第57話
「いてててて……」
セベクが吐き出した風によって地面を何度もバウンドしながら転がされた俺はあちこち痛む体を無理やり立たせた。
どうやらあのビーストは石や鉄だけでなく、風なんかも吸収してしまうようだ。
それなら水や炎さえも飲み込んで、いつでも吐き出せるに違いない。
石を連射するマシンガンみたいなものだと考えていたが、吸収したものによっては強力な水鉄砲や火炎放射器などにもなりえるということか。
「厄介極まりないな……」
「だが、手段がないわけじゃない」
ガルーダの背中に乗ったままの高渕がゆっくりと俺のそばまで降りてきた。
「様々な攻撃方法や防御策を持っていることは確かだが、こちらにも策はないわけではない」
「なんだよそれ?」
「相手ビーストの力の鍵はズバリ口だ。口さえ塞いでしまえば相手は吸収することも、放出することもできない」
「出入口を塞ぐわけか。その間に攻撃をすればいいわけだが、それには相手にだいぶ近づかないとダメじゃないか」
「当り前じゃないか。期待しているぞ」
「待て待て! なんで強制的に俺が口を塞ぐ係になってんだよ!」
「君は馬鹿か。ガルーダには腕がないんだ。腕がないビーストでどうやって口を塞ぐというんだ?」
「確かにそうだけどムカつく! お前の言い方ほんっとムカツク!」
「わかったらさっさと行け。口を塞いだら僕が必ず強い一撃を相手に与える」
「はいはいわかったよ!」
「はいは一回で十分だ」
「るせー!」
血管がぷつんと切れる寸前の状態をなんとか自我で押さえつつ、俺はフェンリルに跨って高渕の言う通りに行動することにした。
目標はセベクの口だ。
「なにをしようと、無駄よ!」
博美さんの一言でセベクは再び口から大量の岩を連射してきた。
しかもさっきよりもほんの少し岩のサイズが大きい気がする。
おかげで当たりやすくなっているし、受けるダメージも増えるわけだ。
「くそっ!」
近づくに近づけない状態だ。
あんな岩一発でも当たったら速アウトに違いない。
だがその代わり岩が発射さられる尺が少し長くなっている気がする。
さっきまではマシンガンのごとく連射されていたが、発射するものが大きくなったことによってスパンが長くなったのかもしれない。
うまく見切れば一気に近づけるかもしれない。
俺はフェンリルにしがみついて右へ左へとジグザグに移動し、相手がどこに狙えばいいかかく乱させる作戦に出た。
「く……ちょこまかと!」
博美さんが焦っているうちにセベクの間合いに入った。
「おりゃ!」
俺はフェンリルから飛び降りて、セベクの下顎に潜り込んだ。
「フェンリル! お前は上を押さえろ!」「フェェェェン!」
俺は重いものを持ち上げるがごとくセベクの顎を持ち上げて、逆にフェンリルはセベクの上の口を抑え込んだ。
「よし! これでこいつの口を封じたぜ! もうお得意の発射攻撃は不可能だな!」
「ふふふ……それはどうかしら?」
力いっぱいセベクの口を押えていると、だんだん両手が熱くなってきた。
力の入れすぎによる熱さなのかと思ったがそうではなかった。
両手が熱いもので包まれているようで、ヒリヒリと皮膚が痛む熱さだ。
「あつぅ! ってこれお湯ぅ!?」
俺とフェンリルが塞いでいるセベクの口。
そのわずかな隙間からたらたらと熱々の熱湯が垂れ流れていたのだ。
まさかこのようになった時のために対策として熱湯もセベクの口の中に入れていたというのか!?
「あちちちちちち!」
セベクの口の中は温度さえも変えることなく収納することができるらしい。
皮膚を傷めつけている熱湯はやかんで熱くなったばかりのお湯と同じぐらいの温度なのだ。
今すぐにでもこのセベクの下顎から脱出したい思いだが、ここから離れればまたあの岩攻撃が俺たちを襲うことになる。
「おい! 高渕ぃ! もたもたしてないで早く攻撃しろぉ! 俺の両手が真っ赤になっちまう!」
「君にしては上出来だ」
ガルーダの背中の乗ったままセベクに向かって下降しながら急接近してくる高渕。
狙いはもちろん俺が必死になりながら口を抑え込んでいるセベク本体だ。
このまま突進してセベクに大ダメージを与えるつもりだろう……そう思っていたがガルーダはセベクの上を通過してしまったのだ。
「おい! どこ行くんだよ!」
両手の痛みを我慢しながら俺は吠えるが高渕は返事をしてこない。
「あはははは! どうやら一人だけ逃げてしまったようね?」
「いいやシスター。僕の狙いはビースト本体ではなくビースト使い本人さ」
「へ?」
セベクの上空を通過したガルーダに乗っていた高渕はやや高い上空にも関わらず地面に向かって飛び降りた。
着地した場所はシスターの背後だった。
「許せ」
トンと博美さんのうなじに手刀を入れた高渕。
すると博美さんは瞬く間に気を失ってしまったのだ。




