、風呂に浸かり就寝する。
それが今日のスケジュールだ。
「では、行くか」
そう言って私は車のエンジンをかけた。
ドライブは好きだ。月に一度は愛車に乗ることがある。
車を転がしておよそ30分。隣町にたどり着いた私はお目当てのホームセンターへと足を踏み入れた。
お目当てはもちろんペンキだが、ホームセンターといった大きい規模を持つショッピングセンターに足を踏み入れるとなんだかいろんなものを見たくなってしまうもので、ついつい10分以上は店内を歩き回ってしまう。
これではスタッフに迷惑をかけてしまうのではないかと思った私は目的のペンキだけを購入し、さっさと店から出て行った。
さて、この後はランチだ。
私が勤めている会社の女性社員がここの近くにあるカフェでランチを楽しんだという噂を耳にしたことがある。
女性の好みが果たして私に合うかどうかはわからないが、せっかくだから行ってみようではないか。
こうして私はホームセンターを後にした。
道路の上を走り始めて数分後にそれは後ろからやってきた。
やたらとクラクションを多く鳴らす車が迫ってきているのだ。
私はいたって普通の運転をしているつもりなのだが相手が不快な思いをしているのであれば知らず知らずとはいえこちらに否がある。
なので私は道路の左端に車を一時停車して、後ろの車を譲ってやったのだ。
後ろの車が通り過ぎたのを確認した後、私は再び車を前進させるが、この後もかなりやっかいだった。
なんとさっきの車が今度はブレーキとアクセルを交互に繰り返して私の進行を妨げようとしているのだ。
いつ衝突してもおかしくはない前の車の運転は、私の心に緊張を与え続けた。
「っ…………」
もしぶつけてしまったらとか、もし相手を怪我させてしまったらとか、ネガティブな思考が頭をよぎる。
「なるほど、これが巷に聞く『あおり運転』というものか」
前の車がコンビニの駐車場に入っていったので、私はその車の後を追った。
コンビニ自体に用はない。用があるには私に不安と不快を与え続けているあの車の運転手だ。
「ちょっとすみません」
私は相手を驚かせないようになるべく小さな声で呼んだ。
「なんだよ」
車から降りてきたのはドレッドヘアーのチンピラ男だった。
助手席には恋人らしき人物が乗っている。
私の存在を面倒に感じているのか軽く舌打ちをしたのが少し見えてしまった。
「あなたのさっきの運転は見るに堪えません。もう少し穏やかに運転をしてはいかがですか?」
相手を逆上させないようになるべく穏やかな対応を試みるが、私は相手の男に腕を掴まれ、コンビニの影に連れていかれた。
そして壁に叩き付けられた後、胸ぐらを掴まれる。
「あんだよテメェ? 俺のドライビングテクニックに文句あるのか? あぁ!?」
すごい剣幕だった。唾が顔全体に飛んできたではないか。
助手席に座っていた女性も面白く感じたのか、私と男の様子をスマホで録画しているようだ。
まったくもって趣味が悪い。
「けっ! エラソーに説教しやがって! せっかくのドライブが台無しだぜ! なぁハニー?」
「そーよそーよ! ダーリンの言う通りじゃーん! やっちゃいなよ! ボコっちゃいなよ!」
「はーい愛しのハニーからのボコリタイムリクエストを受注いたしましたー! 俺たちに文句言ったこいつを今からボコボコにしまーす! ギャハハハハ!」
「…………」
なんとも下品な笑い方をする男だ。
◆
結論から言って問題は解決した。
せっかくの休日だというのにあんな連中に出くわしてしまうとはなんとも不運な日だ。
だがやっかいな相手がいなくなったことはいいことだ。
今日もよく眠ることができるぞ。




